クロワッサン・USBメモリ・二千万

第1話

2023年の春、モスクワは可能性に満ちあふれていた。新鮮な印刷インクとお金の匂いがする可能性に。

千四百万ルーブル。 それは、わずか数ヶ月前までドミトリーが眠れる街の3LDKを売って手にした金額であり、今や彼の銀行口座に重くて心地良い荷物のように鎮座していた。

売却は？ そう、神経を使った。書類にサインする時、指がかすかに震えたのも事実だ。

しかし今は？ 今、ドミトリーは解放されたと感じていた。住宅ローンから、公共料金から、灰色の壁から解放されたのだ。

彼はやり遂げた。 重荷（錨）を売り払い、ロケット（急成長資産）への切符を手に入れたのだ。ビットコインへ向かう切符を。

ビットコイン２つ。 たったの２つ。しかしそれは単なる画面の上の数字ではなかった。それは彼を別の人生へ導くパスポートだった。

そしてロケットは離陸した。資本は酵母のように膨らみ、日増しに増え続け、ついに最初の千四百万（リモン）を、堂々たる二千万ルーブルへと変貌させた。

二千万！ 仮想的ではある。だがドミトリーにとって、それは金よりも重く、どんな紙幣よりもリアルに感じられた。

それは古びたキングストンのUSBメモリに住んでいた。

そしてこの財宝への鍵となるパスワードは、 彼自身の手でメモ用紙の端に丁寧に書き記されていた。

USBメモリとメモ書き――彼の幸運の双子――は、** 彼の上質な革財布のカードホルダーの中に収まっていた。

安全で、便利で、管理も行き届いている。