第11話 謎である
「……いや、どちらかというと猫になる事より、その圧の方が怖いっていう」
俺は正直に言った。ここからまた変に拗れるとまずい気がしたので、もういっそ正直に伝えた方がいいと思った。すると、
「……そう……そっか。……そうだよね、ごめん」
……意外と効いてるな。
予想外の反応。てっきりまた「はあ?」みたいなのが来るかと思ったんだが。
視線を落とし、虚ろな瞳の碧月。らしくない態度にこちらも居心地が悪くなる。
話題を変えよう。
「ところで、碧月はなんでここに来たんだ?」
「……なんで」
「昨日猫の状態でここ来たろ。たまたまか?」
僅かに視線が泳ぐ碧月。ちいさく「まあ、そうね」とつぶやいた。たまたまなのか、すげえ偶然だな。
「けどすごいよな猫になれるって。どんな感じなんだ?人とは感覚も違うんだろ」
「それは、そうだけど……」
「楽しそうだよな、猫になるのって」
「……ぜんぜん、楽しくなんてないわよ」
即答された。言葉にある棘が触れてはならないところに踏み切ったことを知らせていた。
「そうなのか」
「そうよ。だって、いつ猫になっちゃうのかもわからないのよ?普段から人前で変身しないように気を使ってないとだし凄く疲れる」
「もしかして、それコントロールできないのか?」
「ある程度はできるけど……さっきみたいに許容量をこえたら制御できないわ」
「許容量って?」
「私が猫になるのって、多分、心的負荷が許容量をこえると発現するのよ」
「心的負荷……ストレスってことか?」
「そう。だから、いつも定期的に自分の部屋で猫化して解消してたの。けど、昨日は部屋の窓を閉め忘れてて、そこから脱走しちゃったみたい、私」
ストレスによって猫化か……なるほど。さっき裸を見られた事でストレスが一気に溜まって許容量をこえてしまい、ロシアンブルーになったってことか。
「ん?ていうか、碧月」
「?」
「猫化してるときって意識あるんだよな?」
「……あるけど、なに」
両腕で体を隠すように身を捩る碧月。まるで変態を前にし襲われることを警戒しているような態度。
まあ、碧月が猫化してるとき好き放題しちゃったからな……碧月の腹に顔を埋めて匂いをかいだとか、もう完全に変態以外の何者でもないよな。
これに関しては、言い訳も抗議も何もできない。それどころか訴えられたら社会的に死ぬのでここはスルーが一番良い……とにかく話を進めよう。
「あ、いや……俺がききたいのは、碧月は意識があったのになんで部屋から脱走しちゃったのかってことなんだが」
「それは、その……」
「その、なんだ?」
急にそわそわしだす碧月。言いにくいことなのか?
「……猫になると、思考が動物的になるっていうか」
「動物的な思考?」
「要するに、本能で動くようになるのよ」
「意識はあるけど、心も猫になるってことか?」
「……そ」
ふいっ、とそっぽ向く碧月。何かよくわからんが、その無駄に可愛らしいのやめろ。
というか、なるほど……これで色々と腑に落ちた。猫化した碧月がまるで別人のようだったこととか。
外で遊びたかった猫化碧月、つまり鈴音は窓から脱走。そして迷子になり、たまたまこの部屋に来たと。
「……」
つーん、としている碧月。
……いや、でも妙じゃないか?本能的になるなら、あの猫化した時の人懐っこさはおかしいのでは。
もしや、あれが碧月の素の人格って事か?ツンツンしている内面甘えたがりな奴なのか?
いや、まてよ。思考が動物的になるとも言ってたよな……てことは、猫としての本能っていう意味か?
けど、ロシアンブルーって人見知りで神経質なはずなんだが。
(……なんであんなに仲良くしてくれたんだろう)
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