レベル1雑用係。追放されたけど、経験値を好きな能力に変換できる俺、気づいたら世界最強でした

一ノ瀬咲

第1話 レベル1雑用係、追放される

 この世界では「レベル」がすべてを決める。

 戦えば経験値を得て、レベルが上がる。

 それに応じて新たなスキルを習得し、より強く、より高く登りつめていく。


 レベルが高い者は称賛され、レベルが低い者は見下される。

 それが、この世界における揺るがぬ価値観だった。


 そして俺、レオン・グリードは——

 ギルド所属の“雑用係”として、5年間レベル1のまま過ごしていた。


「レオン。お前は今日をもって、ギルドから追放だ」


 告げたのは、ギルドマスターのバルログ。

 目の前の机には、俺の個人記録が広げられていた。


『氏名:レオン・グリード

 職種:雑用係(非戦闘員)

 レベル:1(変動なし)

 スキル:検出なし』


 変化のないステータス。

 俺がこの5年、何も得られなかった証明書だ。


「お前の努力は認める。だが、ギルドは“力”を持つ者のためにある」


「……」


 言い返す言葉はなかった。

 実際、俺は戦えない。レベルも上がらない。

 ポーションを配り、装備を磨き、地図を描き直す。

 ただ、それだけの毎日だった。


 バルログの視線に、微かな同情はあった。

 だが、その瞳には“見限り”の色が濃く映っていた。


「これ以上、居場所を与えるわけにはいかん」


 最後にそう言い放ち、バルログは背を向けた。

 彼の目に、もはや俺という存在は映っていなかった。


 追放。

 つまり、俺にはもう存在価値がないということだ。


 ギルドの門を出ると、冒険者たちの視線が突き刺さった。

 誰かがひそひそと囁くのが聞こえた。


「ようやく追放されたか」

「五年間もレベル1とか、よく今まで居座れたな」

「雑用係のくせに、一人前気取りだったからな」


 悔しさで、唇を噛んだ。

 しかし、反論する言葉は出てこなかった。

 彼らの言葉は、すべて事実だったから。


 誰も俺の存在を必要としていなかった。

 誰も、俺の“努力”を見ていなかった。


 ギルドの裏路地を抜け、夜の帳が降りた町を歩く。

 この世界で、俺の帰る場所はどこにもない。


(……本当に、俺は何の力もなかったのか?)


 そんな疑問が、頭から離れなかった。

 いや、それ以上に、俺自身が自分を信じていなかった。


 それでも——どうしようもなく、心の奥底で燻り続けていた思いがあった。


(いつか、何かを証明してやりたい。たとえ誰にも信じられなくても……)


 俺には、密かに保管していた一冊の古い文献があった。

 数年前、倉庫の整理中に見つけた、正体不明のスキルリスト。


 その一節に、こう記されていた。


【経験値錬金】:経験値を素材として、任意の能力や資源に変換する力。

 発動条件:不明。確認例:なし。


 それは、誰も存在を信じていない“未発見スキル”だった。

 けれど——なぜか、その名前だけが脳裏に残り続けていた。


 説明も曖昧で、まともな出典もなかった。

 ほとんどの人は一笑に付すだろう。

 だが俺は、それを“夢物語”だと思えなかった。


(もしかして……俺にもこれが眠っていたとしたら?)


 その夜。俺は森の外れで、ひとり手をかざしていた。


 闇の中で風が鳴る。

 月の光すら届かない、木々の隙間。

 ひどく寒いのに、なぜか背中に汗が伝っていた。


 ——何も起こらなければ、それで終わりでいい。

 そう思って、名前を口に出す。


「……経験値錬金」


 次の瞬間——


〈ユニークスキル【経験値錬金】の所持を確認〉

〈条件適合:スキル解放〉


 淡い青の光が空中に走り、俺の視界にウィンドウが浮かぶ。


〈スキル取得:【経験値錬金】〉


 光は静かに波紋のように広がり、周囲の空間がわずかに震えた。

 木の葉がざわりと鳴る。


「……本当に……俺は……」


 言葉が震えた。

 今まで誰にも気づかれなかった。

 俺自身すら信じていなかった。


 でも、確かにこの力は俺の中にあった。

 ひた隠しにされ、誰からも見向きされなかった可能性が——今、光を持って現れた。


「——これが、俺のスキルか」


 拳をゆっくりと握りしめる。


 まだ使い方も、効果も、何も分からない。

 だが、確かな感覚があった。


 この力があれば——俺は変われる。

 いや、俺だけが、変わり方を選べる。


 歯車が、回り始めた。

 追放されたはずの俺の物語が、静かに動き出す。


 誰にも望まれなかった、価値なき存在。

 それが今、誰よりも異端の力を手にした。


 ——そして俺は、まだ知らない。

 このスキルがやがて“世界そのもの”を変えてしまうことを。


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