第10話 それそれ!


「少し黙りなさい変態!!落ちついて!!ちゃんと話をして!!」


いや、まてまて。先に騒ぎ出したのはあなたなんですが……お前が落ち着けよ。とか言ったら枕だけでは済まなそうなので黙っておく。そこの携帯とか投げられたら痛そうだしな。


ふう、と一呼吸おいた碧月。


「……ここって、鈴木の部屋なんだよね」


「え、ああ。そうだよ」


「そう……」


きょろきょろと部屋の中を見渡している碧月。正直俺の部屋は汚い。整理整頓が苦手な人種なんでな。だからあんまり見ないで欲しい。


「……ごめんなさい」


「え?」


「……部屋に突然押し掛けちゃってごめん。困ったでしょ」


「いやまあ、多少は」


「……多少なんだ」


「まあ、困ったっていっても、飼い主見つからなかったらどうしようかなってくらいだし。どちらかというと可愛いお猫様と遊べて俺得だったっていうか、幸せだったけど」


そう、まるであの子がいた昔に戻ったみたいで幸せだった。


「……あ、そ」


ふいとそっぽを向く碧月。つーか、どちらかというと今の方が困っているまである。正直ロシアンブルーの時よりも扱いが難しいんだけど。


「なんか思った?」


「いえ、なにも」


まじで察し良すぎだろ、こいつ。怖っ。


「……あのさ」


「はい」


「さっきから普通に話してるけど、私のこと怖くないの?」


……え、いや、普通に怖いけど。


?、これどういう意図の質問だ?もしかして、自分の性格に悩んでるとか?


けど、どうなんだ。これは正直に答えて大丈夫なのか?怒られないか?


いや、まて……こうして聞いてきたってことは、自覚はあるんだよな?なら、正直に答えていいんだよな?


「……まあ、正直怖いけど」


「…………は?」


矢のように鋭い眼差しが俺を射抜く。ゾワリと背筋が凍る。


いやそれはおかしい!!怖いかって聞かれたから素直に怖いって言っただけなのに!!


「まて、今のはおかしいだろ!碧月が怖いかって聞いたから怖いって答えたんだぞ!」


理不尽すぎるだろ、さすがに!!俺の必死の抗議が通じたのか、碧月がハッとした表情になる。


「……や、そうね。それはそう、ごめん……ちょっと気が動転してて……」


「いや大丈夫だけど」


「猫になる人間なんて怖くて当たり前よね」


「ん?」


「ん?」


不思議そうな顔で互いをみる二人。そこでふと勘違いに気がついた。


……あ、そっちか!碧月の態度が怖いとかそういうんじゃなくて!人が猫になるって事がね?普通に誤解してたわ。


「……怖いんでしょ、私のこと……?」


「いやそういう意味なら別に」


「そういう意味なら?」


「ああ、うん。だって別に化物になるわけじゃないし。まあ猫の碧月は可愛すぎてある意味怖いけどな……あのポテンシャル、デレデレ甘々なムーブ。多くの人間をダメにしてしまうだろ、あれ」


ジッと俺をみてくる碧月。さっきまでのあの様子……おそらく化物だと迫害されるかもしれないと恐怖していたんだろうな。


「だから別に碧月のこと怖くないよ」


俺は安心させるように微笑んでみせた。てか夢だし。


「……鈴木」


「うん」


安心しろよ。俺はお前が猫になろうと化物だなんて言わない。


「そういう意味ならって、どういうこと?別の意味で怖かったって……何が怖いの?」


ギロリと睨みつけてくる碧月。


それだよ、それ。

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