『いいね』を、押しただけなのに

まほろ

『いいね』を、押しただけなのに

 最初は、ほんの少しの好奇心だった。

 放課後、家に帰る途中。

 通学鞄のポケットに入れていたスマホが震えて、何かの通知が来たことを俺に知らせた。

 取り出して画面を開くと、見慣れない名前からメッセージが届いていた。



  ――@wish_come_trueからメッセージがあります――



 タップして開いてみると、書かれていたのは、たった一文だけのDM。


『あなたの願いを叶えます。“いいね”を押してね。』


 差出人は可愛い天使のアイコン。

 投稿はなし。

 フォローもされていない。

 どこか気味が悪かった。けれど、なぜか目が離せなかった。

 だからか、普段なら、こんなDMが来ても無視をする。

 それなのに、この時の俺は、『押すと、何か起こるのだろう』という、ほんの少しの好奇心から、気づけば指先はハートマークを押していた。



 その日の夜から、俺のフォロワー数が少しずつ増えた。

 写真を投稿すれば、今まで友達くらいしか反応がなかったのに、「❤️」が10、20と増えていく。

 今まで、こんな反応なかったのに。


「……なんだこれ?」


 最初は不思議で仕方なかったが。投稿するたびに増えるフォロワーと”いいね”。

 それは、だんだん、喜びと興奮に変わっていった。

 今までに味わったことのないほどの承認欲求が満たされていく感覚。

 けれど、ある奇妙なことに気づいた。

 俺の投稿に“いいね”を押してるアカウントの中に、もうこの世にいないはずのやつのアカウントが混ざってた。


 クラスの女子、小川。

 小川は1ヶ月前に事故で亡くなったはずなのに、彼女のアカウントが俺の写真に「❤️」を押していた。


 「……なんで?」


 さらに、翌日。家でテレビを観ていると、別の学校に転校していた元クラスメイトが、転校先の校舎の屋上から転落して死亡したというニュースが流れた。

 その前日、俺の投稿に「❤️」を押して。。。




 偶然じゃない。

 あの時、好奇心で押した天使のアカウントの「いいね」に、何か関係があるのか?

 フォロワーが増えるたび、誰かが死んでいるのでは、、、?


 もしかして、“いいね”の対価は、命なのか。


 俺は震えながら、@wish_come_trueに返信した。


「・・・これ、どういうことですか?」


 すぐに既読がついた。


願いは叶ったでしょう?

ほら、人気者になれた。

あなたが最初に”いいね”を押したんだから、責任を取ってね。


 次の瞬間、通知が鳴る。

 あなたの最新投稿に、@wish_come_trueが「❤️」を押しました。


 画面のハートが、ひとつ、真っ赤に光っていた。

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