終章 パレードと褒美

 女王陛下のパレードは、大歓声であった。


 美しい衣装に青いアイシャドー。陛下は人々からの喝采かっさいを受けて手を振っている。


 その一角。


 大衆に揉まれながら、彼女をながめる二人の職人がいた。


「ねえ、ラーリちゃん。どうして毒じゃないほうを選べたの?」


 女王陛下を遠目に見て、衣装師ハピがたずねる。


「香にくべたんです」


 ラーリは人差し指をチッチと左右に振り、鼻を高くした。


「宝石を見分ける方法、その三。宝石はニオイで判別できます。


 粉末にしたじゃくいしは、火にくべるとニンニクのような独特の香りがする。カミラの近くにあった、真っ赤に燃えるこうりょうが幸いしましたね」


 あの時、ラーリの投げつけたじゃくいしの一部は、ばちに入り、ヒ素が気化して独特の刺激臭を発した。


 彼女の説明に、ハピは神殿広場で買い食いしたラム串を思い出した。


「もう、心配させないでよ」


「ごめんなさい」


 ラーリは友に向け、舌をペロリと出す。


「おびといっては何ですが、パレードが終わったら家に来てください。


 化粧のほうにと、王宮からきん一封いっぷうをいただきました。新しい蜂蜜はちみつを仕入れたので、一緒にパンケーキを食べましょう」


 ハピの表情が明らんだ。


 ラーリは女王に視線を戻す。


 女王陛下のアイシャドーは、ナイル川のように深く、エジプトの空のように広大だった。


 パレードの熱気は、まだまだ冷めそうにない。





 了

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宮廷染料師ラーリは、知恵比べで負けません 冬野トモ @huyunotomo

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