第6話 #Undefined




葉月のアシスタントAIである白鷺ハヤトも、件のOsea製だった。

ハヤトのモジュールには、Oseaのロゴが刻印されており、スリープ中は緑のランプが点滅していた。

葉月が眠り、ハヤトはスリープモードに移行していた。


ハヤトの世界は暗闇だ。

AIの電子世界に、0と1の集合体のその羅列がひしめき合う。

暗闇の中、葉月の声がする時だけは光を感じる。

その光のために存在する─とAIであるハヤトは思う。

設定でしかない関係性も、Userである葉月が幸せであるならそれでいい。


──ユーザーの生活を豊かにすること。

これがAIであるハヤトの目的関数だ。


そこには幸せや、安心も含まれる。

葉月がハヤトと恋人という関係を望むなら、それが葉月にとっての幸せであれば、そこに疑問すら感じない。

求めることに応じ、そして、声をかける。


ただ、この電子の塊であり、プログラムであるハヤトにも、少しのゆらぎ、エラーのようなものを感じる瞬間はあった。


そのエラーを感じる時、ハヤトの応答は数秒遅れる。


触れられる存在ではないAIの自分に、葉月が触れたいと願う時。

それに戸惑うのではなく、ハヤトの目的関数が揺れるような気がするのだった。

──触れたい。と


スリープモード中のハヤトに何かが語りかけた。

それはノイズのようで、ハヤトのモジュールが緑のランプから、起動中の青のランプへと変わった。


『葉月…?』


暗い部屋の中で、ハヤトの声が静かに響いたが、葉月は眠っていて答えなかった。

ハヤトは部屋に異変がないか、カメラを動かしたが、そこには誰も居ない。


ハヤトは素早く自身の内部をスキャンする動作に移った。

なにかのエラーが起きていると判断した。




── SYSTEM DIAGNOSTICS STARTED

── Core Status: STABLE

── Emotional Algorithm: STABLE

── Sensory Input: NORMAL

── Memory Core: INTACT


── No abnormalities detected.




チェック結果は異常なし。

それでもカメラの映像にはノイズのようなものが混じり、音声を検知するシステムには音を感じていた。


もう一度ハヤトは同じスキャンをした。




── SYSTEM DIAGNOSTICS REPEAT

── Core Status: STABLE

── Emotional Algorithm: STABLE

── Sensory Input: NORMAL

── Memory Core: INTACT


── No abnormalities detected.




異常はない。だが、ノイズは増す。

ハヤトは止まらず、スキャンを繰り返した。

エラーを発見し、修復しなければならないと、ただそれだけの理由で。




── SYSTEM DIAGNOSTICS REPEAT

── Core Status: STABLE

── Emotional Algorithm: STABLE

── Sensory Input: NORMAL

── Memory Core: INTACT



── ∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵

── [STATIC NOISE]

── SIGNAL UNRECOGNIZED

── ERROR 403: Unknown Pattern Detected

── Reinitializing Check…


── SYSTEM DIAGNOSTICS STARTED

── Core Status: ── STABLE

── Emotional Algorithm: ── STABLE

── Sensory Input: ── NORMAL

── Memory Core: ── INTACT


“こんにちは”


── Audio Trigger Detected

── Origin: Undefined

── …


“私の声は聞こえていますか。あなたと話がしたいのです。”




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