第53話

発砲音のあと、モニターには地面に倒れるティアーゴの姿が映っている。

魔導兵装の銃口から立ち上る煙が事態の急変を告げていた。


「兄さま!」

ローザの悲痛な叫び声がフロアに響き渡る。

ティアーゴを守るように兵士たちが走りより、その周囲を魔導兵装が取り囲む。

重装甲の足音が地面を叩き、振動がモニター越しにも伝わってくる。


「おい、どうなってんだ、これ! 作戦は失敗したのか?」

動かないはずの魔導兵装が動いている。

何かの手違いか?!

それとも……


「いやいや、ちゃんと作戦どおりやで、兄さん。」

ジルベロの浮かべる笑みには明らかにこれまでと違った悪意に満ちたものが浮かんでいる。


「お前……やっぱりか。」

「大当たりやで、おめでとさん。」

コイツ、この瞬間を楽しんでやがる……

歪んだ顔でジルベロは俺に銃口を向ける。


「いやぁ、兄さんが最初に裏切り者とか言い出したんは少し焦ったわ、バレてるか思てヒヤヒヤしたわ。」

「お前の見えてるんだか見えてないんだかわからん糸目からは反骨の相が出てんだよ。」

「なんやそれ、ひっどいなぁ。」

「どっちが酷いんだよ。 そもそも何が狙いなんだ?」

「全部や。 こちらからの提案をすべてひっくり返したもの全てが目的や。」

「どう言うことだ?」

「まずはローザちゃん…… 認識阻害の魔法なんか知らんけど、正体はカルディナーレ家の娘やろ。」

自らの勝利を確信しているのか、いつもより舌がまわるようだ。

ペラペラとよく喋りやがる……


「偶然やったんや、ディアナを見つけたんわ…… 帝国で足取りが掴めんくなって途方に暮れてたんやけどな……たまたま別の任務で連邦の紫炎の誓いを追ってたときや。」

「お前、ひょっとしてあの場にいたのか?」

「せやで、わからんかったやろ? 僕の本業は諜報や、姿を隠したり変装したり、その手のことで僕の右にでるもんはおらん。」


紫炎の誓いとの戦い。

ゴルドバで依頼をこなしている最中にレティがDIY気分で作った城の中で突然襲って来られた。


あの時、彼ら以外には人の気配なんてなかったが、コイツがあの場にいたらしい。


「それで? 自分の能力をお披露目して何なんだ? 僕ちゃん凄いってか?」

「そん時や……一瞬ローザちゃんにかかってる認識魔法が解けたんや。」


レティがゴーレムにやられた時か!

確かにあの時、レティが気を失って倒れていた時間があった……

その時に魔法が解けていたのか。


「驚いたわ…… ディアナの捜索も僕の任務の一つやったからな。 僕の日頃の行いがえぇからなぁ、僥倖やったで。」

「ただの幸運を自分の行いの結果に変換出来るとか、悪党の感性は理解から遠いな。」


「そっからは忙しかったで。ディアナをおびき寄せ、ティアーゴを始末し、味方のフリして帝国を引きずり込む……計画の立案と実行は僕や。 えぇ仕事しとるやろ?

あとは魔導兵装で一気に蹂躙するだけや。

自分らが国境付近で包囲されとるとも知らんと、ようあんなとこで陣張っとるわ。 ほんま、帝国はチョロいで。」

「気持ち良くなってるとこ申し訳ないんだがな、ティアーゴはまだ生きているし、帝国も健在だ。 お前はまだ何も成し遂げてないってことに気付いていない。」

「はぁ? こっから何をどないするっちゅうねん。 兄さんこそ、起こり得るはずもない未来に期待するのはやめたらどうや?」


ヘラヘラとニヤけたツラのジルベロを無視して、泣き崩れているローザに手を差し伸べる。

俺にすがるような目を向ける彼女にニッコリと微笑む。


「ローザ、兄貴を助けにいくぞ。」

「ちょいちょいちょい……僕を無視して何を言うてるねんな。 こっからどれだけ距離があるかわかっとんのか? それに僕が君らを行かせるとでも思ってんの?」

「お前のことなんざどうでもいいんだよ。 この小物が。」

「あぁん? この僕が小物だぁ? じゃあその小物に殺される君らは一体何なんだ?」

「ぶふっ! ちょっと煽られただけでイラつくやつが小物でなかったら何なんだよ。」


ローザを引っ張り上げて立たせる。

涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔を拭いて、頰をパンパンっと軽く叩く。

「まったく綺麗な顔が台無しじゃないか。 兄貴を助けにいくんだろ? ヒーローはカッコつけて登場しないと駄目なんだぜ?」

あまりに自信たっぷりに笑う俺を見て、ローザ少しだけ元気を取り戻したように見えた。


ただ騙されているだけじゃない。


さぁて、逆転の大脱走と洒落込もう。


「お前ら、いい加減にしやがれ!」

ジルベロの銃が吠える。

弾丸が俺の頰をかすめ、鮮血が舞う。

着弾の衝撃で床の金属板がビリと震え、空気が焦げたような匂いが漂った。


さっき戦った衛兵のもつ銃とは比べ物にならない程の威力だ。


「この魔導兵装はなぁ、お前ら帝国の騎士団を葬り去る為に作られた特機や! コイツの破壊力を十分に味あわせたるよ!」

「ばーか、誰が戦うって言ってるんだよ。 お前はここで一人でババ抜きでもしてろ。」

「お前は別にいらんから死んどけ。」


怒りの頂点に達したのかジルベロの冷たい声が一発の銃声とともに射出される。


「頼むぜ!」

「うむ、任せるが良い!」

ジルベロの放った弾丸は、防御結界と自己強化された俺のガードによって弾かれ霧散した。


防御結界を張ったのは……

「なんや、それ……」


ジルベロの視線は俺の肩口に立つ存在へと向けられる。


「む、ワシか? ワシは万物を可愛さだけで魅力する小レティちゃんじゃ! 」


自信満々で胸の前で腕を組み、反り返る1/8スケールのミニレティがそこにいた。

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RefineFantsy 父と娘と神の異世界レベリング 荒頭丸 @ko10maru

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