第5話 (弐)海外旅行

 初めての海外旅行、添乗員さんの足取りは、やけに速い急ぎ足でホテルへの帰り道。迷わないように、せっせと後をつきながら。高齢のご夫婦も多いのに大丈夫だろうかと気にかかる。急に角を曲がったり、私は少し足を止め後ろをクリッと振り返る。


「遅れないでください」と、とにかく添乗員さんは先を急いでいるようだ。

 到着するとやっとこと、すぐさまに向かうレストラン、夕食の予約時間にギリギリだ。


 旅の脚にも慣れた最終日。フライトまでの空き時間、有名な博物館も見逃すまいと。ドキドキと初めてのトラムの地下駅、少し怖い気もするが、次の機会はないかもしれない。

 日本と違い改札もなく、切符を買うのも一苦労。一人ホームに立つと、行き先が合っているのかとか、この列車でいいのかとか、気になりだしたらきりがない。見回しても、良く読めなくとも間違いないと。

 

 トラムを待つ乗客が増えてきた。すると知らないうちに、隣に並んで待っていた初老の紳士(地元のかたか?)、ホッソリと背が高くシルバーの髪、ふと声をかけられた。当然英語だったが、大体の意味は分かった。

 ――○○へ行きたいのですが、このホームでいいですか? (私は)知らないです―― と、たどたどと答えたが、紳士は訊いておきながら、涼しい顔でサンキューと――


 トラムが着くと扉が開く、紳士とまた顔が合い少し頷くように、連れ合うかの如く乗り込んだ。


 私の様子は見るからに慣れない旅行者、いったいなぜ? なぜか*** 私に聞こうとしたのか? (わざわざと、旅行者に道を訊くなんて)

 

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