師匠と私 毒を喰らわば
C&Y(しーあんどわい)
師匠と私、のお話である(゚∀゚)
私は男の趣味が悪いな。
すぐそばにある顔を見ての、何とも微妙な考えが浮かぶ。
何故なら、その男は自分の師匠であるし、さらに言えば説教の途中でもある。
ましてや趣味云々と言うことは、相手に好意を持っている前提で。
つまり、この爬虫類面の陰気な年上の男を、私は好きなのである。
嫌な事を知ってしまった。絶望である。
なぜ、絶望するかと言えば、この男は所謂、拗らせ系の面倒くさい性格な上に、病んでいる。
リアルヤンデレとかマジで絶望した。二度言ってしまうが、私は静かにパニックである。
病みと言ってもご存じの通り、体が病気なのではないアレだ。
そんなの美少女限定である。
あぁ、嫌いじゃないよ、嫌みで陰気で皮肉屋な性格。ツンデレ乙である。
師匠は、誉めて伸ばす事はしないけど気配りの人だしな。
まぁ、最悪のサド野郎は別にいるのでそれに比べたら、まだ許せる。
ヤンデレつーだけで、人としてはイタイけどな。
..ヤンデレなぁ、現実に特定の女に対する粘着はアレだ。
まぁ、下僕だから良いのか?
うわぁ、引くわ。
そして、自分にもドン引き。
初恋は拗らせると病むという、まぁ、半端無いアホになるアレ。
が、そうブーメラン…。
残念、つまり、この男はダメなのであり、尚且つ私もだ。
好きになると、面倒くさい事に私も巻き込まれる上に、想いは伝わらぬのである。
絶望した、もう部屋に帰って寝たい。
「聞いているのか、楓」
聞いてないです師匠、今、絶望しているのですよ。
「理由は把握しているが、先に手を出してはならん」
うーっす。(゚∀゚)
「何事も相手の動きと状況を見極めてから、こちらも動くのだ。最初から手を出してはならん」
師匠の得意技ですね、はいはい。
「いつも思うが、きちんと言葉に出して人の話をだな」
あぁ、今日の朝御飯はなにかなぁ。
「..話を聞かぬ馬鹿弟子は、飯抜きだ」
「師匠、ご指導ありがとうございました。アレンの奴等を殴る時は、如何にもやられたから遣り返す感じで隠蔽します、はいはい。」
「…」
なんでそこで眉間にシワがよるのさ師匠。
私の絶望は深いのだ。
***
師匠に拾われたのは七歳位だ。
死体ゴロゴロの焼き討ち後から見つかった村人その一だ。
頭がパーになったらしく、それまでの記憶が無い。
代わりに何だか妙な人格ができたらしく、私は誰かの人生を思い出した。
前世とか?よくわからんが、私はゴロゴロ死体があるあの日から生まれたらしく、図太い大人の女が宿ったわけだ。
もちろん、そんな事はおくびにも出さず、師匠の所属する家に飼われる事となった。
この島国には、権力を握る家が幾つかあり、それに所属する護衛というか軍隊がある。
家に仕える武士ってやつかな?
師匠は、バルザック・カドモン家の護衛である。
師匠、サイモン・ハウアーは、当初は私の師匠ではなかった。
私のような孤児を集めた養成所では、たくさんの先生が集団を指導する。
だが、私は戦闘職とか無いわー、とばかりにドロップアウトを狙った。カドモン家は比較的常識があるのでドロップアウト、即処分ではなく普通の職に変えてくれるのだ。
目指せ調理場、料理人!
と、思ったのだが、私が飼われた時期が悪かった。
指導者のトップが、選民意識バリバリの若造に変わったのだ。
私は、島の中でも少数民族である。
あの死体がゴロゴロも、虐殺の後だ。
師匠は、無能を嫌うけど人種も性別も気にしない。どっちかって言うと、好き嫌いが激しい癖に、選民意識とはちょっと違うのだ。
ところが養成所のクソは、私が少数民族であるから、無能でただ飯を食わせる意義が無いと言う。
顔見ただけで。
んで、絶対落ちこぼれたら、殺されるのがわかった。
それもおえっとなる方向での嬲り殺しだ。
だって、野郎、どうみても重度のロリコン臭かった。
七歳の女の子にマジでプレッシャーかけて興奮してるんだもん。クソ死ねとこっちも思った。
一応、人目があり複数のまともな教師がいたからスルーできた。でも、時々、クソが一人になるのを待ち構えてたりすると最悪だ。
まぁ、私は良いんだけどね。
なにがって、当時、私は七歳相当の見た目だけれど、中身の大人?化というアドバンテージと共に、異能があったから。
島の少数民族の迫害の元である異能。
超能力に近いかな、私の場合は怪力。
鬼神力つーらしい。
だから、クソのナニを捻り潰すぐらい簡単である。
が、それは私だけの話で、当時、仲良くしてた女の子が嫌な目にあったので、私は本気でクソをシメタ。
まぁ、やり過ぎてクソがゴミになった。
クソでも家の親族だったので、私は処分されそうになった。
んで、師匠登場、私のセンセーになる。
師匠は、混血である。
大陸人と島の家の血が半々。
大陸人は魔術が使えるらしい、スゲー。
んで、師匠もちょこっと使える、スゲー。
私の異能が自分と同じく利用価値があると主張して引き取った。
師匠曰く、クソは師匠の所属する勢力と対立していたので、私を拾い上げたらしい。
なんで一応恩人である。
イイ人かワルイ人かと言えば、師匠は真っ黒である。
バルザック・カドモンの私兵で暗殺者は、師匠だけである。
サイモン・ハウアーはカドモンの暗殺者。
つまり、楓は暗殺者の弟子である。
唯一の、まぁ、なり手がいないのもある。
不人気職ナンバーワン。
師匠は毒薬使いなので、勉強もしないとダメなのである。そして、養成所の九割は脳筋族である。
頭の良い子は、家でも高等教育を与えて医者にしたり学者にしたりするので、師匠の弟子になる子はいない。
そして、唯一の弟子は脳筋族である。
師匠の眉間にシワが定着しそうだ。
***
んで、今日もヤンデレのベクトルは、第二夫人のエリアス様にぶっ刺さっている。
幼馴染みで当主の第二夫人、当然、儚げ美人である。
設定盛りすぎだろ、ちなみに、すんげークソその2である。
野郎だったらとっくにシメてる。
意地悪つーか根性がどす黒い。
狡猾なんじゃない、とにかく嘘つきで他人を陥れるのが好きなサイコパスである。
悪口?
うんにゃ事実だもん。
これでも弟子は優秀である。
なので第一夫人の三番目のお子ちゃまの護衛である。
このサイコパスからの嫌がらせを華麗に排除してるの私だもんね。
三番目のお子ちゃまはミルドレットお嬢様。
私より三才下の12才、これがもう生意気で可愛いのである。
もう、ワタクシ大人ですのよーとか、言いながらも内緒で遊んであげるとノリノリなところとか。本当は当主のパパが好きすぎてつんつんしてるところとか。
「えぇ、最近ソーレル家のニダ様が、カドモンよりも先に中央へ向かいましたの」
「まぁ、なんて事!我が家が順番ではなくて?」
「ミルドレット様からネラル様にお知らせした方がよろしくてよ」
何の話か意訳。
サイコパス、チョロイ三女発見、すかさず噂話を囁く。
お前、暇そうに午後のお茶してるから、ターゲットな。
嘘教えるけど、わかるかなぁー楽しいー。
さてと、あんたのパパが虚仮にされてるの、プークスクス。
ママに言ってやれ。ちなみに私が言ったんじゃなくてお前が告げ口な。
そんでママから余計な口出しをパパに言ったら、おもしれー。
まぁ、お前のママ、引っかかる訳ねぇけど。一応な!
因みにソーレルのババァは、中央議会に呼ばれての召集で先乗り一番じゃねーから。
...意訳終了。
こんな感じで、当主と第一夫人の仲を悪くするのを、日々ナチュラルにこなす。物理も時々、頭上から落下物もある。
ただし男の前ではやらぬ。そして、幼馴染みの師匠は目が腐ってるので、目撃しても信じない。サイテー。
まぁ、このくらいなら護衛は無言である。
これも所謂勉強で、サイコパスの精神攻撃位捌けなければ、家の中では生きていけない。第一夫人は、ちゃんとわかっているからね、このまんまママに言ったら、普通にお仕置きである。サイコパスも、笑顔で私を見ているところからすると、その辺はわかっているようだ。笑顔のまま、人を殺せるヤツはコエーよなぁ。
「あら、そうでもなくてよ、うふふ」
時々、こっちの考え読むとか、こいつ早めに始末したいが、師匠がクズを好きすぎてムリだった。
先に師匠に殺されるわ、絶望した。
師匠とカドモンは親戚であり、この女も一族だ。
幼馴染みで、彼らは一蓮托生である。
「サイモン、貴方の弟子は面白いわね。こんな子供みたいなのに大理石の彫像を片手で持てるなんてビックリよ」
「あの時は、お目汚しを失礼しました。護衛が助けられるなど言語道断。エリアス様にお怪我が無いとは言え、全く。」
いや、師匠。
大理石の彫像がお嬢様に降ってきて、片手で対処したのは、このサイコパスがわざとよろけて、私を引っ張ったからだよ。
私を助けたように見えるけど違うから。
そんでも、踏ん張ってお嬢様を抱えて、クソを振り払ってからの、物理で押し返すとか、良くできたよ。
マジで目玉腐ってんなヤンデレ。お嬢様の半身マッシュポテトとか、笑えねーから。
「ねぇ、サイモン。この子、私の所に頂戴な。なかなか面白そう」
ぎゃー、やめろサイコパス。
「ダメです、楓は私がお父様から頼まれたんですもの、エリアス様には、アレンゴダールとか、優秀な護衛がいっぱいいますでしょ、楓には私が色々教えてあげないと駄目なのです」
と、言いつつお嬢様なみだ目。かわいいわー。
「エリアス様のお望みを叶えたいところではございますが、モルーンの復帰までは、この配置を」
モルーンは、女性の護衛。
現在、出張中である。
女性護衛は数が少ない。かといってお嬢様はゴリゴリの強面だと泣く。んで、お嬢様が萎縮しないのは、曲がりなりにも性別女子の私しかいなかった。女子の護衛で肉壁担当になれそーなのが私だけなのもある。
文字通り肉壁..
石像落下してくる職場ってどーよ、つーかモルーン帰ってきたら、私、逃げるしかねーじゃん。
こんな日常だが、それなりに私は呑気に暮らしていた。
それはこの配置にしてくれた師匠のお陰だ。護衛のみに当てられてるし、お嬢様は、一番狙われにくい立場だからね。
ほとんどお嬢様と一緒にいるから、現場には出ていない。
鍛練、お嬢様、勉強、お嬢様、鍛練ってな具合で、誰かを殺すとか、何処かの家を燃やすとか、商人誘拐するとかは、しないですんでる。
犯罪?
まぁ、この島は戦国時代なのさ。
殺し殺され、裏切られ、殺伐とした日常が当たり前って訳ね。
生き残るためっていう大義名分が救いである。
***
さて、師匠と言えば毒薬である。
もちろん、師匠は医術に薬学にと知識があるので、毒だけではないのだが。
仕事柄、毒を利用するので毒薬使いという認識をされている。
家の護衛筆頭のグループは、そんな師匠を邪道で軟弱と誹謗中傷する。護衛隊長のホルスタッド隊士の誘導だ。こいつもサイコパス信者で、イイ人面したサドである。爽やかそうな顔した虐めっ子だな。
妬みとかサイコパスの為とか幼馴染みの因縁とか、よくわからんがサドとヤンデレは仲が悪い。
サドは爽やかな細目の面したイケメンで、表面上は優しげである。お陰でヤンデレの陰気な雰囲気が、弱そうに見えるのかもしれない。
師匠は細マッチョだよ、そして剣の腕はスゲーよ。だから、サドも正面きっては喧嘩しないのさ。
でも頭の悪い隊士、アレンとかアレンの仲間とかは、サドに乗せられてバカにしてくる。
本当に脳筋はバカだよねー..自分もかっ!
一人乗り突っ込みをしているのは、この間ムシャクシャして殴ってやったアレン達と一緒に、お嬢様の御使いに同行するからだ。面倒臭いなぁ。
お嬢様にお付きの女官、んで護衛の私が馬車。
乗り込む時にもアレンのジャガイモ隊が睨んでくる。うぜぇ。
何でジャガイモか?
養成所の炊事当番で、アレンとその仲間はジャガイモ担当だったから私が命名した。殴りあいの結果ですがなにか?私、勝った、お前、負け犬な!
***
..
...
...
私はバルザックの遺体を寝台に丁寧に横たえた。
カドモン家を第一子に引き継がせるには、バルザックは殺害されたと言う事にしなければならない。
この群島諸国を支配する家の頭領に許される死とは、病死か戦死のみだ。
割腹も理由によっては、継承に禍根を残す。
今、バルザックが死ぬと、カドモンは終わる。
少なくとも、バルザックの叔父に権力の移行が行われれば、更に少数派の虐殺が横行するだろう。
なぜ、今、死んだのだ、バルザックよ。
死んだ幼馴染みを詰る。
「貴方が死ねば、解決するわよ。サイモン」
死んでくれる?
晴れやかな表情のエリアスの言葉に、私は。
..
...
...
***
御使いから帰ったら、師匠が逮捕されてた件。
更に、当主死亡で当主叔父のファデイニ家がでばってきた件。
びっくりしたので、お嬢様は第一夫人実家にお届け、カドモン家がどうなっているのかを見にジャガイモ達と戻る。
んで、山場は終わってた。
当主殺害容疑で師匠は裁判無しの処刑決定。
ファデイニ家が乗っとる気満々で来たけど、第一夫人と長子が頑張ってるところ。
ちゃっかりサイコパスは当主叔父のご機嫌をとってヘラヘラ。
弟子の私は拘束、で、目の前にはサドに拷問も受けずに無事に捕縛された師匠がいる。
「研究室にある観察中の薬品は、乾燥に対しての感受性が」
師匠は通常運転だった。
研究途中の品々の事や引き継ぎを淡々と私に告げている。
そして私は相変わらず別の事を考えていた。
「師匠、毎日アレ飲んでますか?」
私の言葉に、師匠は片眉を上げた。
「お前は飲んでるか?私が居なくなっても飲むのだぞ」
それに頷くと師匠は珍しく笑った。
笑うと、この人は子供のような素直な表情を浮かべる。
「お前だけだ。アレを飲んで旨いと言い。良い匂いだと言うヤツは」
「師匠、師匠からも同じ香りがします」
「つまり臭いと?」
ちげーし、何でそうなるのか、この人は。
ツンデレ乙、はいはい。
そんなツンデレヤンデレの困った師匠、そして、私を見つけてくれたサイモン・ハウアーに敬意を表して。
「師匠、師匠が死んだら私に下さい、(゚∀゚)アヒャ!」
一応、可愛く首を傾げてお願いをしてみた。
師匠の眉間にシワがよった。
可愛くなかったよーだ。
***
そして直ぐに、弟子の私は監視付きでサドの尋問を受けた。
一応、師匠単独犯つー事らしい。
「嫉妬による犯行(笑)らしいね、楓君は何かしってるかな?」
もう、理由も何もどーでもいいらしい。何処と誰と繋がっていたとか適当過ぎる尋問からすると、これは所謂出来レースらしい。
なら、私も自由である。
居心地は良かったけれど、私はダメな子なのである。
「はい、タイチョー」
「なんだね?」
師匠を拷問しなかった理由やら周辺事情は聞きませんが。
「ひとつお願いがあります!」
そして、私のお願いを聞いたサドの眉間にシワがよるのだった。
***
居城中庭にての公開処刑である。
立会人はファデイニ家当主だ。
が、まぁ茶番だ。
斬首をファデイニ家の者に立ち会わせた時点で、決着はついた。
台座に拘束されたかに見せたところで、ホルスタッドから剣を渡される。
私がファデイニの首を飛ばすと、ホルスタッドが私を斬る手筈だ。
誤算は、ファデイニ当主を殺す事が出来たが、ホルスタッドが私を殺さなかったことだ。
「この極悪人には、地獄の苦しみがお似合いかと?」
騒ぎ激昂するファデイニの兵を取り囲みながら、エリアスが告げる。
「我らにも落ち度があり、その方らも自らの手落ちにより主が死んだ。カドモンの新しき頭領は、償いをお考えだ。むざむざ目の前で主を死なせたお前たちには優しき死を、主とその血族を殺したこの男には地獄の責め苦を」
こちらに乗り込んできたのが運の尽き、ファデイニ家は、第一夫人の実家が押さえた。そして、エリアスは嬉々として第一夫人の長子の言葉を促す。
「ファデイニの随行者一人を証人として残し、他は毒杯の儀を、サイモンには..」
再びの拘束を受けた私の前に、いつも突拍子もない事を平然とやらかす弟子がいた。
あまり言葉を喋らず、飄々とした態度。
これが男なればひとかどの武人にもなれようと言う剛力と体力、そして胆力。
ただし、見た目は真逆、フワフワとした痩せた娘である。
鬼神と呼ばれる一族の生き残り、元はたぶんに高貴な出だろう。
桃色の髪に角が2つ、赤い目をしたこの娘は、毒と死臭を纏ったこの身を、良い香りだと言う。
そして毎日飲む毒薬を、健康に良さそうだと言い、ましてや旨いと言い出す始末。
我が毒薬使いの後継としては、これ以上ないと言う逸材。
ただし、性格は...
「師匠、師匠の最高傑作をもって来ました!
解毒剤なんて無い、最高の一杯ですよーさっさカケツケいっぱい。
ナニをぼんやりしてるんですかー実験ですよぉ実験実験!
もう、究極の毒ですよー七転八倒間違いなしです!
ほら師匠、頑張ってーほれほれ!
ぐいっとやってるとこ見てみたいー、内臓腐るとこ見てみたいー、師匠ーの良いとこ見てみたいー」
妙な口調、無表情で踊る姿に頬がひきつる。
カドモンの長子も少し頬が引きっっている。
「冥府の酒杯を賜る、腐れて死ぬが良い」
新しき主に頭を垂れた。
***
師匠は苦しまなかった。
一度、軽く咳をするとパタリと倒れて終わり。
毒耐性マックスだからね。
「七転八倒?」
残念そうにサイコパスが言う。
背後では敵に無理やり毒を飲ませて転がしていく地獄絵図が展開中。
使者に残された一人は恐怖で漏らしている。
そりゃそうだ、天下のカドモン家は、情け容赦のなさでは筆頭だ。
味方には温情を敵には死を。比較的常識があるけど、それは戦国レベルでの事だ。
念のために首を落とそうとするサドの剣を跳ねあげると、私は笑った。
「死体が欲しいんです、傷つけんなよ、隊長ー」
「あはは、ダメだよー骨まで焼かないとー」
問題は、サイコパスとサドだ。
第一夫人たちは問題ない。
まともな権力者の範疇だ。
だから私でも何とかなるが、この二人は似ている。
誰にって私にだ。
「何を心配してるのかしら、私のところなら大丈夫よ」
嫌だね、幼馴染みだか何だか知らないが、利用するだけして当然だと思ってる奴と、そんな奴に依存しなきゃいけないほど師匠は小さくないと思いたい。
そろそろお前らも大人になれや、クズどもめ!
「それ、試しにそこの奴に残り飲ませてみな」
私の言葉にサイコパスは、手近にいたファディニの残党に飲ませた。
もちろん手足を押さえつけてだが。
「あらあら、熱湯に入れた海老みたいねぇ」
七転八倒し、体液を吹き散らして残党が死ぬ。
「私は師匠の死体が欲しいの、お前らの心配は無駄だ。
これは死体だ。お前らのサイモン・ハウアーはいない」
それにサイコパスは珍しく表情を無くし、サドは最速で剣を振り上げた。
「死ね」
..
...
...
私には、色々な知識がある。
師匠が教えてくれた事以外にも、実は薬、自然の動植物を薬にする知識だ。
私の一族は、知識を子々孫々に受け渡す能力をもっている。
その中でも医術や薬に特化した、いわば医者の家系であった。
虐殺時には記憶がすぽーんと飛んだが、徐々に知識は戻ってきており、師匠に教えを乞う頃には、何となくどんな過去を持った子供かはわかっていた。そして、恐怖や死に直面して、今の私が生まれたが、それもこれも過去の継承した誰かの人生がカバーしてくれたと言う事だ。
性格は…あんまり変わってなかった。
んで、師匠と飲む青汁、もとい毒耐性をつけるための毒薬カクテル師匠風を密かに、楓風万能薬青汁風味にしてみました。
これね、毎日飲むと毒耐性が人間レベルを越えて神になるのー、おまけに野菜もとれちゃう。師匠と私、健康ねー。
もちろんベースは元の毒カクテルだから、危ない、良い子は飲んじゃダメだよ。
師匠は私が飲みにくい毒を青汁風味にしてると考えてた。主成分は自分で作ってたからね、味付けは私。
師匠はなまじ毒に強いから、私が混ぜる物を見て影響なしと考えちゃったらしい。まぁ、混ぜたものは誰もが知ってる台所の調味料だからなぁ。まぁ、隠し味の秘薬は胡椒に見えなくもないしな。一緒に毎日飲んでたしな、師匠、けっこう他人を信じる方だしな。あっだからサイコパスとサドと家に利用されちゃうんだよ、貧乏籤引きまくりだ。
でも、それも今日で終わり。
背中を斬られながら、私は笑った。
師匠、約束だゾー。
***
...
...
..
気がつくと、海沿いの洞窟にいた。
死の闇から唐突に投げ出され、外から射し込む陽射しに目を細めた。
入り口は断崖にあり、下は水面で上は切り立っており人の出入りには難儀だ。
私はと言えば、きちんと身なりは整い洞窟の隅には私物の鞄が置かれている。多少のふらつきはあるが、何の痛みも苦しみもなく、ぼんやりと己の体調をはかっていた。
致死の毒を飲んだ。
味から見ても、確かにアレは調合した腸を腐らせる毒であった。
しかし、口内も喉も腸も爛れ腐った様子はない。
微かな虚脱感はあるが、地べたに寝ていたならば当たり前だ。
不意に弟子の事が思い浮かぶ。
その姿は無い。荷物を漁る。
金と衣服のみだ。
身をまさぐるが、やはり、多少の小銭しか出てこない。
弟子は、頭が回る子供であった。
薬に細工するだけの知識を隠していたか。
しかし、私が死なねばカドモンに迷惑がかかる。
かかるが、ひとつ確認せねばと思い至る。
崖を登る。
カドモンの領地から南、海岸線がある領地境だ。
見覚えのある場所を身を隠しながら進む。
カドモン家には秘密の場所。
弟子と自分だけが知る毒草の畑だ。
それでも念のために、私を洞窟に隠した。
楓は?
楓は、毒草の畑側にある納屋にいた。
うつ伏せで寝ている。
出血で意識は無く、半ば死にかけていた。
馬鹿な弟子である。
私は死んで当然だ。仕える主が死を選んだのだから、そして次代の為に、死ぬのは当たり前なのだ。
髪を避けると衣服を剥がし、背中の傷を見る。
納屋を見回すと、必要なものを集めた。
***
弟子を背負うと、私は海へと向かった。
港にはホルスタッドが待っていた。
楓は戻ればいいし、私は終わるべきだ。
だが、ホルスタッドは剣を抜かずに何やら大荷物を乗せた馬を持っていけとよこす。
「意地になる程の事かよ、相変わらず根暗だよな。
お前をぶっ殺して鬼娘を確保するのもいいとは思う。
だがまぁ、恨まれると厄介だしな」
「どう言う事だ?」
「わからねぇのか?愉快だなぁ。
なんで気がつかねぇんだよ。
お前は生きてる、俺は鬼娘に生きててもらうと利になる。
こいつの村を片付けたのは誰だ?」
単純な答えに、体が強張る。
「そんな、バカな」
「ガキだから知らないと思ってたが、これを皆で守ったから、生き残っていた。つまり、こいつは本物の」
薬祖神、つまり、万能の解毒薬を知る者だ。
当時のカドモン家当主は、毒殺である。
私が毒を研究するのも、ホルスタッドが死ぬまで頭痛に悩まされるのも、そして、エリアスがああした性格になったのも、同じ理由だ。カドモンの一族は毒を盛られ、それ以来健康をそれぞれ何らかの形で損ねた。
だから、それを救うべく手を伸ばすと、敵は先に希望を断とうとする。
「発狂しちまったバルザックは手遅れだが、少しずつ次の世代には飲ませている。お前のようになるはずだ。あのクソ不味いクッセー青汁な」
「あれは毒だぞ」
「鬼娘の手順通りに加工すると確かに毒耐性と解毒作用が現れている。
さらにお前が最初の被献体だ。
そして、これは知られちゃならない。
お前は生きて、鬼娘を守るんだ。
これが新しい主の命令だ」
「早速死にかけてるが?」
「しょうがねーだろ、逃げ足早いし、エリアスがマジで気に入って追っかけたせいだよ。
あいつ養子にしたいとか言ってるしな。それもいいかとは思うが、今しばらくは隠蔽で頼む」
「お前達は最初から」
「そりゃ違う」
「ならばどうして」
「死んだらくれと、神様が願った。ならば救われた者はなんとする?」
頭痛から解放されるなら、どんな事でもすると言った子供。
愛情がわからないし嘘と本当の区別がつかないと泣いた子供。
家族の死に様の醜さに怯え明日を望めなくなった子供。
一人二人と毎年非業の死を遂げる。
この苦しみから救ってくれると言うのなら。
「約束は守らなきゃな、師匠」
***
...
...
..
..
気がつくと、船酔いだった。
メチャクチャ吐いた。
熱が高くて、わりと死にそう。
「おまけに師匠が怒ってる〰️」
私に水分をとらせて粥を食わせる顔が怖い。
まぁ元々三白眼だしな。
「怒ってはおらん」
いや、絶対怒ってる。
死んだくせにー私がもらったのにー。
まぁ冗談だけど。
「師匠は死んでは駄目なのですよーだから、勝手に助けました。ごめんなさい」
それに師匠はため息をついた。
「何故、黙っていた?」
「何故、教えなきゃならんのです(゚∀゚)?」
まぁ、知らなきゃ助けられないよ。それに理由もない。
カドモン家の毒の災禍なんて知るわけ無いもん。
まぁ、知ったとしても保身のために何も知らせなかったかもなぁ。
師匠に青汁飲ませるのは、いつも顔色悪くて隈があったし毒汁毎日飲むとか何のプレーだよとか。
弟子も飲むんだから健康をだね、追及すべきじゃね?
「何故、それでも私を助けたのだ?」
船は師匠の母方の実家に向かっている。
新しいご主人が言うには、一応新規交易の開拓とかなんとかを名目の出張扱い。楓はまだカドモンの子らしい。サイコパスが勝手にそうしたとか、なんだよ怖いよ!
「あの日、師匠がさぁ連れ帰ってくれたじゃないですか」
私はサイモン・ハウアーに抱えられて村を後にした。
「薬草の香りが数種類、香辛料に少しの花の蜜も」
サイモン・ハウアーは黒髪の陰気な青年であったが、香りは何故か幸せを感じさせた。
私はまだ生きていたいと感じる香り。
香りが私を産んだのだ。
愛するには充分ではないだろうか?
「趣味わるいですよねー」
師匠は片手で顔を隠すと唸るのだった。
〜End→そして、サイモン・ハウアーの苦労がここに始まる。
注意、弟子は脳筋美少女です。十人中十人がイイネボタンを押す美人ですが、中身は怪獣です。
師匠が危機に瀕すると、拳と斧を振り回す鬼娘です。よかったね師匠(゚∀゚)アヒャ
師匠と私 毒を喰らわば C&Y(しーあんどわい) @c-and-y
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