第2話 なんなんだよこいつ

数日後。




俺は何ヶ月かぶりに日光を浴びた。




外の空気が美味しい。




迎えに行くので待っておけ、と伝言をもらっているため、刑務所の前でおとなしく棒立ちする。





「おやおやおや?御門クンじゃあないですかぁ?」




しばらくぼんやりしていると、後ろから声をかけられた。





施設の職員だ。





見ると、顔を盛大に歪めてこちらを睨んでいる。




そりゃそうだ。重要な資料を盗むわ、他人の貴重品盗むわ、何かと問題児だった人間がようやくどこかへ行ったと思ったら、釈放されて突っ立っているのだから。




俺だって腹立つわ。





そんなことはどうでもいい。




問題はその後の職員の発言だ。





「もしかして、刑務官を殺したのかなぁ…?よくないよぉ?犯罪だよぉ?」

「あ゙?」





流石に腹が立つ。




と言っても、そうやってブチギレる権利はないんだろうなぁ…と思う。



だって、職員にとんでもなく嫌われるようなことをしたのは自分なんだから。





「ウワァ…こっわぁ〜!犯罪者はさすがだねぇ〜!」





こいつ、煽るスキルだけは無駄にあるな。





自分の立場を理解して、かつ相手の逆鱗に触れるような職員の言葉選びに、誰もが寛容になるはずがない。

だからって殴ったりするのは訳が違う。






「なんか除霊師とか意味わかんない職業に就くんだってぇ?馬鹿げたことしてないでさっさと戻って刑期をここで過ごしなよぉ〜。」





どうやら自分が誓約を結んだことは把握されているらしい。

まぁそうだろう。




それも正直どうでもいい。





それでも、除霊師をバカにされたのは一瞬で理解した。

そして、一条のこともバカにされていることも、御門は理解した。





「黙ってればヌケヌケ言いやがってよ………」



理解と同時に、御門の怒りは沸点に達した。



自分の恩人のような人を嘲笑われて、ヘラヘラするようなことは絶対にない。

むしろ、ボコリにいけ。


これは御門の人生訓。


自分の恩人にはちゃんと恩を返そうぜ、という考えが犯罪を犯していてもしっかりとあった。





「どれだけ命懸けで仕事してんのかも知らんくせに分かったようになる奴等は屑なんだよ。」



外野が口挟むなよ、と続けて言うと、職業はまさかそんなことを言われると思っていなかったのか、顔を真っ赤にする。




「外野………?ここまで面倒見てあげたのに?」





あっそう。




面倒見てたって言う割には、俺のことはじめっから邪険にしてた野郎が何ほざいてんだよ。





勝手に解釈するなよ、クソ。





「はぁ…………?」





どうやら声に出ていたらしい。





「ふざけんな…お前のその行動のせいでどれだけ迷惑かかってんだよ。」

「知らねぇし興味ねぇ。」




バッサリ切り捨てると、いよいよ職員は俺のことを殴ろうと掛かってくる。



あーあ、また痛いのが来るな。




思っていたのに、痛みは来なかった。





「すみません、うちの連れに何か御用ですか?これは私のなので、勝手に乱暴されては困ります。

お引き取りください。」





一条だった。






「頭のおかしい奴に口を挟まれたくないッ!」





こんな高校生ほどの、日本離れした容貌の、それも除霊師と名乗る人物に割り込まれるのに腹が立ったのだろう。

すぐに青筋を走らせて喚き始める。






「頭のおかしいのは貴方でしょう。こうやって感情的になって子供を殴るのは、正直頭が普通だとは考えにくいですね。………あぁ、そもそもおかしいことに自覚をしていらっしゃらないのですね。お可哀想に。」




喚く職員に対して、一条は冷静である。

反論に加えて相手の逆鱗に触れる言葉選びをする。



本当に同い年とは思えない。


さっさと行くよ、と言われ、手を引かれる。


そのまま車(ロールス・ロイスだ)に乗った。



「あのさ、1個聞きたいんだけど。」

「どうしたの?」



車が発車してしばらくしてから、御門は気になったことを聞いた。


「なんで封印解けんの?」



その質問に、どうやら一条は答えられないらしい雰囲気を醸し出してくる。


「………わからないの。封印術に特化した人もお手上げ。もう一度封印しようにも、失敗して復活される可能性がある。

だから君に頼んだんだよ。」

「どういうこと?」


日本三大怨霊。

菅原道真、

平清盛、

崇徳院。


これらの怨霊を封印するには、ある程度の削りが必要らしい。


その削りはトクベツなもので、特定の異能がなければ削れない。


「………その異能が、俺のトクベツな力ってこと…?」

「うん。そういうこと。」


どうやらすごい力らしい。


「分からないって言ったけど、今原因を探っているの。分かったら元凶を叩きに行くけれど、その時も君に手伝ってもらうよ。」



君の力は普通の人にも効くからね、と一条は付け加える。



「到着しました。」



タイミングを見計らったかのように、運転手が一条に声をかける。


「ありがとう御座いました。………御門君、今から数時間ほど新幹線に乗るよ。お手洗い大丈夫?」

「え、うん。新幹線の使えば良いし。」


そう、と一言返事をして、一条は勝手知ったる様にスタスタと歩いていく。


が。



「あ…。道間違えた………。」

「はぁ?バカ?」

「バカじゃありません。」



こいつマジでなんなんだよ。



俺の思考は、一条に届いていない。




危うく声を出しそうになった。



なんか強そうな雰囲気出してるくせに、なんで迷子になるんだよ。



マジ何者?

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