第5話



 黄昏時。


 村の明かりが見えた。


 のんびり来たので、それでも夕方の到着になるならば近かったなという印象だった。

 いつも通りの旅人にしては暢気な足取りで、メリクは森を歩いていた。


 ふと、前方を見てメリクは立ち止まった。

 樹々の間に人影が踊る。

 夕暮れの暖かい光の中、それに淡く溶ける真紅の鎧を纏った一人の青年が、彼にはまだ重そうな大剣を振るっていたのである。

 癖のある短い黒髪を揺らしながら一生懸命、剣を振り回している。


 突然出現した、不思議な光景だった。


 ――と。


 青年の周囲に白い影が見えた。

(なるほど)

 力の弱い部類だがあれも不死者だ。

 つまり青年は必死に戦っているのだと、メリクは気づく。

 だがこの綺麗な夕暮れの光の中、剣では斬れない不死者相手に一生懸命剣を振るっている姿は、彼からしてみれば随分暢気な光景に見えた。

 はっ! とか、せいっ! とか元気いっぱいな声は聞こえて来るが、あれでは意味は無いのだ。


 メリクの見た所では、不死者の方にも人を殺すほどの力はないようだった。

 だがあのまま青年が弱った所に取り憑いて、身体の部位を壊死させるくらいはするかもしれない。

 何より苗床を持った不死者は、更に強い不死者を招く場合もある。


「うわっ!」


 青年が躓いて盛大に転倒した。

 落とした大剣の替わりに腰の短剣を抜いて、急いで身構える。


 ……だから剣じゃ倒せないのに。


 面倒ごとだと思い通り過ぎることも考えたが、メリクは溜め息をついた。

 進むべき道はこのまま前進だ。迂回する方が徒労である。


「剣を、上に上げろ!」


「――えっ⁉」


 反応は良かった。

 青年はどこからか飛んだ声に反応し、ようやく拾い上げた大剣を上に掲げた。

 メリクは指で印を結ぶと、それに向けて炎の魔法を放った。

 大剣が紅色に鮮やかに輝く。


 ハッとした青年は咄嗟に剣を振るった。

 白い影が裂ける。

 通り風のような悲鳴を上げて不死者は消えた。


 ずっと斬った手応えが得られなかったものが、初めて退治したという実感が湧いて、青年は表情を輝かせる。


「やった……!」


 青年が声を零して喜んだのも束の間、すぐに次の声が飛ぶ。

「危ない! 後ろ!」

 振り返ると、不死者の白い腕が自分の額に振り落とされた後だった。


 翡翠が魔性の色を帯びる。


 ――振るった腕を伝い、白い雷が凄まじい音を立てて走った。



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