第13話
楠君は銃を私たちに向けたままそう言い放った。
私たちは立ち上がると、全員、同時に楠君に向けて持っていた銃を向けた。
流石に七人から銃を向けられて、怯んだらしい。
「な、なんだよ。みんなで団結しやがって」
「もう、バトルはごめんだ。浄霊師に浄化を頼んだ。俺達七人はこの輪から抜ける。お前はどうするつもりだ? 誰もいなくなって、たった一人で永遠にこの大学に居残るつもりか。山は燃えつくされ、もう殺す相手もいなくなるぞ」
「そんなことをさせる前に、片っ端から殺してやるよ」
楠君が引き金を引こうとした瞬間、大庭君が楠君に向けて銃を放った。
それは、脳や心臓を狙ったものではなく、手から銃を落とすためのものだった。
銃が床に滑り落ちる。楠君の手の甲から血が流れていた。
目が光る。
左手が一瞬のうちに動き、ナイフが大庭君に向かって飛ぶ。
奥村さんが咄嗟に自分のナイフを投げ、楠君のナイフを宙で弾いた。金属と金属が衝突しあう音が響く。
奥村さんの華麗な剣さばきに、誰もが呆気にとられていた。
「まったく、どうでもいいことばかりに腕が磨かれて……。ここへ来る前に、なにか打ち込めるものを見つけられたら、今くらいに上達したのかな。社会人だった頃、色々諦めていたけれど、もっとなにかを頑張ればよかったのかな。せめて最後くらい、私にも見せ場をちょうだい」
奥村さんはそう言って、手の骨を鳴らす。
「とりおさえて」
水城さんが命令した。男性陣が楠君の後ろに回り込んで、両腕を抑え込む。
「ちょっと待っていてください。ロープを持ってきます」
寺尾さんは講義室を出ていく。
「なにするんだ、放せよ。ふざけるな」
楠君は全身で暴れ出した。
「武器のない状態で俺に勝てると思うか。ガリガリのくせに。片っ端から殺す? お前に森山ほどのスキルはねえよ」
大庭君は楠君を引きずる形で、一段一段降りてくる。最上さんはその後ろから、楠君を見張っている。
私たちはそれを遠目から見ていた。窓からは日が差し込んでいた。
「森山もああいう目にあえばよかったのに、ってちょっと思ったのは、私だけ」
千夏が耳元で囁く。
「私も少しそう思った」
肩をすくめる。憎むべきなのはこの山の神で、思考が狂わされた森山君や楠君を懲らしめるのは的外れかもしれない。
でも、初めて対峙した時のあの恐怖を思い起こせば胸の内に壮快感が湧いてくるのも、また事実だった。
人間なんて、所詮そんなものだ。
寺尾さんが戻ってくる。
楠君がなにもできないように、無理矢理手を後ろに組ませ、ロープで椅子に括りつける。
「なにをしやがる。やめろ、やめろって言ってるだろ。銃とナイフ返せよ」
楠君は三人がかりで抑えつけられながら、喚き続ける。私と目が合うと急に静かになり、ニヤリと笑った。
「大木さん、僕を殺してよ。ねえ、今すぐ殺してくれよ。俺だって苦しいんだ。楽になりたい」
「なら、あなたから浄霊してもらうように頼みましょうか」
私は突き放した口調で言った。ここで私たちが殺してしまえば楠君は振り出しに戻る。つまり、自由になってしまう。
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