男の子への期待。
奈々星イツカ。現在あかねと共にラブホみてえなふざけた部屋にぶち込まれています。
「恥ずい。」
あかねが照れたのはここが真っピンクの2人部屋だから。カップル用のものしかない部屋。
「照れるのは非効率だと思う」
「あんたAIか?」
「…ボケたんだよ」
さっと後退り。
…ドンびかれた。どうしよ。
「イツカ…あんた友達あんまおらへんやろ」
出来るはずがない。
「だって同年代の子とほとんど喋ったことないし」
「あんた急に重いねん…」
言い訳を口走った。多分この会話の最適解はこれじゃない。
大人しく同調しとけば良かった。それか自分が神の目に興味があることに話を広げるか。
ふとあかねの表情が変わった。
あっ
「…自分の異能きく?」
「……もちろん」
目線は相変わらず合わない。
「水分操作を落札した」
代償がなかったことは伏せる。
「…練習してみるか?」
「じゃあ、しよっかな。」
2人でキッチンへと向かう。
コップに水道水を入れる。
「あできた」
「呆気なくて草やわ」
同感。あと悪寒。
「待って」
「イツカ?」
自分の口から何かが溢れだす。内臓が痛い。
どこが痛いのかわからないくらい全部が痛い。
「イツカ!?あんた吐血して」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
「痛っ、ごふっ」
血が止まらない。
能力の副作用だ、代償がなかった代わりか?
あかねが自分のために動く。
「…お風呂運ぶで!え軽」
「まっ」
今は動いたらヤバかった。
内臓が絞られるような感じと、強烈な火傷の感覚が内側から湧いて出る。
「ごめん、血出てもいいようにや。どうせ死んでるんやから我慢してくれ!」
キッツ。暴論じゃん
でも死ぬほどキツいけど頭は普通に回る。
よくみたら血の色がおかしい。紫。
後頭部がぐちゃぐちゃに掻き回されている。
足の先まで苦痛が続く。
壁の紋様は情熱的な赤のバラ。
この状況だと流石にだいぶ腹立つ。
「いだい…いたいよぉ…」
目からは涙が溢れ出す。
…
血が紫なのは水分操作がトリガーになって毒化でもしてんのか?
推論するための材料が足りない。
「ごめんごめんごめん泣かないで、キツいのは見れば分かるけど…」
「…あ。うちの異能」
言霊。あかねがいい感じにやってくれれば…てかこれ、適応とかできるのかな、自分の水分操作って常用できないなら結構不便だぞ。
あかねは自分の両手を見つめて固まっている。だが焦る様子はない。
また奥から鉄の味が溢れ出す。
息が、できている気がしない。でも思考はハッキリしてるから多分できてる。
書き出された脳みそが脳みそが溶け出して、体の実態がなくなっているような気がする。
「…イツカの体調を異能使用前に戻せ!」
天使の輪の様な、なにかがぎゅっと首をしめたと思ったらふっと楽になる。
「ごほっ」
「イツカ!」
喜色満面なあかね。人って不安がないとこうなるのか。
食道とかに残ってた血が出てきた。
「はー、はー…あかね。疲れた。運んで」
ーーーー
「…で、異能実験って何や。詳しく知ってるんやろ」
面食いって嘘通したいなら、目くらい合わせればいいのに。いや、目が合わないって言うより胴体部分を観察してる?
観察でわざわざ胴体みる?自分が住んでた施設では見られていた気もするけど。
今現在、着替えさせられベットです。
「非常識だね。小学校の授業あんまり聞いてなかったでしょ」
「失礼やなあんた!…まあ、聞いてなかったけど…」
…こいつと組んだの若干失敗だった。正義感の塊のくせして真面目じゃないじゃん全く
「説明してやるから聞けよ?」
「おk」
「まず、人類から感情が消えてるのは知ってるよね?俺の施設の人から聞いた話で、異能は感情の副産物。だから異能を研究することで逆算的に人々に感情を取り戻すそう、それが異能実験。」
「あーね。うん。元気やね」
理解してなさそう。まいっか
「でも、これは自分たちが生きていたらの話。
で、ラシュによると俺ら死んでるらしいじゃん。
だからおそらく人が人のためにやってる事じゃないのね。だって死後の世界に人間は干渉できないから。
で、さっきさ光の球がふよふよ浮いてたの気づいた?あれ多分実体があってね。
物の持ち運びとかは出来ると仮定するんだけど。
それから、ここからかなり分析が入るんだけどさラシュって下働きの可能性があるのね。正しくは中間管理職。ここのボスじゃないかもしれない」
動揺したあかねの顔を無視して喋っていると頭に落雷が落ちた。
「な訳あるかいなー!!」
あかねの大きな声だった。自分には怒声に聞こえた。
頭のスイッチの音がカチッと鳴った。
「大人しく聞いてやったらペラペラと、異能実験の説明までは良かったねんで。良かったけどラシュはボスやろがい!黒幕やないかどう考えたって!明らかただの頭イカれやろうやん!!」
半分八つ当たり気味な、捲し立て。
「だって人殺して、最初のセリフが[掃除だる…]やで?どんな風に考えたら中間管理職に」
怒ってるから。
「ごめんなさい」
謝んなきゃ
「え」
謝らないと、何で殴られるかわからない。
「調子乗ってごめんなさいもう喋りませんから」
殴られて、苦しくなるわけじゃない。でも殴られるのは嫌。
「どうしたの、あんた」
…
目の前の思考と視界がおぼつかない。でもいつもの事。
「ごめんなさ」
「…ねえどうしたの?何や?」
ぼーっと時間が過ぎるのを待つ。
「奈々星イツカ!」
…
葡萄酒の色をしたあかねの髪と目が視界いっぱいに映った。
「大丈夫か?さっきの吐血がまだ残ってるんじゃ…」
怒ってない?
心配してくれてる。
「だ、大丈夫だよ、さっきだって…」
お姫様抱っこ…されてた気がする。
お姫様抱っこ?
ん?
あ、ま人を運ぶなら結構効率的?合理的だもんね
そうだね?
「イツカ?ごめんうちが異能うまく使えなかったからやな?」
「違うよ?事実確認みたいなテンションやめて」
てか抱っこについては冷静に。恥ずかしいかも。
「申し訳なく思うならジュースちょうだい?」
「ジュース。あ」
ぱっと顔が輝いた。
「リンゴのパックジュース、手のひらに出ろ」
ぽんっ。
「この異能便利すぎへん?バランス大丈夫か?」
え、桃がよかった。
でも言い出せない。殴られるのが怖いって言うより、嫌われるのが怖い気がした。
「…ごめん副作用まだあるかも」
顔がちょっと熱い。
「さっさと寝ろ」
ーーー
イツカが寝た。めちゃくちゃ寝付きええやんこいつ。
ジュース渡す前に寝ちゃった。
初めてみた時からコイツなんか気になるねん。
…なんかビビッと来たっていうか。恋とかじゃないんだけど。
何やろな。
カンガエルナ
ぱっと目の前に文字が浮かんだ。
…いつも思うけどこれなんだろう。誰が、まず人なのか?
カンガエルナ
いつもこれに従ってきた。だから異能実験が何かも知らなかった。
異能の副産物とかでもない。だって物心ついた時からあったもんな。
サイゴノチュウコクダ。カンガエルナ
「わかってる、ほんまうるさいわぁ」
うちが代償に選んだのは、不安。案外無くなっても実感ないもんやね。うちが個性的なのか、みんなこんな感じなのか。
てか二次感情でもいけるのは意外やったな。
てっきり喜怒哀楽しか売れへんのかと思っとった。
…まええか。
問題はこのクッソ恥ずかしい部屋。
ベット一つしかないしミラーボールあるし。
ほら見てみろや。
スタスタ。
風呂場なんてジャグジーつきや。おまけに薔薇まで浮かんで…
いや、まあ。どっちかというとイツカの血で真っ紫なんやけど。
「なあ、うちさあイツカのことならなんでもわかる気がするねん。年齢も、身長も体重も過去も何もかも。」
乾いた笑いが出る。でも分かる。
「そんなわけないやろ?初対面のただの男の子やでイツカは。」
イツカは毒で倒れた。代償がない。
副作用で異能を使うと嗚呼なる。根拠?
「…女の勘?」
視界に現れた字は。
ヤスメ
「たまに優しいん何なんマジで」
椅子でいいや。
イツカの寝顔。
「なあイツカ。思い出を振り返るときにさ。」
「軽い砂嵐があるのって。」
普通よな。
な。
ーーーー
次回 普通の子。
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