第7話 そこに頭があるからさ
「みゃああ」
俺の腕の中で可愛らしく体をくねらせるロシアンブルー。これが、碧月……いや、夢なんだろうけど、そう思うといけないことをしている気分になってくるな。
妙な背徳感に罪の意識を覚え始める俺。その時、ぐぎゅう、とロシアンブルーの腹から音が鳴ったのが聞こえた。
「……そういや、昨日から何も食べてないもんな」
「にゃう」
例えこれが夢であれど、お猫様が腹をすかしているのであればご飯をあげないと。
「なんか持ってくるよ。ちょっと待ってて……えーと」
「みゃ?」
名前は……なんて呼ぼうかな。
「名前はあるのか?」
「にゃん」
「やっぱり碧月?」
ぱちくりと瞼を瞬かせるお猫様。尻尾が緩くはたはたと左右に動く。なんか、微妙な反応だな。
けど、こいつは見間違えでなければ碧月が猫になった姿だよな……言っててあたまおかしくなりそうだけど。
碧月……碧月、鈴音だったか……下の名前。試しに呼んでみようか。嫌ならそれなりの反応をするはずだし。
俺は恐る恐るお猫様をその名で呼んでみる。
「……鈴音?」
「みゃんっ」
耳がぴくぴくと動き、尻尾がはたはたからパタパタに変わった。なんかそっちのが良いっぽいな。
「じゃあ鈴音だな」
「にゃあっ」
すりっと腕に顔を擦るロシアンブルーのお猫様こと鈴音。碧月を下の名前で呼ぶのは割と勇気を要するが、お猫様だからな。
俺はベッドに鈴音をおろし、あたまを撫でた。
「じゃ、飯持ってくるから待ってて」
「……」
じーっと俺をみている鈴音。なんだ、その目は……?
俺は不思議に思いつつも部屋から出るために扉に向かう。
振り返る。
座っていたはずの鈴音がベッドからおりていた。
前足を出しかけ、まるで時間が停止しているかのようにピタリと動かない。
俺は鈴音から視線を外した。
そんでまた鈴音の方をみた。
鈴音が距離を詰めてきている。
また視線を外し、しかしすぐに鈴音の方へ顔を向けた。
するとかなりの至近距離に鈴音がいた。
……だるまさんが転んだか。
俺は視線を外す。すると鈴音が勢いよく俺の体を駆け上がってきて頭にしがみついた。
ぐるぐると喉の振動が頭蓋を通し俺の脳へと伝わってくる。なんというハッピービート。どんなマッサージ機器よりも癒されそう。この振動を一生感じていたい……じゃなくて。
「あの、鈴音さん」
「みゃあ」
「俺、鈴音さんのご飯とってきたいんだよね」
「みゃ」
「ちょっと待ってて欲しいんだけど」
「みゃあーあ」
「ちゃんとここで待っててね」
「みゃ!」
「よしよし、いい返事」
俺は再びベッドの上へ鈴音をおく。あたまを撫で、再び扉へ向かう。……まさかね、と思いまた振り返るとさっきと同じ光景がそこにはあった。
鈴音さんがだるまさんが転んだを開始していた。いやあ、天才かよ、笑いが分かってるな〜。さすが学年一位の成績優秀者、碧月 鈴音。お笑いまで出来るとはおったまげたなぁ。
でも、これじゃあね、いつまでもあなたにご飯あげられないからね。
「あの〜、鈴音さん」
「みゃ」
時間停止している鈴音を掴み持ち上げる。動いてないのに!みたいな不服の表情をみせたられた気がしたが、このままでは埒が明かない。
「ごはん、食べたいでしょ?」
「みゃん」
みゃん?
「ごめんなんだけど、鈴音を部屋の外には連れてけないの。すぐご飯とって戻ってくるからさ。だから待ってて……わかった?」
「みゃあ!」
「よし、いい返事!」
ふすふす鼻息荒いな?興奮してる……?目もなんか輝いているような。
俺はベッドに鈴音をセットした。
――シュタタタタ、バババッ!!
……と、まあ、そんな訳でね。また部屋を出ようとした俺に登って頭にしがみつく鈴音さんができたわけで。
俺に振り返る隙を与えないって策戦か……なるほど、あの目の輝きは攻略法を考えて試してえーって感じだったのね。それでうずうずしてたのか、可愛いなちくしょー。
俺はまたベッドに鈴音をおいた。
「だからね、鈴音は行けないの。わかる?」
「みゃあああ!」
「うーん、いい返事!」
また頭に登頂された。
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