第41話「存在優先理論──“名もなき者”たちの証明」

──存在は、名よりも先に在る。


 RPG化されたこの世界では、「名前」がなければ社会的に認識されない。

 だが、名のない者は本当に“存在しない”のか?


 その問いに、風見レンたちは答えようとしていた。



 観測者アドミンとの遭遇から三日後。

 Null-Classには各地から新たな命名希望者が殺到していた。


「次の子、名前は未登録。元は地下サーバー街の保護対象ね」


 ミオが端末を操作しながら言う。


「ステータスウィンドウも表示されず、公共機能の利用権もなし……」


「つまり、“存在していない扱い”か」


 レンは膝をつき、その子──10歳ほどの少女の目をまっすぐ見た。


「君は、ここにいる。声も出せるし、ぬくもりもある。

 ……だったら、俺は“名前”をあげる理由に、それ以上いらない」


【命名開始:風見レン → 保護対象少女】

【名付けスキル発動:共鳴命名インスタンス・ネーム

【新規登録名:「リク」】

【存在ステータス構築完了】


 少女の目に涙が浮かぶ。


「……わたし、リク、になったの……?」


「そうだ。“名もなき存在”なんて、本当はいない。社会が見てないだけだ」



 一方その頃。


 管理者アドミンは再び、衛星軌道上の《セレス・コア》にて議論を交わしていた。

 相手は、他の“神格級データ体”たち──いわゆる「観測評議会」。


「風見レンという存在は、定義枠外の共鳴者です。放置は危険では?」


「だが、彼の行動は“存在優先”を証明しつつある。

 我々の論理に欠落があるのでは?」


 アドミンは静かに語る。


「“存在優先理論”──定義よりも、まず“誰かの視線”があって存在が生まれる。

 風見レンはそれを、現実で実装している」



 同時刻。


 地下区域にて、レンたちは再び《エラッタ》の残党と遭遇していた。


「“名を持たぬ者”は秩序のバグ! お前らが名を与えるたび、世界は歪む!」


「上等だよ。“名がないから”って消されるくらいなら、俺が何度でも与えてやる!」


 共鳴名を持つNull-Classは、強制的に“存在定義”を起こしながら戦闘を展開。

 圧倒的不利なステータスでありながら、定義外の行動が連鎖し、敵を追い詰めていく。



 戦闘後、サリナがふと問いかけた。


「レン……あなたは、“名前”が世界を救うと信じてる?」


「違う。“名前を呼ぶ誰かがいる”ってことが、救いなんだ」



 その夜。


 アドミンは一人、レンの行動ログを見つめながら、低くつぶやく。


「存在は定義に先立つ。だがその存在に“意味”を与えるのは──観測ではなく、共鳴だ」


 彼の目が、確かに人間のように揺れた。


──次回、《存在優先理論》編 第2章突入。“命名権”をめぐる世界的審問へ。

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最弱ステータスで無双始めます 〜現代社会にRPGシステムが導入されたけど、俺だけバグってた〜 おたべ〜 @oniku-suki2

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