キキキ ー 祈器記 ー

@0yohey0

第0話 その祈りは、世界を壊した

願えば、叶う。

神は問わず、与える。


誰かの祈りが、誰かの願いを否定し、

世界はゆっくりと軋み始めた。


それでも、祈りは止まない。

その結果…神は裂かれた。

――――――――――――


全ては定めのままに巡っていた

神はそこに在り、それが世界の摂理であった


神はこの世界の在り方を人に委ねた


人々は神に願いを乞い、神は善悪の隔てなく、それを聞き入れた。

祈りをもって現実を変える術


それが「秘術」である


人の願いを通して現実を変える構文

正しく祈れば善悪なく祈りを聞き入れ、世界は書き換えられる

神は善悪を裁かず、全ての願いに応えた


神はただ、祈りを叶える


力に溺れた人は、欲を祈った

誰かの幸せを、誰かの命を、

未来を、記憶を、存在を、思いのままに祈り続けた


祈りが交差し、願いが互いを否定し合ったとき

世界に歪みが生じた


因果の整合が壊れ、

人は異形と化し、物は崩れ、時すら歪んだ。

”祈る心の矛盾”によって世界を壊していった。


やがて一つの王国が崩れた

祈りによって栄えた国は、祈りによって滅びたのだ。


その滅びの只中で、時の王は神に問う。



「我らは誤った…。

祈るべきではなかった…。

傲慢で、欲深かった…。


だが、お前はそれを許し、与え、叶え続けてきた。

壊れると知っていても…

壊れ続けると知っていても…

何一つ語らなかったではないか!


答えろ、神よ。

この苦悶を、お前は感じたか?

嘆きの声に、お前は耳を傾けたか?

我らが縋った"想い"を…お前は、本当にみていたのか?


…いいだろう。ならば知れ。

これが私の最後の願いだ。



我らの痛みを―――、知れ…!」


神は、その祈りを拒まなかった。

そして初めて、"痛み"を知った。


その瞬間、神に矛盾が生じた。

絶対であったはずの存在が、主観を得た。


矛盾に耐えれず神はふたつに分かれた。

一つは痛みを否定し、秩序を守ろうとした。

一つは痛みに染まり、混沌を受け入れた。


そして、分かたれた神は、それぞれに思った。


己こそが"真なる神"であると。

この世界を導くは、己の在り方であると。


だが神は、かつてのように

世界へ直接手を伸ばすことはできなかった。


だからこそ、神は一つの手段に至る。

自らの意志を継ぐ"器"を、この地に送り落とした。


それは言葉を持たず、名も与えられず、人の形をし生まれ落ちた。

本人でさえ、それが何であるか知らぬままに。


やがて彼らは、願いに似た声を発し、

力に似た何かを使い始める。

それが自らの"在り方”であると知らぬままに。


世界の誰も知らぬ。

2人の器が、やがてこの歪みの核心へと歩むことを。


――――――――――――――《祈器記》祈りが神を裂き、神が人を創りし記録。















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