第2話
「あぁ、パウラ。やっと一緒に居られるんだな」
「嬉しいわホセ様。どれほど、この時を待ち望んだ事か」
朝日が差し込む国王陛下の私室。
そのベッドの上で、産まれたままの姿でシーツに包まっている二人は、甘い時間を過ごしていた。
「王妃の部屋も早くパウラ好みに変えなくてはな」
ホセは睨むような目つきで、隣接された王妃の私室へと視線を向けた。
ラウラを部屋から追い出した二人だが、王妃の部屋はラウラの好みに合わせられている。
そんな所でパウラを過ごさせたくはないと、ホセは自らの部屋へと招き入れたのだ。
「ありがとうございます。ホセ様」
「パウラが苦しまなくて良いように、ラウラの痕跡は全て消し去ろう」
ホセはパウラの額に軽くキスを落とすと、ベッドから下りて上着を羽織る。
それに倣うようにパウラもガウンを纏った。
するとそこへ、ドンドンと力に任せて扉を叩く音が響き渡った。
「ホセ! いるんでしょう!? ホセ!!」
無視をしようか。
眉間に皺を寄せて扉を見つめるホセ。
怯えたようにホセへと身を寄せるパウラは、一体何事かと小さくホセを見上げて不安そうな表情を見せる。
その愛らしさに、頬を緩めたホセはパウラの顔へ触れようとした。
「……パウラ……」
「ホセ!」
その瞬間、バタン! と大きな音を立てて扉が開いた。
そこに立っていたのは、声から分かった人物そのもので――ブランカ・フェルナンデス王太后。つまりホセの母親だ。
王太后は自分の視界へと飛び込んできた光景に理解が追い付かなかったのか、一瞬動きが止まったが、すぐに理解すると顔を真っ赤にして仲睦まじい様子の二人を睨みつけた。
「あんた……何をやっているの!!」
ブランカ王太后は怒声をあげながら二人へと近づいていく。
それをホセは面倒くさそうに眺めながらも、パウラを自分の後ろへと隠した。
「ラウラを追い出したのは本当なの!? そんな娘と何をしていたの! ……まだ喪も開けていないのに!!」
悲痛な声を絞り出すブランカ王太后は、その目を潤ませた。
この国では、喪に服す期間が一年と定められている。慎ましやかに、祝い事を裂け、故人を偲ぶのだ。
「うるさい! お前には関係ない!」
「母にお前など……!」
しかし、ホセはそんな事どうでも良いと言わんばかりに、暴力的な言葉をあげた。
国の事を、国王となった者が自ら破るとは……。
ブランカ王太后は怒りで赤く染めていた顔を、今度は真っ青に染め上げた。
「あんな奴を俺に押し付けて王妃にするなど許せるか! 俺は真に愛する人と結ばれる!」
ホセはブランカ王太后を突き飛ばした。煩いという気持ちだけでなく、長年の恨みを込めた声と力だった為、ブランカ王太后はその場に倒れ込む。
「お母様!」
「母上!」
国王陛下の寝室での騒ぎを聞きつけてか、ホセの姉であるエマ・フェルナンデスと弟のミケル・フェルナンデスがタイミング良く駆け付け、倒れたブランカ王太后を抱き起した。
全てを見ていたわけではないけれど、母親が倒れているというのに、それを見ているだけのホセが何かしたのだろうと判断したエマは、ホセを睨みつけた。
「ホセ! お母様に何をしているの!」
「行こう、パウラ」
エマの声を無視して、ホセはパウラの肩を引き寄せると、そのまま自室から出て行く。
「兄上!」
「そうだパウラ、君の好みを聞かせてくれ」
ミケルの引き留める声など聞こえていないかのように、ホセはパウラと着替えのドレスをどんなものにするか、王妃の部屋をどうするかなど楽しそうな話題を口にしながら。
そんな二人を、エマとミケルは軽蔑を込めた視線で睨みつけた。
「あぁ……この国は終わりよ……」
「お母様……」
「母上……」
王太后という身分を翳していても、一人の人間だ。
この国の行く末を危惧して涙を流す母親に、エマとミケルはそっと寄り添いながら立ち上がらせた。
いくら急な事だったとは言え、ホセが国王陛下となってしまったのだ。王太子であったとはいえ、国王となってすぐに、こんな事を仕出かすなど言語道断。
「私の教育が悪かったのね……」
「母上、少し休みましょう」
「あとはミケルと何とかするから」
次々と涙を流しながら自身を攻めるブランカ王太后を自室へと連れて行き、休ませた二人は、お互い視線を交わしながら頷き合った。
◇◆◇
――一ヵ月前。全てはそこから変化したと言っても過言ではないだろう。
ホセ・フェルナンデス王太子殿下とラウラ・ナバーロ侯爵令嬢の婚約を結んだ末に、婚姻させた二人。国王陛下とラウラの父、アンドレス・ナバーロ侯爵が、共に出かけた視察先で馬車の事故にあい、亡くなってしまったのだ。
二人は幼い時に婚約が結ばれたが、仲は良好とは言えず……むしろホセ王太子殿下は、ずっとラウラの妹であるパウラに懸想していた事は周知の事実だ。
ホセ王太子殿下が何度苦言を呈して、この婚約を白紙撤回しようとしても、国王陛下とナバーロ侯爵は頑なとして首を縦に振らなかった。
そして……王命に近いもので、二人を結婚させた。
その反動や反抗心からなのだろう。
国王不在が長く続くわけにも行かないと、葬儀が終わるとすぐに戴冠式の準備が執り行われ、国中が喪に服す中でホセの戴冠式が始まった。
王太子から正式に国王へとなった瞬間、ホセはパウラを王城へ呼び寄せ、ラウラを追い出したのだ。
――この時、すでにラウラが妊娠していたという事は、二人の不貞は前からあったという事に変わりはないのだけれど。
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