いじめられているクラスメイトの男の娘を助けたら仲良くなった

モンブラン博士

第1話

「ヨハネス君の様子を見に行ってほしいのだけれど、いいかしら?」

「はあ。わかりました」


担任から頼まれた猫山は承諾したが、そこまで乗り気ではなかった。

自分はヨハネスと親しい間柄ではなく単なるクラスメイトで頼まれたのは頼みやすかったからだろう。他の生徒の頼みならともかく教師の頼みを断る理由はないからだ。

鞄を持って教室を出る。

家に帰る前にちょっと寄り道をするだけなのだから問題はない。

中学の校門を抜け歩きながら、猫山はヨハネスについて考えていた。

彼が不登校になってから二週間近く経つ。病気ではないことは確かだ。

休む前日までヨハネスは健康的だったと思う。少なくとも表面上は。

ヨハネスはよくも悪くも目立っていたからそれが原因だろうか。

考えても理由はわからない。本人に聞いた方が早いと考え直し自然と歩が早くなる。

彼の家に行くと専業主婦の母親が出迎えて、家を案内してくれた。

ヨハネスの部屋に行くと軽くノックをして言った。


「ヨハネス君。あなたと同じクラスの猫山よ。先生に頼まれて様子を見に来たの。悪いけど、顔を見せてくれないかしら」

「猫山さん……?」


怪訝そうな声が返ってきたので猫山は言った。


「そうよ。あなたの顔を見たら帰るから安心して」

「カギはかけてないよ」

「それじゃあ入るわね。お邪魔します」


取っ手を回して中に入るとヨハネスがいた。

白のブラウスに黒のスラックス。家の中でもお洒落な服装だった。

ヨハネスは美形だ。透き通るほど白い肌に碧眼。

絹のように柔らかく腰まで伸びた金髪。

口元には弱弱しい笑みを浮かべている。

ドアを閉めてから単刀直入に猫山は訊ねた。


「学校で何かあった?」

「やっぱり気になる?」

「そりゃあね。

毎日顔を合わせているクラスメートが突然来なくなったら気になるわよ。

もちろん、他の人ほどじゃないけど」

「ごめんね」

「謝らなくてもいいわよ」

「……お茶、持ってくるね」

「気を使わなくてもいいわよ。すぐ帰るから」

「僕も飲みたいから。ね?」


ヨハネスの淹れた紅茶を飲み、クッキーを食べながら話を続ける。

意外にもヨハネスは不登校になった理由を話してくれた。これまで猫山はヨハネスと会話をしたことはほとんどない。ただのクラスメイトで、それだけの関係だった。

だからこそヨハネスは自分のことを話したくなったかもしれない。

ほとんど無関係な人物だからこそ信用を得たのだ。

ヨハネスは中学入学当初は人気者だった。

成績優秀で穏やかな性格で何より美しかった。

けれど、それが仇になった。

あまりにも整い過ぎた容姿は性別を超えた存在などと持てはやされ、女子からは嫉妬された。自分たちより美しく、男子がヨハネスにばかり注目するという理由で『嫌味』というあだ名をつけられ陰口を言われるようになった。最初はあれだけ親切だったクラスメイトたちの豹変に困惑し、悲しむことしかできない。

進級してからも女子グループの影のいじめは変わらず、彼の長髪を難癖をつけて切ろうとする者まで現れたという。

学校内外問わずモデルのスカウトに訪れる人々、男子からの好意の目線。

それら全てに耐えかねたヨハネスは不登校の道を選んだ。

話を全て聞いた猫山はやや冷めた紅茶をすすって。


「最低の連中ね」

「僕の髪、切ったほうがいいのかな」

「どうして? あなたの髪はとてもサラサラできれいだし似合っていると思うのに。

好きで伸ばしているんでしょう?」

「お母さんにきれいな髪だから伸ばしたほうがいいって言われてずっと……手入れは大変だけどね。でも気に入ってる」

「だったら気にする必要はないわよ」

「ありがとう」


猫山はヨハネスに断りを入れて彼の髪に触れてみた。

絹のように軽く柔らかく滑らかな指通りだった。

それからお互いどんなシャンプーを使っているのかという話題で多少盛り上がった後、猫山は軽く咳払いをして訊ねた。


「あなた、男子には人気なのよね」

「そうみたいだよ。好意的な目を向けられるのは、あまり嬉しくないけれど」

「そうなると嫌がらせをしてくるのは女子だけってことね……よし、わかったわ。

あなたさえよければ席替えしてもらいましょう。私の隣に」

「え?」

「私の隣なら授業中でもちょっかいを出してくることはないし、移動教室や給食の時間も大丈夫よ」

「でも、猫山さん。どうして僕にここまでしてくれるの? 申し訳ないよ」


猫山は長い黒髪を耳にかきあげてから微笑んだ。


「私はただ優れた人間の足を引っ張る連中が許せないだけよ」

「そっか」

「それじゃあ私はこれで失礼するわ。クッキーと紅茶、ご馳走様。とてもおいしかったわ。気が向いたら学校に戻ってきて」


翌日。猫山は先生に頼みヨハネスの席を自身の隣とした。

それから数日経ってヨハネスは戻ってきたが以前と比較すると陰口の類は激減した。

クラスの孤高の女王。

人と同じ行動をすることを良しとせず我が道をゆくクールビューティー。

猫山の存在はヨハネスにとって頼りになった。

今日も猫山は騒がしいクラスメイトを尻目にファンタジーの本を読む。

黙々とページをめくっている。

ヨハネスも同様に本を読んでいる。


「その本、面白い?」

「面白いわよ。あなたのも面白そうね。読み終わったら貸してくれる?」

「もちろん」


ヨハネスと猫山の日常は少しずつ変わり始めていた。


おしまい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

いじめられているクラスメイトの男の娘を助けたら仲良くなった モンブラン博士 @maronn777

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ