第12話:歴史の交差点、それぞれの推し活の道へ
京都、街角の古書店.
薄暗い書棚に、
一人の女性が立っていた.
指が、古文書の背をなぞる.
源義経の生涯を記した、稀覯本だ.
彼女の頬に、微かな笑みが浮かぶ.
――べ、別に好きちゃうし。
心の奥で、声が響いた.
大学の図書館.
歴史サークルの学生が、
分厚い資料を広げている.
来月の発表会に向けた準備だ.
織田信長に関する新説.
その言葉の端々には、
推しへの熱い思いが滲む.
仲間と意見が食い違う。
けれど、彼は諦めない。
東北の自宅.
一人のフリーランスが、
パソコンに向き合っていた.
郷土の歴史を題材にした小説.
藤原秀衡の夢を紡ぐ.
締め切りは目前だ.
だが、言葉が、なかなか出てこない.
煮詰まる。
けれど、あの幻視が、彼を支えていた。
オフィスの休憩室.
一人のオフィスワーカーが、
スマホの画面を見つめる.
平安時代の和歌が、
まるでメロディのように、
心に響く.
藤原道長の華やかな世界.
その美しさに、深く浸る.
ふと、職場の人間関係に悩む。
けれど、道長の美学が、彼女を救う。
歴史系コンテンツの制作会社.
クリエイターが、
動画の最終編集作業をしている.
徳川慶喜の隠棲生活を題材にしたものだ.
映像と音声を調整する.
「いや、無理に目立たなくても…」
彼の口癖が、そっと漏れる.
しかし、その表情は、充実感に満ちていた.
奈良の古刹.
若い女性が、庭で静かに佇む.
聖徳太子にまつわる古い言い伝え.
彼女の心には、
「和を以て貴しとなす」
その言葉が深く刻まれている.
日常の些細な争いに直面する。
けれど、太子の教えが、彼女を導く。
道場.
女子剣道部の部長が、
汗を流して稽古に励む.
木刀を構える姿は、凛としている.
巴御前の不屈の精神を胸に.
「女だからって甘く見ないでね」
彼女の口癖が、響く.
厳しい練習に心が折れそうになる。
けれど、巴御前の幻視が、彼女を奮い立たせる。
公園の片隅.
一人の母親が、
子どもと遊びながら、
歴史書を読み込んでいる.
常盤御前の壮絶な人生に思いを馳せる.
「ま、なんとかなるでしょ」
口癖が、疲れた心に優しく響く.
育児と仕事の両立に疲れ果てる。
けれど、常盤御前の愛が、彼女を癒やす。
番組の編集室.
映像制作者が、
史実の映像を見つめている.
安徳天皇の悲劇を伝える番組だ.
「撮るなら、真実をね」
口癖が、静かにこぼれる.
歴史の残酷さに心が揺らぐ。
けれど、人々の祈りが、彼女を支える。
大学の講義室.
一人の学生が、
熱心にノートを取っている.
歴史上の人物の功績を、
経済学の視点から分析する.
平清盛の多面性に、深く感銘を受けていた.
データの壁にぶつかる。
けれど、推しの「複雑さ」が、彼を導く。
アトリエ.
美しい絵筆を手に、
芸術家がキャンバスに向かう.
源頼政の鵺退治に秘められた美学を、
描こうとしている.
「美しいものには、必ず真実が宿ります」
口癖が、創作の喜びを語る.
表現に行き詰まる。
けれど、頼政の美学が、彼女を突き動かす。
それぞれの歴女が、
それぞれの場所で、壁にぶつかる.
欲しい資料が見つからない.
周囲に理解されない.
推し活に使える時間がない.
けれど、彼らは知っている.
これまでの旅で得た、深い気づき.
トラブルを乗り越える力を、持っていることを.
推しへの愛と、
それを通じて得られた充実感.
噛み締めながら、前向きな笑顔で.
次なる推し活へと歩み出す.
それぞれの背中が、
光の中へ、消えていく.
――推しがいるって、やっぱり最高やな!
---
(第1部 完)
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歴女たちの幻視旅 ~推しと歩む、歴史の足跡~ 五平 @FiveFlat
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