推しが私にだけ、異常にファンサしてくる件~いやそれファンサじゃなくてガチだったの!?~

海音

第1話 君のこと、見えてたよ

「おーい、蓮!もうすぐ本番だぞ!」

「あ、ごめん!すぐ行く!」


俺はアイドルグループ『cLymAX(クライマックス)』通称クラマのメンバー、一ノ瀬 蓮。

クラマは人気急上昇中で、今日も全国ツアーの本番を迎えようとしてる。


クラマの中でも、俺は人気順で言ったら多分、トップか2番目。

担当カラーは青、歌唱担当、クール系王子って位置づけ。

『王子』はどこから来たんだか分かんないけど。

そもそもクールでも何でもない、ただの天然バカである。

将来の目標もない、頭も悪い、でも顔だけは……ってことでスカウトされた。


さっき俺を呼びに来たのは、藤村 つかさってやつ。カラー紫のラップ&振り付け担当。

司は面倒見がめちゃくちゃ良くて、俺を弟みたいに思ってくれてるらしい。


「蓮〜今日も天然炸裂しちゃう?クライマーズみんな大爆笑!」

「るっせー!毎回毎回そんなんやってねぇし!」


俺にこうやって毎日絡んでくるお調子者は、相良さがら 舜介しゅんすけ。あだ名は『さがしゅん』(笑)元気印の黄色担当、MCのときいつもこいつにいじられる俺……


そして、クライマーズ。ファンのみんなのこと。

一緒にてっぺん目指そうぜ!って意味で、俺らで頑張って考えた呼び方。


「さて、今日も俺、ビジュ完璧!行くぞ!」


って、楽屋の鏡に向かって叫ぶのが、本番前の俺のルーティン。

俺たちアイドルが自己肯定感低いと盛り上がんないからね。


――本番が始まる合図、SEが流れる。


クライマーズのみんなは、それぞれの推し色のペンライトを何本も手に、手拍子が会場に響く。

俺、このステージに足を踏み入れる、最初のこのドキドキ感……たまらなく好きかも。

さあ、クライマックスの幕開けだ!


「キャーーー!!れん様ぁ!!」

「やばい!!衣装かっこよすぎ!!」

「え!こっち手振ってない!?かっこい〜!!」


客席から、そんな声が耳に入ってくる。

今日も俺たちのこと、応援してくれてほんとにありがとうな。

毎回ライブやる度に、クライマーズの熱量、ちゃんと受け取ってるからな!


リハ通り、いや、本番はそれ以上にアドレナリン出まくり。

何の取り柄も無かった凡人の俺が、本当の『アイドル』になれる時間。

この為なら、何だって頑張れる。


1曲目のイントロが流れて、俺のソロから始まるこの曲。

『世界一俺が輝いてやる』って思いながら、心を込めて、全力でカッコつけて、マイクを握る。


(ん……?あの子、なんかめっちゃ号泣してる)

(たしか、イベントもライブもほぼ皆勤賞……最古参の、俺推しの子だよな……)


歌に集中しなきゃいけないのに、ステージからよく見える最前列の真ん中らへん。

感動のあまり泣き崩れる彼女を見てしまった――


そこから先、妙に気分がフワフワしてて、ライブ中の記憶が薄い。

なんか上の空?っていうの?

『あの子の泣き顔』が頭から離れなくて、すごく、胸の奥がギューッてなる感じ。


そんな感覚のままライブは終わり、アンコールに。

衣装をササッと着替えて、軽く汗拭いてメイク直して。

俺はその時もずっと、彼女のことを考えてた。

もしかしたら、舞台袖でアホ面かましてたかも。


アンコールでまたステージに戻っても、彼女はまだ泣いてた。


「うぃーー!今日も最高だったな!なぁ?蓮」

「お、おう……おつかれ!」

「どうした?てかお前、今日ちょっと変じゃなかった?」

「えっ!気づいてたのか……」


楽屋に戻った後、俺は司にだけは、打ち明けようと思った。

やっぱ、俺のこの感情……モヤモヤしたまま、来週もライブ。

メンバーやスタッフさんに迷惑かけらんねーし。


「そりゃ気づくだろ!何年一緒にいると思ってんだよ〜」

「今日さ、珍しく最前にさ、あの子がいたんだよ。最古参で俺推しの、“みぃ”ちゃんって子」

「あぁ!いっつも来てる子だろ?地味めだけど、俺覚えてるわ。そんで?みぃちゃんがどうした?」

「1曲目、俺が歌い出したらさ……めっちゃ泣いてて。そのとき、なんかこう……胸がギュッてなって、そこからもうおかしくて」

「おい、まさかお前……」


司が目をガン開きにして、こっちを見てる。

やっぱり、特定の子を気にかけるなんて、アイドルとしてダメだよな……?


「蓮、それは確実に!“恋”ですなぁ!アハハ!」

「おい、舜!何笑ってんだよ!!俺は真剣に悩んで――」


司とコソコソ話してたのに、後ろから急に舜が入ってきた。

しかもめっちゃヘラヘラしてるし。

俺、めっちゃ色々考えてんのに……なんだよこいつ!


「蓮のこと、バカになんかしてねーよ!ただ、クライマーズに“目を奪われた”わけでしょ?」

「まぁ……そうだけど」

「蓮はさ、俺らから見てもイケメンだし、かっけーアイドルなんだよ。だからこそ、やっぱお前も人間なんだなって、さっきのはそういう笑い!」


そっか、舜はそんな風に思ってくれてたんだ。

でも……アイドルがファンに手出したとかなったら、絶対やばいよな。

週刊誌でよくスクープされてるもんな。


「蓮、俺はお前のその気持ち、否定はしない。たしかに、ファンの一人に順位つけるようなことはアイドルとしてダメだ。でも、俺たちも一人の男じゃん?」

「……うん、そうだな」

「お前がみぃちゃんにビビっときたなら、その気持ちをバネに、もっと“男として”の魅力、磨けるんじゃねー?それって、クラマ自体にも良く影響するし、もっと輝けるってことじゃん!」

「でも……この気持ちがクライマーズにバレたら、俺――」

「そのときは、俺も一緒に考える。だからそんなに考え込むなって!お前らしくないぞ?」


司に背中を勢いよくバシッ!と叩かれた。

『恋することで、男の魅力が磨ける』ってことだよな……

俺、そんな器用なことできるのかな。


でもさ、もう無理だわ。見つけちゃったんだ。初めてのこの気持ち。

――君のことが、好きって。

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