第15話 選択肢


「凄いな。計15個か……」


 思わず、呟いた。


《詠唱短縮》《戦術展開》《精神集中》

《思考高速化》《魔力視覚》《精密操作》

《魔法誘導》《機構理解》《連撃補正》

《詠唱保持》《魔力制御》《魔法強化》

《属性共鳴:雷》《魔法装填》《魔力探知》


 現れたスキルが、ページを埋め尽くす勢いだ。


 詳しく見れば、《知力up》《器用up》《魔力up》──それぞれの能力値スキルから、5つずつの派生している。

 これだけでも、育成方針の幅は大きく広がる。だが、《身体強化》から派生したスキルとはツリーは繋がらないらしい。

 まぁ、それはあくまで現状での結論ではあるが。


「……面白くなってきたな」


 そんな中でも、特に気になったスキルが一つ。


《魔力探知》だ。

 表示された名前に触れると、魔導書の表記が切り替わり、詳細が浮かび上がった。


《魔力探知》

消費MP:5

効果:周囲の魔力反応を感知し、敵の位置や罠の兆候を知覚可能。感知系スキル。

※魔力値に応じて感知範囲が拡張。現在半径7m


「……魔力を使った索敵。視覚に頼らず敵の位置を探れるってことか」


 敵との戦いでは真正面からの衝突よりも、奇襲や死角からの攻撃のほうが厄介だ。

 特にこのダンジョンのように、通路が狭く見通しの悪い環境では、先手を取れるだけでも有利になる。


(今の俺の魔力は23。範囲は狭いけど、使い方次第では大きな差になる)


 しかも、消費魔力はたったの5。気軽に使える点も魅力的だ。


 スキルポイントは2。現時点で、どのスキルも習得には2ポイント必要。

 つまり、今の自分が手にできるのは、ひとつだけ。


(だったら、これだろ)


 俺は《魔力探知》のスキル名に触れ、タップする。魔導書が淡く光を放ち、スキル名が黒く染まった。


「試しに使ってみるか」


 その瞬間、世界の輪郭が変わった気がした。


「うぉ!?」


 視覚とは異なる、聴覚でもない。どこか身体の奥底で、空間の密度を感じ取っているような、不思議な感覚だった。


(……これが気配を視るってことか)


 ほんのわずかに、空気の濃淡が見えるような気がする。岩壁の奥から微細なうねりが伝わってくる。あれは、通路の先に潜む──何かだ。


「上等だ。試してみようじゃないか」


 俺は魔導書を閉じ、ゆっくりと立ち上がった。


 冷気の染み込んだ岩壁に手を添えながら、通路の先に視線を向ける。


 通路の先から、かすかに感じる魔力の揺らぎ。

 目では見えない。音も、匂いもない。だが、確かにそこに何かがいる──そんな確信だけが込み上げてくる。


(……一体か。もしくは二体か? 動きは鈍いが、反応はある。潜んでるってことか)


 慎重に足を進める。通路の先、緩やかに折れ曲がった岩の陰。その向こうに、魔力の反応がある。


 武器を握り直し、ひとつ深く息を吸い込む。


(確実に仕留める)


 気配の主が視界に入るよりも先に、こちらの感覚が確信を告げた。


(来る!)


 岩陰から飛び出してきたのは、ブラックウルフ。勢いそのままに襲いかかってきた牙を、寸前で受け流すように身を引き、斬撃を叩き込む。


 一撃では沈まない。やはり、これまでの階層とは一線を画す強さだ。

 反撃の隙を与えず、踏み込みながら連撃を重ねる。喉元を断ち、ブラックウルフが崩れ落ちた。


「やっぱ、まだいるな」


 《魔力探知》で感じた気配はもう一つ。

 背後の岩場。だがこちらに向かっては来ていない。


(こっちの様子を窺ってるな)


 すぐに姿を見せないのは、相手もこちらの気配を読んでいるからか。それとも、罠か──。


 岩肌の起伏を利用して接近。気配を感じながら、じりじりと距離を詰めていく。

 そして、足元から石が転がる音が響いた。


 反射的に視線を向けると、そこにいたのはアークスネイク。


「やっぱり、いたか」


 咄嗟に後退して距離を取る。そのまま相手の射程外から回り込むように動きながら、一瞬の隙を突いて斬り込む。


 体は小さいが、関節の隙間を見極めて刃を滑らせる。

 動きが止まり、魔物の体が崩れ落ちると同時に、体から力が抜けた。


「ふう……上出来だな」


 再び、通路の静寂が戻る。だが、今回は違った。

 事前に気配を察知していたことで、常に先手を取り続けられた。それだけでも、消耗は段違いだ。


(これは……本当にデカい)


 目に見えない情報を得ることが、これほど戦いを有利にするとは。


(まだ感覚は不安定だけど……使いこなせるようになれば、探索の質は格段に上がる)


 心の中で確信を深めながら、通路の奥に目を向ける。


 空気は冷たいまま、視界は岩と闇に覆われたまま。

 だが、その先に潜む気配だけは──もう、確かに見える。


「よし、行こうか」


 俺は再び足を踏み出す。


 レベル10。新たなスキル。変わり始めた戦いの感覚。


 そのすべてを武器にして、六階層の最奥──このダンジョンの深層へと、歩を進めていく。



===========


久しぶりに現状のステータスを貼っておきます。

ちなみに初期ステータスは平均6でした。


《Lv:10》


HP:70/ 70

MP:50/50

【能力値】

筋力 :37(+10%)

耐久 :26

敏捷 :48(+10%)

知力 :26(+10%)

魔力 :23(+10%)

器用 :26(+10%)

運  :22


【獲得スキル】

《敏捷up(小)》《筋力up(小)》《魔力up(小)》《器用up(小)》《知力up(小)》《瞬発力強化》《雷撃》《魔力探知》

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