シンバイオシス武士道
早急重複
序章
プロローグ
1950年 2月
大
『臨時ニュースを申し上げます。本二十六日未明に起こった叛乱軍の攻撃は、現在に至るまで継続しております。
『襲撃を受けた豊臣将軍は現在、安否不明の状態です。
『叛乱軍には多数の強化人間が加わっているとみられており──』
雪の降りしきる深夜。
この日、厳冬に襲われた帝都の郊外に位置する陸軍生体化学技術研究所は、地獄絵図の形容にふさわしいありさまであった。
原型をとどめない人間の死骸が、つい数時間前まできわめて清潔に保たれていた研究所の床に散乱し、弾丸に穿たれた壁面に血がこびりついて抽象画の様相を呈している。
すでに研究所の警備は一掃され、世に出てはならない膨大な量の機密資料と標本が、叛乱軍の手に落ちつつあった。
「……
血溜まりができるほどの失血が示すとおり、すでに真言は常人であれば死を免れないであろう重傷を負っていた。
上半身の数箇所に深い裂傷を受け、全身にみられる打撲は数え切れない。気絶していた真言のそばを通りがかった叛乱軍の兵士が、死体と誤認したのも無理のないことだろう。
「天姫さま……お救い、せねば」
半死人と言って差し支えない状態でありながら、真言は立ちあがろうとこころみた。
だが、筋肉は弛緩し、神経は脳の指令を十全に伝えることができない。ふたたび意識が遠のき始めたが、そうなれば今度こそ目覚めることはないという確信があった。
呼吸することさえ困難になり、たとえ息をしたところで酸素を循環させる血そのものが失われているという状況で、真言にできることはなかった。
「……」
手足の感覚が失われ、視界が暗転し、聴覚だけがいやに鋭敏になる。しかし臨死の間際にあって、真言はなお生きる意欲を手放さなかった。
──かさかさ。と、音がした。
それが何であるかを考えるだけの機能は、もはや真言の脳には残っていなかったが、音がだんだんと近づいていることだけは認識できた。
やがて、何か重いものが──とてつもなく重いものが──地に伏す自身の上を這い回っているような感覚が生じた。それは何かを探すかのようにして真言の体にまとわりつくと、間もなく最も大きい傷口に向けて勢いよく潜り込んだ。
痛みはなかった。
五感は完全に失われて、ただ朦朧とする意識のみが残されている。
だが、再び失神する直前に、真言は不思議と満足感を覚えた。
それが自分自身の感情ではないということに思い至るころには、すでに思考回路は途絶していた。
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