シスターにした女悪魔が教会に連れていかれたので助け出したらヤンデレになった話
夜野ケイ(@youarenot)
プロローグ
――コケコッコー!
村の誰かが飼育しているニワトリの鳴き声で、目を覚ました。
「ん、ぁ‥‥」
ユージオ・ミラバレスは、瞼の重さに耐えながらゆっくりと目を覚ました。部屋の窓からは朝の光が差し込み、部屋全体を照らしていた。
「……朝か」
寝ぼけ眼で体を起こそうとした瞬間、隣から聞こえる、規則正しい寝息に気づく。
「‥‥はぁ」
―――まただ。
そう思いながら、愛する隣人を起こさぬようにゆっくりと顔を上げる。すると、そこには、一人の少女が自身の脇の中に潜り込んで熟睡していた。
白銀の髪。整った横顔。長い睫毛に、ほんのり色づいた頬。シスター服の襟元を緩め、胸元をわずかにはだけさせて眠っているその姿は、あまりにも無防備で、あまりにも――艶かしい。
「……ネフェリア、お前なにしてんだ」
声をかけると、まるで猫のように身を丸めながら彼女はむにゃむにゃと呟いた。
「……神父様の隣……がいちばん……」
「……ったく」
寝ぼけるネフェリアの頬を撫でながら、ユージオは溜息をつく。
昨夜もちゃんと隣の自室の戻る姿を確認したし、扉に鍵をかけたのも確認してから、寝たはずだ。
だがこの悪魔は、気づけばいつも、当たり前のようにユージオの布団に潜り込んでくるのだ。
されるがままに、寝出られている彼女を眺めながら、ユージオの脳裏には、昨日起きた『騒動』が頭をよぎった――
―――
「で、その女は?」
教会の礼拝堂にて、ユージオは問い詰めるようにネフェリアを見つめ返す。その後ろには、教会の長机に座された女性がいた。女性は気を失っているが、その表情は青ざめていた。
「村の薬師です。神父様のこと、ずっと見てたんですよ?上目遣いで、猫なで声で、神父様に迫って来るもんだから、つい‥‥」
ネフェリアは、シスター服を着たまま、両手を組んで頭を下げる。それは、懺悔するように、神に言うように‥‥。
「『つい』で人を貶めるな」
「だって!!」
ネフェリアは礼拝堂の机をドンと叩いた。
「あのメス猿が!神父様に触って、汚したから!!
一時間のうちに三回も!背中も、肩も、右腕も!
綺麗にする私の気も知らないで……あの淫売はぁ!」
「わかった、わかった。もういい」
話を遮るために、ユージオはネフェリアの方を掴み、無理矢理中断させる。
「‥‥すいません神父様。私、嫌われちゃいましたか?」
「相手を心配しろ、そこは‥‥」
「‥‥?‥‥なぜでしょう?神父様以外いらないんじゃないですか?」
どこまでも、澄んだ琥珀色の目で見つめ返すネフェリア。その目には、狂気的なまでの真っ直ぐな思いが詰まっていた。
「ですから、神父様には、嫌われたくないんです。できれば、私だけ見てほしんです」
ネフェリアがぽつりと呟いた。その声は、どこか弱く、寂しげで――そして、どこまでも本気だった。
「……」
頭をかきながら、怒りかけていた気持ちが、覚めていく。元より、未遂だったため、そこまで怒っているわけでもない。精々が、忠告程度だ。
「仕方ねぇな」
ため息をひとつ吐いて、ユージオは彼女の頭に手を伸ばした。
「今回は、許す。もうやるんじゃねぇぞ?」
「もう、怒ってないんですか?」
ネフェリアは上目遣いでこちらを見上げる。
「お前の気持ちまでは、否定したくねぇんだよ」
そう言って、軽くぽんぽんと頭を撫でると、ネフェリアは安心したように目を細めた。
―――
――そして、現在。
隣で眠るネフェリアの髪をかき分け、静かに起き上がる。乱れたシーツと、まだ冷めきっていない温もりを背に、ユージオはぽつりと呟いた。
「……ったく、どうしてこうなったんだか」
――思えば、あの日の出会いが、すべての始まりだった。
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