第15話 決闘
「……お前は、鈴音の何なんだ?」
苛立ちを隠せない態度。敵意が目を通じて流れてくるようだ。
「俺は碧月 鈴音さんのクラスメイトの鈴木 想助っていいます」
「そうか。だったらもう帰ってくれ」
「え?」
「これは俺と鈴音の話だ。君には関係ない、邪魔だ。だから帰ってくれ」
どこかデジャヴを感じるその物言いに血の繋がりを感じる。
けど、ここで退くわけには行かない。
目が合った彼女の瞳が「助けて」と叫んでいるように潤んでいたから。
頭の上には耳がはえ、へたり込んでいた。大きなストレスを感じているんだ。
「……帰りません」
「なんだと?」
碧月は言葉を発さない。もしかしたら猫化途中で声帯が使えないのかもしれない。けど、ジッとこちらをみているその顔は、あの日みた拒絶ではないように感じた。
(……さっきもそうだった)
俺の後ろに隠れた鈴音。猫の時の彼女は本能で動く。つまり俺に助けて欲しがっていたんだ。
お猫様が助けを求めてるんだぞ。このまま置いて帰れるわけがない……それが例え、元が人間だとしても。
「俺、猫が好きなんですよ」
「……は?」
「助けを求めてる猫を放ってはおけない。だから帰れません」
「こいつは人間だぞ」
「でも猫でもある」
「あたまがおかしいのか、お前は」
「よく猫狂いって呼ばれますね。猫カフェとかで」
「……話にならん、帰るぞ鈴音。話は家でする、こい」
どんどんと体が変化していく碧月。
体が部屋で見た時のように収縮し、青い毛並みが現れあっという間にロシアンブルーの姿になった。
「そこをどけ、猫狂い。鈴音を連れて行く」
「どきません。……鈴音が怯えてるのがわからないんですか?」
「ッ……!お前が娘を名前で呼び捨てるな!」
「鈴音は喜んでましたよ。鈴音が許可してくれたので俺は鈴音を鈴音と呼びます。なあ、鈴音?」
「……にゃむ」
「き、貴様ぁ……!!五回も呼び捨てにっ!?」
なんかよくわからんけど、かなり効いているな。てか動揺しすぎじゃないか?
「なにが悪いんです?鈴音は俺に呼び捨てにされて、とても嬉しそうにじゃれついてきましたよ?」
俺は、ニチャアっと歪んだ笑みを浮かべる。碧月父はギリッと歯を軋ませ顔を歪めた。
「にゃんにゃん、って俺に顔をこすりつけてきて……ぺろぺろってさぁ……へへ、ふへへ」
これ、ノリでやってると思うだろ?違うんだ。猫吸いでトリップしてるのを思い出してこうなってんだ、俺。
「――……ッ、もういい!!やめろ!!」
「!」
はあはあ、と息を荒くする碧月父。彼は胸元に手を入れた。
「……ちっ、これだけは使いたくなかったんだがな、仕方ない」
「なに?」
「猫狂い、貴様が悪いのだ。後悔するがいい」
碧月父が胸元から手を抜きあるものを取り出した。
「……なっ」
「く、くく……貴様の負けだよ、猫狂い」
碧月父の顔面が強面なのもあって、一瞬ナイフか拳銃的なアレが出てくるのかと思った。しかし、それはある意味、それ以上にヤバいものだった。
「猫……じゃらし……!」
碧月父の内ポケットから出てきたのは、年季の入った猫じゃらしだった。彼はまるでしなるフェンシングの剣のようにそれを俺へと差し向けた。
「はっはっはー!!お前にもう勝ち目はないぞ!!!」
にやりと凶悪な笑みを浮かべ、しゃがみこむ碧月父。猫じゃらしを地面へと這わせ動かし始めた。もちろん、目的は鈴音を惹き寄せ捕獲すること。
(……なっ)
俺は愕然とする。
鈴音がそれに反応していることにじゃない。むしろ、本能的になっている今の鈴音が反応してしまうのはごくごく自然なことでありなんら不思議はない。
俺が愕然としたのは、碧月父の巧みな猫じゃらし捌きだった。
……まるで、本物の小動物のようだ……!!
一定のモーションではなく、ときおり動きを止め僅かに動かす。リアリティ。圧倒的リアリティ。猫じゃらしという道具に命が宿っていた。
俺も猫好きの端くれ。巷では猫狂いと言われるほどの猫好きだ。猫じゃらしの腕には自信があった。
Youtube動画等で知識をつけ、研究し、実践。
磨きに磨いたテクニック。
現にいきつけの猫カフェではその猫じゃらしテクニックで数多のにゃんこを虜にしてきた。それは個性も特技も秀でた部分がなにもない俺に生まれた存在意義、レゾンデートル。
……だったのにッ。
(み、認めざる得ない)
碧月父のあの表情。慈愛の聖母のようなやわらかなほほ笑み。凶悪な顔面から生み出されるはずのないその優しき笑みは、テクニックだけではなく想いまで乗せていることがわかる。
心からお猫様を想い、慕い、愛情があることを表情で表すことで、それは警戒の強いお猫様の心をとく。
猫じゃらしの動き、表情管理、その全てがGOE+5だった。
「にゃう」
俺の股の間から顔を覗かせる鈴音。あきらかにうずうずとしている。
「さあ、こい鈴音!!」
魅惑の動きで鈴音の気を引く碧月父。
一歩、また一歩と前へ足を進めていく鈴音。
「ま、まて、鈴音……」
「もう遅い!!俺を本気にさせてしまったのだからな、猫狂い!!」
「……にゃうう」
そこでふと気が付く。本来であれば、猫じゃらしを出された時点で勝負はついていた。猫の本能が強いとなれば、アレをみた時点で俺の前へ飛び出ていてもおかしくはない。
なのに、鈴音は……。
ゆっくりと歩みを進める鈴音。しかしその足取りは重々しいように感じた。まるで、その本能に抗っているような。
「さあ、鈴音!!こい!!そんな猫狂いの変態からはなれるんだ!!」
猫じゃらしがさも当然のようにポケットから出てくる奴に言われたくはないと思った。しかし、幸か不幸か、そこでまた一つふと思い出す。
お猫様が嫌がっているのなら、俺はお猫様を助けなければ……と。
手段なんて選んでられない。選ぶ必要もない。第一に考えなければならないのはお猫様の、鈴音のことなんだ。
「鈴音!!」
俺は彼女の名前を呼ぶ。僅かにこちらへ顔を向けた鈴音。その瞳はもう碧月父の猫じゃらしに虜にされているように見えた。
「バカめが!!もう遅いんだよ!!」
「それはどうかな!?」
「なに?」
俺はポケットに手を突っ込む。そして今までその存在を忘れていたアレを取り出した。
「な、なにっ……それは!!!」
碧月父の猫じゃらしの動きが止まる。俺が取り出した物、それは……
「なぜ……貴様も、猫じゃらしを……!?」
そう、鈴音をみつけたとき捕獲するのに役立つかと思って持ってきて、今の今まで忘れていた猫じゃらし。ナコの形見でもある俺のレジェンダリーウェポンだ。
「き、貴様ぁ……ッ」
「さあ、勝負はここからですよ、お父さん?」
「なっ、お、俺をお父さんと呼ぶんじゃあない!!」
デュエルスタンバイ!
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