第16話 防具屋へ

「では、暫く休憩を取りましょう」


 ララ・ノアさんと一緒に行動して判った事……。

 それは、彼女は以外とのんびりしていること。

 というか、彼女が立てて提示したスケジュールの1コマ1コマにかなりの余裕がある。そして、臨機応変に修正が可能。

 そう、時間の使い方が長いのだ。

 世間でいうエルフ時間というやつだろうか?

 噂ではエルフの種族たちは長命・長寿と聞くが、ボクと一緒にいるこの時間も彼女からすれば、ほどの事なのだろうか?


 ◆◆◆ 防具屋


「ちょっと付き合って」という彼女に連れられ森の中へ。

 彼女に連れられて行った先、そこには生い茂る森の中に数軒の家が並び建っていた。家の造りはエルフ族特有の建築様式。森の木々を利用した自然工法というらしい。

 

 彼女は歩む足を止めることなく、一軒の店の大きな扉を開け、中へ入っていく。


「さあ入って。ここで装備を少し揃えてから、目的地へ行くから」


「あなたの装備では、心もとないわ」


 ◇◇◇


 ここは、武具専門店。

 ボクが住む街の通りにある「大森林の商品を扱ったショップ」に併設される迷宮探索者向けの武器専門店とはちがう。

 その並べられた品の多さ。見た事の無い武具や装備品。

 ここは明らかにプロ向けといった品々を扱う店だ。

 どれも値段札が提示されているわけではなく、みるからにエルフ族の為の店、お高い感じの品ぞろえだ。

 

 呼び鈴の音に、店の奥から店主が出てくる。

 耳の尖った整った顔立ちの若い男性店主。

  

「これはこれは、ノア様。いらしゃいませ」

「今日はどの様なご用件で」


 スッとした顔の店主は、丁寧なあいさつする。

 彼女、かなりの常連のようだ。 


「おじさま」

「この人間ひとにあう装備を見繕ってもらえるかしら」

「今から迷宮の深部へ向かうから」


 おじさま?……どう見ても30歳くらいにしか見えないが……。


「あと、この人間ひとの体型に合わせて、『碧月』の短剣を収めるフォルダーをお願いしたいの」


 薄い笑顔を讃えていた店主の顔が、真顔に変わる。


をですか?」


「ええ。暫くこの人間ひとが使うから、使いやすい様に調整をお願い」


 店主が鼻にかかった眼鏡を指で押し上げた。


「人間に……を?……」


 店主のその表情に慶太郎は、短剣が入ったカバンをさわった。

 

(これヤバいやつだ……)

(この短剣。やはり、いわく付の品だ)

(どう見ても普通の短剣とは、次元が違うと思っていた)

(とんでもない品を預かってしまったか……)


 彼女の言葉で店主は、まるで人品を見定めるように慶太郎に目を走らせた。


「ではお客さま」

「お品を選ばせて頂きますので、こちらへどうぞ」


 と店の奥へと案内された。


 ◇◇◇


 銀色の地金プレートに細工を施した品。

 装着してみると軽くて丈夫。魔物の耐性効果も付与もしているらしい。


 店主は、基本となる装備を一式揃え、慶太郎に当てがってみある。


「この色合い、ノア様が好まれる色ですよ」

「この腕当てもいい」

の短剣に良く映える装備だ」


 人形のようにされるがまま、店主から勧められるまま、装備一式を身に付けた。

 慶太郎自身、購入予算から考えても、全く眼中にもなかった品々。

 というか、遊び気分の迷宮探索の素人が、気軽に買える品々ではない。


「妖精との正式な契約を結んだのであれば、これくらいの装備は必要です」

「良い装備は、あなた自身の命を守りますからね」


 チクリと何か心に引っかかる言い回しだ。


「あの、この装備って……」


「はい。中級クラスの害敵であれば、まずは問題ありません」

「製品の保障もしっかりと付いています」

「但し、あまり無茶をしなければですがね……」


「ボクは、プロになったばかりの迷宮探索者なんですよ」


「また、ご冗談を」

「フフッ。その短剣を使う所有者であれば、なおさら……」


 と店主は、口を押さえて言葉を押しとどめた。


 天井を見上げた。

 ララ・ノアさん……。

 これ、普通の仕事だよね。


 ◇◇◇


 装備を一式揃え、ボクは店内で待つ彼女の前に連れ戻された。


 彼女の瞳が一瞬、驚いた様にも見えた。

 彼女はすぐに表情を変え、いつものクールな顔に戻る。


「これなら、かなり行けるわね」


 店主の勧めで装備した品を装備した慶太郎の姿。

 彼女のその一言で、先ほど店主と会話した内容を無理やり、に落とした。


「調整が必要な品は、早急に対応しますので」

のフォルダーと合わせて後日、受け取りにいらしてください」


 彼女は承知した様にうなずいた。


「請求は、いつものように会社にお願い」


 店主は、ひと仕事終えたような顔で軽く頭を下げて礼をした。

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