普通な子は死んで救われた。
バザールのはるか上空。
ここは青空と白い花で彩られたサーモンピンク色のお茶会場。
川のせせらぎが心地いい。
『サラぁ、あの子どう思う?』
パッサパサの明るい茶色の髪。無駄に大きなオパールが主役のアクセサリー。で、胸元のその宝石と同じ色の瞳。
レースの服とタイトなジーンズ。
小学生の自己顕示欲と無駄な観察力をギュッと詰め込んだ様な女、寧々丸が話しかけてきた
『どの子ですか』
『あの……えっと奈々星って子』
本当に他人の名前覚えないんですよね。呆れます。
一回見たら普通完璧に覚えるでしょうに。
突然、カリンが会話に乱入してきた。
『あいつ代償ないのやべえよな。神の器だぜ"器"』
代償がないとは奈々星イツカのこと。代償がない個体。まあ面白くはありますが…ここにいる人、カリン以外は神に興味ないんですよね。塵ほども。
カリンはサーモンピンクのショートヘアで、首周りに模様が光っている。
チョーカーのようと言ったらわかりやすいでしょうか。
淡い色のクラシカルロリータを着用しており、頭上には光の輪。
自身の人外的な特徴を誇りにしています。
こちらは自己顕示欲は寧々丸と比べれば低いのですが、プライドと花への愛が気持ち悪いくらいたっぷりです。
花なんて瞬きひとつで咲かせられるのに、毎日毎日お世話して。
『寧々丸さんはぁ、いまサラと話してんだけど。カリンって本当空気読めないよね。』
頭お花畑に何言われたってどうでも良いから話してるんだと思いますよ?
口には出さないで、代わりに紅茶を啜る。今日は喜と楽。あと執着の味がする。
甘酸っぱくて、その甘さがずううっと舌に残る。
好みじゃない。もっと爽やかなやつがいい。
上空の雲がゆったりと流れ、蝶や鳥が飛び回る。
だがそれの音はない。
相変わらずあるのは川の音だけ。
『空気読めないのは貴方でしょう寧々丸。口を慎んでちょうだい』
ミリアが寧々丸を注意した。
ミリアは腰まである紫寄りの銀髪が印象的な中性体です。
生物学的に女性とは言い難い。
緑の瞳と額のツノを持っている。気に入った物への執着と過保護がすごい。
『五月蝿いな、名前カタカナのくせに』
『だから何』
また寧々丸とミリアが争い始めた。
カリンは何でこの2人を招待したのでしょう。
『本当に五月蝿いですよね、そんなだから彼氏できないんでは笑』
『あ?るっせえよ。てめえだって自分の仕事終わってないのに、いつも人の仕事にイチャモンつけてさあ!』
『…はあ』
私のため息を合図に雪が降ってくる。
喧嘩してる2人って、実は変温動物なんですよね
『うわ寒!』
『少し温度を下げてみました。どうです、カリン』
こうすれば2人は自分の暖を取るのに一旦は集中するから。
ほら黙って炎とか出し始めました。
『…あの、やめて、まじあの花枯れる』
首元の模様を触りながら必死に懇願するカリン。
この2人を招待したカリンが悪いと思いますが。
質問には答えなきゃね。
『安心してください。その程度の調節ならできます。』
『サラじゃなくて、それ以外に言ってる。炎とかやべえってまじで』
嗚呼、確かに枯らしそうね。
クッキー食べましょ。
さくさく。
『…何で呼んだんですか?あのバカ2人』
私は雪の出力を強める。
『やめて…まじ動けんくなる…!』
ミリアの呻き声。声出せるならまだ下げれる。
寧々丸は…死にかけてる。
『ごめんなさい、でもカリンに従わなかったのが悪いと思います」
おもってないけどね。
『…人数合わせ』
返答おっそ。
ーー
ラシュ・エルラルドの部屋。真っ黒。
私はサラ。上位存在と定義されるもの。美しいラシュが好き。
上位存在同士にお茶会が終わったから限りなく見た目を人間に近づけて訪問しにきている。
「はいは〜い、今日も最高の地獄ですね〜っと。」
家事は一通りおわって、部屋にある無数のスクリーンの一つには泣き崩れる少女についてと、その耳のデータが表示されていた。
「片耳の聴力…まあセンスあるじゃん」
いつも独りぼっちで仕事してる。可哀想なラシュ・エルラルド。本当はダメだけど手伝ってあげてる。
このバザールで個人部屋と定義される場所は、決して監視されない。
だから私が来ないと散らかり方がすごい。
監視されない理由は、人間にはそれが、秘密が必要とラシュが言っていたから。
『記録完了しました。ラシュ様』
冗談っぽく呼んでみる。椅子の上で座禅を組んでてお行儀が悪い。
「様とかつけんな」
無表情も凛としてて良いですが、むすっとした顔も可愛い。私には貴方のその感情が愛おしい。
『大丈夫です、ここは私の環軸ですから。バレても揉み消せますよ』
愛してます。答えてくれないのも知っていますが。
「そゆことじゃなくてー、んーまいいや。コーヒーちょーだい。」
『上司に対していい態度ですね』
素直に珈琲自体は入れますけど。いっつもブラックばっかり飲んで、健康に悪いです。いや嗚呼やって常時を姿変える方が…
考えない方がいいですね。不安になっちゃう。
『外でもタメ口で話してくれないんですか?』
「俺は命が惜しいんだよ、わかんないわけじゃないだろ。」
わかりませんね。私は貴方と死ねるならむしろ嬉しいですから。
珈琲の匂いが漂う。
豆、変えてみましょうかね。
「おま、俺と死ねるなら嬉しいとか思ってるだろ顔に出てるぞ」
だって嬉しいですから。そっちだって嬉しそうなくせに。
顔に出まくってます。
『しょうがないですよ。私は愚かなんですそういえば今日何食べたいですか?』
「話題が間髪入れずに変わったね。カレーがいい」
あー。
ハンバーグ作ってきちゃいました。
「先に作ったやつ外れたの?」
ラシュの整った横顔を横目で見る。
『…元下位存在が調子に乗らないでください』
私の所為でラシュが苦しんでいる事実は見ない。だって生きてるのも私のおかげだから。
「つまり図星ね」
ラシュが満面の笑み、寧々丸らしくいってしまうとクソうざい。
…
『今日はハンバーグカレーです。異論は認めません』
「じゃ、早く作ってね。お腹すいた」
『はいはい』
死んでるから空腹なんてないくせに
台所へ向かう。
スパイスが無い。そうなると誰かに脱落して欲しいな。
『ねえラシュ』
先に鍋を用意する。
「なにー?」
何カレー作ろう。レタスが食べたい
ルーどこに置いたんだっけ。
『1人脱落させて、そこからスパイス取らせてくれませんか』
「…どんなのがいーの?」
確実に量が足りないのは。
『…過去への未練と、怒りかな』
「おっけぇ」
ラシュがキーボードを叩く音が聞こえる。
「へー、ちょうどいいじゃん。この神崎桃奈ってこ。」
『さっきの片耳の子?』
「そう。お話ししてくる」
早くしてくださいよ
無言で部屋を移動するラシュに圧をかけた。
「あーもう、わかってるって」
心底嫌そうな声色だった。
ーーー
…死にたい。異能なんてあって何がいいんだ。
もう死んでるなら解放してよ。
涙も枯れた。
「うおっ」
急に部屋が変わった。
エメラルドグリーンの壁紙と二つのソファー。
目の前にはラシュが座っている。
近くで、しかも仮面がなくなると息ができなくなるほど美しい顔をしている。
「こんにちは桃奈さん。」
目線一つとっても先ほどとは違ってひどく理性的。
「早速本題です。このデスゲーム、辞めたくないですか?」
何でそれを?
「辞めさせてあげれます。俺なら」
?
「まず、俺たちみんなもう死んでるんですね。で、異能実験ってわかります?」
「ええ、はい」
何で私にそんな話を。
彼の透き通った瞳に囚われる。
「あれってぶっちゃけると上位存在のための資源開発と言いますか、まあ娯楽でもあるんですが。」
資源開発?
とんでもない話をしているのに、とんでもない毛量のまつ毛に気が行く。
「たとえば、カレーのスパイスになったり、装飾のための造花になったり。用途は本当にさまざまです」
…
……
「勿論、日用品だけじゃなくて新しい生命を作るため再利用したりもします。」
つまり。
「実験体としての扱いを省略し、早く資源になれと?」
その時ラシュの顔が初めて歪んだ。
彼の指先から微かに私へと糸が伸び、つながった。
「…すみません。ですが貴方の最適解はそれなんです」
必死で説得をしてきた。
…もういいわ。
「辞めます」
「いつかは再利用されるんでしょ?だったら辞めます」
もういいよ。抗ったって繋がったこの糸でどうせ操られるみたいなオチでしょ。クソゲーみたいなこの世界なら。
「ごめん。
……優しくするから」
私はそれに対して何を思えばいいのだろう。
この狂人か、デスゲームの運営者か、それとも被害者かもわからない人間に対して。
何を思うのが正解なんだろう。
私の最後に映ったのは狂気、悲哀を張り付けたラシュの笑みではなくて。
大切なお友達やお母さんの顔だった。
「今ゲーム最初の脱落者、決定です!」
ぱあん。
撃たれる感覚は布団の中で微睡むような、そんな感覚だった。
「…御愁傷様でした。どうか安らかに」
「おい、解体業者。第10応接間……わかった。じゃあな」
「まぁっじで…だっる」
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