第7話『学び舎の門出』

五歳になった。


公爵家の嫡男として、ついに“帝国式の初等教育”が始まる歳だ。


それは、学ぶというより、“鍛えられる”という方が近い。

誕生日を迎えたその朝、俺はひとつ年を取った喜びを噛みしめる間もなく、

チューター(家庭教師)たちとの“初顔合わせ”に連れて行かれた。



「おめでとうございます、レオン坊ちゃま。今日から、あなたの学び舎はここです」


クラリスが案内してくれたのは、ヴァルネス家専用の学習室。

帝国の名家が用意するだけあって、調度品は豪奢、書物の数は小図書館並。

そしてなにより、そこにはすでに“講師陣”がずらりと待ち構えていた。


「はじめまして、レオン様。軍学を担当いたします、クルトです」


「礼儀作法を教えます、ローザと申します」


「帝国史と魔法理論を授業形式で行います、ノルベルトです」


(先生多っ!?)


たしかに公爵家の子供としては普通かもしれない。

でも前世、日本で義務教育を受けてきた俺からすると、

この人数とカリキュラムの圧がすごすぎて、もはや軍隊レベル。



午前は座学、午後は体術と魔力訓練。

基礎中の基礎を、徹底的に叩き込むスタイル。


でも、俺はわかっている。

これは“押しつけ”ではない。


原作のレオンは焦って力を求め、悪魔と契約するという最悪の選択をした。

でも今の俺は、焦らない。急がない。


努力して、実力を積み上げる。

守るべきものを守るために。



午後の魔力制御訓練では、最初の“身体強化”に挑むことになった。


「レオン様は闇属性と無属性の適合者です。

無属性は特に“身体操作”に優れます。まずは手の力を制御する訓練から始めましょう」


チューターのクルトが言う。


俺は深呼吸し、両手を前に出す。

意識を指先に集中させ、魔力を流し込む。


(……熱い。けど、暴れない。ちゃんと動いてくれる)


手のひらがわずかに振動し、血の巡りが強くなる感覚。

自分の体が、魔力によって“起きて”いくのがわかる。


「――お見事です。反応が非常に繊細だ」


チューターたちが小さくどよめいた。



勉強も訓練も、まだまだ序の口だ。

この先、きっともっと厳しい日々が続く。


だけど、俺はこの道を選んだ。


他人に押しつけられた“悪役”じゃない。

誰かのために生き、誰かを守れる力を手に入れる“未来”のために。



ヴァルネス家の旗が風にたなびく。

その影の下で、俺の“学び舎の門出”が、静かに始まった。

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