第11話

それから私たちは、何度もバトルを繰り返した。


バトル開始前の数分間、寺尾さんの代わりに私が教壇に立つことになってしまった。


みんなが納得するまで何度も質問に答えた。


そうして、少し話合いをすれば楠君が狂いだし、殺し合いが開始される。楠君のやり方はほとんど森山君と同じだった。

 

森山君がいなくなっても、森山君の代わりが現れる。


私はそこに恐怖を覚えた。


つまり、楠君がいなくなっても、バトルをしたがる人間が他に現れてしまうのだ。


まるで思考そのものが、なにかによって狂わされてしまったかのように。

 

おそらくこれは、楠君の本質ではない。


森山君もまた、思考を狂わされていたに過ぎないのかもしれない。なにに、とは言わない。もう答えはわかっている。


私はもう一度、三雲さんを呼ぶことにした。


みんなに事情を話してから、九度目に講義室に集まった時だった。


メンバーは、少しずつ、自分たちが死んだことの状況を受け入れるようになっていた。  


あれほど興奮していた大庭君も気持ちに整理をつけるようになったみたいで、話すたびに冷静さを取り戻している。


浄化を頼みたい。そうした思いが言葉の端々に見受けられるようになり、誰一人として諍いを起こそうとはしなくなった。楠君以外は。


楠君はまるで聞く耳を持たない。


十度目。いつもと同じように笑いだし、狂った言葉を吐いて楠君が講義室で発砲した時。


講義室のドアが開き、銃声が別のところから聞こえた。楠君はあっけなく倒れ、動かなくなる。


「頼まれた浄霊は成功したっていうのにあなた達、まだこんなことをやっているのね」


三雲さんだった。対霊用の銃を片手に、講義室の階段を一段一段降りてくる。みんなには彼女の声が届いていないようだ。呆然とした表情で楠君を見つめている。


「誰が撃った、今の……」

 

それぞれが顔を見合わせる。


「三雲さん」


私は静かに言った。みんなはその存在を確かめたいのか、視線をさまよわせている。


「あ。私見えます。ぼやっとしていてはっきりとは見えませんが……」

 

寺尾さんが言う。視線はちゃんと三雲さんに向けられている。


三雲さんに、森山君を浄霊しても代わりがあらわれてしまうことを話した。説明している間に、楠君の体には砂が覆いかぶさり、消えていった。


「七海、そこにいるの。その人は信じてもいいの」


千夏が私の隣を指差す。私は頷いた。


「つまり、一人浄化したところで、あなた達に変わりはないということね」

 

三雲さんは他のメンバーを相手にせず、私に言う。


それは生きている人間であれば仕方のないことだと思った。


三雲さんにとっては目の前に、私を含めた七人もの霊がいることになるのだ。


本当なら怖いはずだ。


「ええ。あなたと最後に会ってからどれくらい経つ?」


「三日ほどよ。私はその間、祈祷をしていた。雨の神に、山の神の狂乱を鎮めてもらえるように祈った。それと、あなたのご遺体は無事発見され、引き取られたから。今頃、騒ぎになっているでしょうね」

 

目頭が急に熱くなった。寺尾さんは声も聞こえるようで、痛ましいといった表情をしている。


「なに、なんて言っているの」

 

千夏が訊いてきたので、私はそのままを話した。周囲はまた沈黙に包まれる。


「なら、私の死体は? やっぱり山奥にあるの」

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