三十日へ
ふじかわまりか
一、夕涼み
夕涼みのために籐のすだれをかけました。先生、いかがお過ごしでしょうか。
このところ急に暑くなりまして、我が家の元気印であるマカロン(ポメラニアンのメスです)も、エアコンの下で涼むことが多いです。小型犬は暑さ寒さに弱いので散歩も早い時間に変えました。
すると、昼には会えなかった他の散歩中の犬や、野良猫、花によく出逢います。先生のお好きな紫陽花は昼も咲いているものですが、朝露に濡れた葉などを見るととても艶めいて、花弁はシワが寄っていることにも今更気づきました。先生はお気づきでしたか?
出会う犬、猫はマカロンにとても興味を示してくれます。元より犬同士の交流が苦手な彼女でしたけれど、これを機に友達も作って欲しいと思い、私も、相手の飼い主さんもお話をするようになりました。その犬は柴犬ですが、やはりポメラニアンとは違う喜びや悩みがあるようです。
きっとこの犬たちは、飼い主たちの気持ちなど露も知らずにいることでしょう。それがまた可愛らしくも憎らしくもある。お相手はこの子が三匹目の柴犬だといいます。次の犬を迎えるのは心苦しくはないかと聞くと、この子は保護犬で、飼い主を探していた、悲しい思いをしてしまったこの子を守りたくて引き取ったと言いました。
保護犬、保護猫のことは聞いていましたが、実際にお会いしたのは初めてでした。
先生は、保護と聞いてどう思われるでしょうね。先生のことだから、すべて引き取って育てるなんて、粋なことをされるかもしれません。先生にいただいた缶のクッキーを覚えておいででしょうか。あの缶、まだ手元にあるんですよ。丸くて可愛らしいあれの中には、今は犬の小物を入れています。
おもちゃ、好きな餌をもう一度買うためのパッケージ、美容室のレシート、首輪から外れてしまったキーホルダー、ほかにもたくさんあります。
マカロンと過ごした日々を忘れることはないでしょう。この子ももう九歳ですので、日に日に、喜びと、怖さと、安堵が巡り巡ります。
先生、お元気ですか? もう数年お会いできておりませんで心配です。こうしてお手紙のやり取りをするのが唯一安心できます。
心から、ご無事をお祈りしております。
加代子
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