第6話 迷宮探検
迷宮の入り口に差し込む朝の光が、石壁に虹のような模様を描いていた。
この光の妖精、言うだけの事はある。
今まで何度か迷宮探索に訪れてはいるが、初めて通る道だ。
ガイドする妖精によって探索ルートが異なっているものの、壁の隙間から漏れる光が、まるで道案内のように床を照らし温かな感じさえしてくる。
水の妖精や風の妖精とはまた違い、見た事のないドロップアイテムが次々と見つかる。
(彼女が宣言したとうり、確かに少々きついクエストだが……)
「フィフィ……ちょっと休憩を……」
「さあ契約者クン! 今日はどんどんいくよ」
慶太郎の声を一蹴するようにフィフィの言葉が壁にこだまする。
「この辺りは光の妖精しか見えない、隠れしずくがあるからね」
「ほらっ、あそこぉ!」
フィフィが指さした先には、淡く輝く小さな球体が浮かんでいた。
慶太郎は、あきらめの溜息を吐くと、指示された場所に手を伸ばす。
それはふわりと彼の手の中に収まり、これまでにない珍しい光を放った逸品。
「黒妖石ゲット」
「フィフィ―――これらは何に使えるんだい?」
「ふっふふうん。それでは契約者クンに説明しよう」
「それはね……」
腰に手をあてた小さな妖精は、ウォホンっと細い顎を上げる。
「契約者くんの住んでいる街でも見かけるでしょ」
「街を照らす明かりや、動く精霊品などさ」
「それらの材料になるんだよ」
「エルフたちは、遥か昔から森の精霊たちと契約を交わして生活に活用してるの」
「水のしずくや火のしずくもそういったもので、色々と役に立つのよ」
自慢気にパタパタと羽を動かす妖精は踊るように言葉とつづる。
「精霊品の材料になるのか……」
「それに、あたしら妖精たちにも恩恵があってね」
「それらを集めると精霊使い力が付与されるんだよ」
「なるほど。君にとっては経験値みたいなものか?」
「ボクが働けば働くほど、君にもメリットがあるってことか」
「そうそう。だから契約者クン、もっと働いて~」
フィフィは肩の上でくるくると回りながら、楽しそうに笑った。
◇◇◇
探索は順調だった。
だがフィフィの視線が迷宮の奥へ向いていることに気づく。
「……何か、気になることでもあるのか?」
「ううん、なんでもないよ。ただ……この迷宮、昔はもっと暗かったはずなんだよね」
その言葉に、慶太郎は小首をかしげる。
フィフィはすぐに笑顔に戻り、慶太郎の肩をぽんぽんと叩いた。
「さ、続き続き。次の光しずくを探しに行くよ~!」
◆◆◆ 隠し通路
「フィフィありがとう」
「君のおかげで珍しいドロップアイテムがこんなに沢山見つける事ができたよ」
やっと休憩をもらえた慶太郎は、岩に腰掛け持参した回復ドリンクを口にする。
「はあぁー」
「クエストなんてぇ退屈だなあぁぁぁ」
「ほんと、つまんなぁい」
フィフィが背伸びをして大あくびをする。
肩の上で足を投げ出してパタパタとする妖精。
「ねえ。契約者くん」
「違うルートがあるんだけど。行ってみない?」
「地図に無いルートだよ」
「大丈夫だよ。私がちゃんとナビゲートするからさっ」
「見た事も無いドロップアイテムが出るかもよ。ウッシッシッ……」
妖精は肩を大きく揺すって楽し気に笑う。
◇◇◇
途中から迷宮の空気が変わった。
静寂の中に何かがある、胸を締め付けるような感じ。
「フィフィ、ここって……普通のルートじゃないよな?」
「ふふーん。さすが契約者くん、気づいたね。ここはもう裏ルートだからね」
慶太郎は眉をひそめる。
「ほんとに安全なのか?」
「受付では、裏ルートなんてそんな説明は聞いてないぞ」
「うーん、安全かどうかは……契約者くんの運次第かなっ!」
「……おい、おい」
フィフィは肩の上でくるりと回転し、羽根をふわりと揺らした。
「だって、普通のルートなんて退屈じゃん」
「この迷宮には、公開されていない隠し通路が沢山あるんだよ」
「精霊契約した者しか通れない特別な道だよ」
「……それって、もしかして裏クエストの事か?」
「ピンポーン! 正解っ」
「この先にね『光の精霊が残した軌跡』が眠って場所があるの」
「クエストをクリアしたら追加報酬もあるし、精霊力も強化できるからね」
「そんな裏クエスト……噂には聞いた事はあるけど。本当に存在したのか」
フィフィの瞳が慶太郎の口から返ってくるであろう色好い返事を待つように大きく輝く。
慶太郎は一瞬、迷った。
だが、胸元の契約の紋章が強く光るのを見て、決意を固める。
「フィフィがいれば問題ないか……君との契約もあるし……」
「よし、行こう。ボクたちなら、きっと見つけられる」
フィフィは嬉しそうに笑った。
「その意気だよ、契約者くん!」
「じゃ、ついてきて。この壁の奥に、隠し部屋があるんだ」
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