三話 戦争のために造られた子供①

 明け方、荷物を積み込み、目的地までの道のりを車で進む。


 ブルーバードインクには、しばらく常駐しなければならないらしく、一樹は嫌々ながら着替えや、日用品などを詰め背嚢二つでもって、任務に就いた。


 レインボーブリッジを通過し、戦後新たに埋め立てられたブルーバードインクの所有する企業島に向かって。


 命令を受けてから数日、一樹はブルーバードについての情報を調べられるだけ調べていた。


 設立は戦後間もない時期。民間人に銃器の携行が許可されてから、それほど時間を置かずに起業されたようで、日本のPMCとしては古株に当たる。


 先見の明があった、と言って仕舞えば聞こえはいいが、社長やその身辺を固める者たちが政財界に太いパイプを持っていたのが、今の地位を築き上げる礎になったはずだ。


 青羽一族か……相当やり手なのは事実のようだが。


 今の社長は二代目にあたり、その娘も一部署の部長を任されているらしい。


 青羽駒利。年齢は25歳。飛び級で大学を卒業し、報告書の通りであれば、中々に曲者のようだ。相手の階級や年齢、性別に関わらずその物言いも尊大極まりないと、記されている。


 しかも、自分が出向する部署の長だと言うのだから気をつけねばなるまい。


「ま、なんとかしてみせるかな」


 相手は生粋のお嬢様な訳だ。そんな相手に遅れを取るほど、甘い世界で自分は生きて居ない。


 一樹はそう思っていた。けれど、その自信が後になって崩されると、考えても居なかった。


 企業島への入り口に設けられた検問を抜け、高いビルの一角にある専用の駐車場へと車を止める。


 背嚢を両手に、一樹は指示された通りの建物へと足を踏み入れる。第四防衛部の社員用ビルへと。


 企業島は、その殆どの敷地をブルーバードが所有している。


 建物も、それぞれの場所に割り振られた寮完備の代物で、内装は一見普通の会社のようにも見えるが、ゲートを通れば、中はさながらダンジョンの如く入り組んでいた。


 案内用のドローンに先行してもらえなければ、おそらく道に迷って居ただろう。


 導かれるままに、機械の後ろをついて行くと、ある大部屋へ通された。


『こちらでお待ちください。駒利部長が参ります。荷物はお部屋へお待ちしておきます』


 流暢な機械音声でそう言われて、そのままドローンは来た道を引き返しっていった。


 荷物は良いと断る暇もなく、身一つで取り残されて。


「拙いなぁ…………」


 別段見られて困る中身な訳では無いが、荷物が無いのが落ち着かない。

 

 まるで逃げる隙を与えないかのようなやり方だ。自衛軍では、自分の荷物は自分で面倒を見るのが当たり前で、こんな風にされるとは夢にも思わなかった。

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