さいのう
がらくた作家
さいのう
誰にとっても価値のない、どうしようもない才能をひとつだけ持って生まれてきた。せめて自分だけでも愛してやらねば、そうでなきゃ才能があまりにかわいそうじゃないか。そう思って生きてきたが、それも重荷に感じられてきた。
自分ひとりしか愛していない才能など持っていても仕方がないのだ。私は決心して、つい先週それを捨ててしまった。
私の部屋には何もなくなった。先週までは才能だけはそこにあった。才能だけしかそこにはなかったのだ、ということに、それを捨ててしまってから私はようやく気がついたのだった。
家賃を払えなかったが不動産屋に連絡するのも億劫だったので、そのまま部屋を出て、もう二度と帰らぬことにした。どうせ持っていけるものも何もない。準備に時間はかからなかった。
三キロも歩くと疲労で動く気力が失せた。ちょうど公園にいたが、どこのベンチも鳥の糞にまみれていて座る気になれなかった。
鳩が寄ってきた。睨んでも退かない。私には鳩の一匹も動かせなかった。
どうしようもないので部屋に戻った。捨てたはずの才能が出迎えてくれた。私が行くあてなく元の部屋に戻ってしまったのと同様に、私の才能も私の元には戻ってきてしまったのだった。
翌日、私には才能があったが、それは誰にとっても無価値なのでないのと同じだった。家賃をどうしたものか、と思いながら床に寝転がる。大家か何かがやってくるまで、天井を見て過ごすことにした。
自分ひとりしか愛していない才能など使わなければいいだけで、何も捨て去ってしまうことはなかった。家賃を稼げたかもしれない一日をすっかり無駄にしてしまった私は床に寝仰向けになった。腕をできるだけ上方にまっすぐ伸ばし、そこから才能を投げ上げる。頂点に達して落ちてきた才能を、私は掴み損ねた。手をすり抜けた才能は私の顔面を直撃したが、私は何も感じなかった。虚しくなり、空を抱きしめてみる。しかし、それでも私は何も感じなかった。
さいのう がらくた作家 @gian_o
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