21
最近、ルノがよく顔に青疸作りながら、学校に来るようになった。
ヴィヴィアンが本気でルノをボコボコにしてるって言うてたけど、いくらなんでもやり過ぎちゃうんとは思う。だって完全に誰かと喧嘩して負けたようにしか見えへんねんもん。
学校でも噂になってる。
それでもルノは毎日ちゃんとジムに通ってる。放課後にはいそいそと、一人で家からすぐのジムまで走ってるのを見る。
ゆりちゃんと二人で、疲れて寝てるルノのすぐ後ろで話した。
「なあ、大丈夫やと思う?」
「いや、かなりヤバいやろ?」
相当疲れてるんやと思う。
最近毎日、ちゃんとお弁当を持ってくるし、ジャンヌちゃんから来るラインでもかなり参ってるって話やった。それでも文句も言わんと遅刻せずに学校までちゃんと出てくる。でもずっとこうやって寝てる。
ジャンヌちゃんが言うには、だいぶマシになったとはいえ、ジジとおるのが辛いみたいや。それでもかなりの進歩やってジャンヌちゃんは言うてたけど、送ってくれた写真を見る限り、まあ酷いと思う。
「いつまでルノが真面目にボコられると思う?」
ゆりちゃんはそう言うて笑った。
「ちゃんと真面目に通いとおすと思う」
オレはそう答えた。
だってうちでそう、啖呵を切ったルノは本気やった。見た事ないほどルノは必死やったし、ヴィヴィアンによると今の所一回も遅刻してないらしい。
あんなに研修サボり倒したルノがやで?
ヴィヴィアンも本気で教えると言うたからには、これでもかってくらいルノの事ボコボコにしてるみたいや。ヴィヴィアンの本気とか、オレもジェームスも無理やで。手に負えへん。
オレは怖い。ヴィヴィアンがなんでルノに、手加減せぇへんのか、オレには分かるから。
ヴィヴィアンは暗に、ルノに諦めろって言いたいんやと思う。ヴィヴィアンは誰よりも工作員が辛い仕事やって知ってるから。その道に戻ろうとするルノを止めたくて、これでもかってくらいきつい事してるんやと思う。
そのうちヴィヴィアンが、ルノを殴り殺してまうんちゃうかって思ったら、怖かった。
でもゆりちゃんはそんな事、知らんから笑ってる。
オレがそんなゆりちゃんを止めへんのは、オレもルノに戻ってきてほしくないからや。ヴィヴィアンに殴られて、諦めてほしいからや。
二人で最近担当したキティのバックアップは、見ていて清々しいくらいあっさり人を殴りつけて行くし、手際がいい。ジェームスと組んでた頃を思い出すくらい。
ジジは強い。銃を使わへん仕事やったら、他の誰よりも上手にこなしてくれる。バックアップなんかいらんくらい。多少のドアなら蹴破るし、機械音痴のジェームスと違って指示すればなんでもしてくれる。
キティに敵う工作員はもう支部にいてへんかもしれんなって、ミトニック達が噂してるんを聞いた事がある。ヴィヴィアンと互角か、それ以上ちゃうかなんて、噂しててん。
オレはヴィヴィアンが怒ると何をしでかすか分からへん事を知ってるから、キティの仕事ぶりを見てもそうは思わん。
でもキティと呼ばれるジジが、影でやっぱり泣いてるのをオレは知ってる。ルノの使ってた仮眠室で泣きながら、必死で働いてる事を見てる。
オレにはどうにも出来ひんから、一緒にプリンを食べようって誘うくらいしか出来ひん。ジジはきっとルノやジャンヌちゃんに知られたくないと思うから。
ゆりちゃんが言うた。
「なあ、ルノがどんくらい強くなったか見に行こうや」
それからオレに笑いかけた。
「うちが思うに、そんなに真面目にやってるんやったらそろそろヴィヴィアンに一発くらい返せるようになってるやろ? 見に行こうや」
オレは少し悩んだ。
「いいけど、一発返すのは無理ちゃうかな」
「なんで?」
「ヴィヴィアンは正直倒せる人いてへんと思うねん。だって、素手で一個小隊ボコるような人やで?」
「それ、どこのヒットガール?」
「ヒットガールとララ・クロフトを足して、そこにターミネーターを少し混ぜたくらい強いんやってば。絶対無理」
ゆりちゃんはあんまり信じてないみたいやったけど、ふーんとルノを眺めていた。
放課後、二人でこっそりルノの後をつけて、支部のすぐ近くのジムに顔を出した。そのジムは支部をずっと前に辞めた工作員がやってるから、オレは顔見知りやったからお願いしてこっそり入れてもらった。
一番奥の個室に向かうと、小窓から中が見えた。白い霧とチカチカする薄暗い室内では金色のルノの髪が目立つ。
ルノはやっぱりヴィヴィアンにフルボッコにされてる。一発どころか、よろめきながら、どうにか立ってるような状態。正直、止めに入りたかったけど、そのまま我慢して見てた。
「ほら、防御が甘い」
ヴィヴィアンがそう言うて、ルノの脇腹を蹴りつけた。ちらっとこっちを見て、それからルノを見下ろす。
ルノは床で咳き込みながら、這いつくばって肩で息をしてる。
やっぱり無茶してる。
「それで終わりか? その程度の覚悟でホンマに戻れると思ってんの?」
ルノがフラフラしながら立ち上がった。
オレはそのまま目を背けた。
「言うてるやろ? ルノは防御が甘い。一発食らっても平気なんはここでだけや。土壇場で鉛玉食らっても立ち上がれるんか? もっとよく見て向かってこなあかん」
「はい」
「たかだか霧程度でビビってんちゃう。そんなんじゃジジどころかダーリンにも勝てへんで」
ヴィヴィアンの声が怖い。
本気や。ガチでやってる。
ゆりちゃんがしゃがみこんだ。
「なにあれ」
「言うたやん。ヴィヴィアンは怖いって」
オレはゆりちゃんにそう返した。
「ちょっと休憩しよか。水飲んで、少し寝た方がいいわ」
ヴィヴィアンはそう言うと、ドアを開けた。
「何やってん、ダンテ」
「あ、お疲れ」
オレはヴィヴィアンにそう返した。
ドアの隙間から床でぐったりしているルノが見えた。
ヴィヴィアンはドアを閉めると、オレとゆりちゃんの腕を掴んだ。
「ほらほら行くで」
「どこに?」
「ルノの目につかん所や」
ヴィヴィアンはスタスタ歩いて行く。
ジムの休憩室に出ると、オレとゆりちゃんをそこの椅子に座らせた。
「で、そのバレバレの隠れ方は何なん?」
「へ?」
「ダンテ、仮にもハッカーならそんなお粗末な工作やめぇや。情けない」
ヴィヴィアンがオレに言うた。
「ハッキングで見ればええやろ? 何なん? 何しに来たん?」
「ルノの様子を見に。心配やってん」
ヴィヴィアンはため息をついた。
それからオレの横に座った。
「うちかて心配やわ。筋は悪くないんやけど、あの子死に急ぐタイプや」
「なにそれ?」
ゆりちゃんがヴィヴィアンに尋ねた。
「ルノはダーリンと一緒で、体張ってでも仲間を守るタイプやねん。それにめちゃくちゃ根性あるから、鼻っ柱へし折ったろと思ってんけど、全然諦めてくれへん」
ヴィヴィアンは頭を抱えて呻いた。
「あと何か月かでどうこう出来る状態やない。ルノはかなり無茶するし、自分の限界を分かってへん。あんな子、工作員に出来ひん」
「え? あかんの、ルノが?」
ゆりちゃんはヴィヴィアンに尋ねた。
「あかん訳ちゃうねんで? ちゃんと訓練すれば、ルノはジジなんか目じゃないくらいええ工作員になると思う。溶け込むのも上手いし、銃の腕もいい。頭の回転も速いし、なによりええ子や」
「じゃあなんで?」
「ルノは人を殺せるタイプやないんよ。ひっそり忍び込んで情報を盗む分にはええと思うけど、ルノは相手がどんなに本気でも殺せへん。おまけに危ないと思ったら、体張って守りに来る」
「そんなん分かってた事やんか。ヴィヴィアン、ルノに諦めてほしいんやろ?」
「そうや。でもルノは頑固やから全然諦めへん」
ヴィヴィアンは呟いた。
「うちはルノにこれ以上人を殺させたくないよ」
オレはヴィヴィアンの手を握った。
「ヴィヴィアン、無理はせんといてな。オレもどうにか出来ひんか考えるから」
ヴィヴィアンは頷いた。
ジジがトイレに駆け込むのを見た。
オレがバックアップした仕事やないけど、ジジは黒い服から真っ赤な血をこぼしながら歩いてた。多分、何人か手に掛けたんやと思う。
オレは女子トイレに声をかけた。
「大丈夫?」
返事が返って来んかった。
辺りを見回したけど、もともと大阪支部は女の人が少ない。ハッカーの中にも何人か女の人もいてるけど、やっぱり数えるほどしかいてへん工作員とハッカーに女の人なんてジジとゆりちゃんとあと何人かってとこや。
誰もいてへん。
オレは声をかけた。
「入るで? 大丈夫?」
ゆっくり中に入っていったら、ジジがちょうど一番手前の個室の前に座り込んでるのが見えた。
「ジジ、大丈夫?」
ホンマは支部やからキティって呼ばなあかんねんで? でも今はジジって呼んだ。
ジジはトイレに向かって吐きながら、ガタガタ震えてた。オレはしゃがんで、その背中をゆっくり撫でた。
「怪我無い?」
ジジは首を横に振った。
オレはその場で、ジェームスに電話をかけた。
「ジェームス、誰か女の人を二階のトイレに連れてきて」
「どうした?」
「ジジが血まみれやねん。オレじゃどうにも出来ひんから、対応できる人連れてきて」
それから、オレはジジの様子を見た。
憔悴しきってて、泣いてる。
ポケットに飴があったから、オレはそれをジジに渡すと、血まみれのジャケットを脱がせた。
ぱっと見た感じ、ジャケットに傷とかはない。怪我をしてるっていう訳やない。返り血やろけど、この量からして、相当近距離で手に掛けたんやと思う。
ヴィヴィアンは銃より素手のが多かったから、こういうふうに血まみれでよく帰ってきた。ジェームスは銃の方が得意やから、こんなに血まみれになって帰ってくる事はあんまりなかった。
オレはジャケットを置いて、それから尋ねた。
「立てる?」
「無理。吐きそう」
ジジはそう答えた。
ジェームスは、こういう時どうしてたっけ? いつだって優しい声で大丈夫って言って、ヴィヴィアンのそばにおったと思う。
オレはジジの背中を撫でながら待った。
今この場を離れるべきやない事は、オレにだって分かる。でもオレがおったって、大した意味はない。
しばらくしたらジェームスが叫んだ。
「入るぞ、いいな?」
「ジェームス、ここ」
オレはジェームスにそう返して、立ち上がった。
ジェームスはいつもとおんなじ、くたびれたスーツで立ってる。医者の先生が一緒におって、その人が駆け寄ってきた。
ジジはそのまま鎮静剤を打たれて、医務室に運ばれた。
オレはそれを茫然と眺めながら、ジェームスの手を握る事しか出来ひんかった。
「落ち着くんだ、ダンテ」
ジェームスがオレに言うた。
「よく出来た」
「どこが?」
「お前はなんにも間違ってないよ」
「でも」
ジェームスはオレの肩を引き寄せて、優しい声で言うた。
「大丈夫。ジジは最近忙しかったから疲れてたんだよ」
「ホンマにそんなけ? ジェームスもヴィヴィアンも、同じように泣いてたやんか」
オレはジェームスの腕を振りほどいて、その顔を見上げた。
「オレにももっと出来る事あったんちゃうん? どうしたらよかったん?」
ジェームスはオレの肩を強く叩いて、しっかり言った。
「なあダンテ、アメリカに仕事に行った時の事、覚えてるか?」
「覚えてる」
ジェームスはアメリカ軍に潜入して、オレがバックアップした。あの時、ジェームスは一人で何人も殺して、憔悴しきって帰ってきた。
食堂でやけ酒飲んで、何日もまともに食べんと、部屋で泣いてた。
オレは今でも覚えてる。
ジェームスのそばでなんも出来んと、ヴィヴィアンと二人で見てる事しか出来んかった。あの無力で、自分の弱さが嫌になった時の感覚。
「ダンテ、ヴィヴィアンと一緒にいてくれただろ?」
「でもなんも出来んかったやんか」
「いいや。一緒にいてくれただろ。飲んだくれてる時も、泣いてる時も、そばで一緒にいてくれただろ?」
ジェームスはオレに言うた。
「嬉しかったよ。そばにいてくれて、ずっと心配してくれただろ? それでいいんだよ」
「なにそれ、オレには分からへん」
「分からなくていいんだ。あの時一緒にいてくれなかったら、きっと自分の首を掻っ切って自殺してた」
ジェームスは優しい声でそう言うと、オレをぎゅっと強く抱きしめた。耳元で言う。
「ヴィヴィアンだってそうだ。そばにいてくれるだけで、ずっとずっと助けられたんだよ」
「嘘や」
「嘘じゃない。一人で泣いてる時にそばにいてくれるだけで十分なんだよ。ダンテはいつだって一緒にいてくれただろ? お前は何度も助けてくれたんだよ?」
ジェームスはにこっと笑うと、行こうかと手を引いた。
やっぱりオレには全然分からへん。
でもジェームスは嬉しそうに笑ってた。
うちでゴロゴロしながら、オレはパソコンを抱えて頭をひねってた。
ジェームスがダサすぎるジャージ姿で、クッションにもたれてぐーすか寝てる。いつ見ても酷いと思う。ジェームスがモテへんのはこのジャージのせいやってええ加減気付いた方がええと思う。
オレはおんなじクッションにもたれながら、パソコンを眺めている。
今日は久しぶりのお休みで、ヴィヴィアンも家にいる。楽しそうに隣りでテレビを見てる。ヴィヴィアンはいつだって可愛いキャラ物のティーシャツでハーフパンツや。クーラーが程良くきいてるリビングは天国やと思う。
戦争から帰還した兵士は、トラウマに悩まされる。それは普通、時間とカウンセリングでしか治らへんって書いてる。
ジジやルノ、ジェームスやヴィヴィアンもこれとはちょっとちゃうけど、一番近いのはこれやと思うねん。
オレは昨日ヴィヴィアンがうなされて、夜中に起きてビールを飲んでたのを知ってる。
ヴィヴィアンは平気そうな顔をしてるけど、今でも悪夢を見てる。人を殺した事を思い出して、毎日泣いてる。
ジェームスは十分って言うてたけど、オレにももっと出来る事があるんちゃうかって、思ってん。二人の力になりたい。でもネットには家族の愛がどうたらこうたらって書いてるだけ。
そんなんで治るんやったら、なんで二人は今もうなされてるん? なんで二人を楽にしてあげられへんの?
「ダンテ、何やってんの?」
ヴィヴィアンに訊かれて、オレはパソコンから顔を上げた。
「なあ、ヴィヴィアンも一緒におったら楽になるん?」
「そりゃあ当然。特にダンテが一緒におったら、うちは幸せやで」
ヴィヴィアンはそう笑うと、オレを見る。
「何を悩んでんの?」
「オレ、なんも出来ひんかってん」
オレはジジの事を話した。
ヴィヴィアンは笑った。
「ジジにはルノがおるから大丈夫」
「なんで?」
「ダンテはなんでジジが工作員をやってると思う?」
「え?」
正直分からんかった。
だってジジもルノもフランスに帰れたのに、残るって決めたんはジジや。考えた事なんかなかった。
「ジジはルノにちゃんと学校に行ってほしいんよ。そのために日本で働く事にしたんよ」
「なんで? そんなんフランスでも出来るやん」
「でもジジがジャンヌちゃんとルノの学費を稼ごうと思ったら、日本で工作員をするのが一番稼げるんやで」
ヴィヴィアンはオレの前にちゃんと座った。
「ダンテ、専門学校は学費もかかる。それこそ新車が買えるくらい」
「そんなにかかんの?」
「そうやで。ジジが一番効率よく稼いで、ルノとジャンヌちゃんにちゃんと勉強させようと思ったら、普通の仕事じゃ無理やねん。ジジはそれを分かってるから、工作員をやるって決めたんや」
ヴィヴィアンはオレに言うた。
「ジジにはルノがおるやろ? 帰ったらルノとジャンヌちゃんが待ってる。だから大丈夫」
オレはヴィヴィアンを見上げた。
「ヴィヴィアンは?」
「ダンテもダーリンもいてるから大丈夫」
ヴィヴィアンは笑った。
「ダンテが思ってるより、うちもダーリンもダンテがおって嬉しいんやで?」
「なんで? オレ邪魔やないの?」
「そんな訳ないやん。うちが死にたくなるたんびに、ダンテが一緒におってくれたやろ? うちのそばにおってくれたやろ?」
「オレ、それしか出来ひんやんか」
「それが何よりも心強いんやで、ダンテ」
ヴィヴィアンはにんまり笑って、オレの肩にもたれた。
「うちの支えはダンテやねんで。うちはその可愛いダンテと一緒にいられて最高に幸せやねんで」
オレにはやっぱり全然分からんかったけど、そのまま寝息を立て始めたヴィヴィアンがいて、ジェームスがおる。確かに幸せやなって思った。
オレも目を閉じると、クッションにもたれた。
大好きな二人がおって、オレは幸せや。
でもホンマにこれでええん? オレはここにおってええの? オレは二人にちゃんと恩返し出来てるん? 邪魔してるだけちゃうん?
不安でオレは眠れへんかった。
だいぶ涼しくなってきた。
ルノはあんまり怪我せんくなってきたように感じる。それでもあちこち青痣だらけで学校に来る。
授業中ずっと寝てるけど、相変わらずルノはちゃんとヴィヴィアンとジムに通ってる。
今日は地球祭で、学校は自由参加や。
ルノとゆりちゃんに誘われて、オレはアーティスト専門学校のお化け屋敷に行った。
正直、全然怖くなかってんけど、女の子みたいに悲鳴を上げるルノはなかなかの見物やった。あんなにパリの悪魔やって言い張ってたくせに、作り物の腕や足がそんなに怖いんか?
でも特殊メイク科の出し物なだけあって、リアルやったと思う。ゆりちゃんが楽しそうにしがみつくルノを笑ってた。
「なんで平気なん?」
「だって、作りもんやん」
ルノはまだゆりちゃんにしがみついてる。
通りを歩いていると、ジジとジャンヌちゃんが手を振ってるのが見えた。
「お兄ちゃん」
久しぶりに会うジャンヌちゃんはちょっと背が伸びてて、きれいに髪を結っていた。
ルノの力作なんやろけど、当の本人はゆりちゃんから飛びのいて、平静を装う。いや、もうがっつり見られてたでって思ったけど、言わんかった。
「久しぶり。元気やった?」
「超元気やで。ダンテとゆりちゃんも元気そうでよかった」
ジャンヌちゃんはニコニコしながら、ルノを見る。
「なんでお兄ちゃんはコスプレせぇへんの?」
「はあ?」
「だってナルト三人くらいおったで。マヨネーズとかピカチュウもおるやん。なんでやらへんの?」
「お兄ちゃんはそんなしょうもない事しません」
さっきまで怯えてた人がよく言う。
オレはジャンヌちゃんに尋ねた。
「遊びに来たん?」
「うん」
ジジが相変わらず顔色悪そうなまま、ぼんやり遠くを眺めている。ルノは知ってか知らずか、そんなジジに言うた。
「姉ちゃん、国際外語は見に行った?」
「どこそれ?」
「大通りの方にあったやろ? 本場のソーセージ食えるらしいで」
「マジか。それは行かんなあかんな」
ジャンヌちゃんがこっちを見て笑った。
「お兄ちゃん、お姉ちゃんと行ってきたら?
うち、ダンテに学校案内して貰う」
「え? オレ?」
「ゆりちゃんも行っておいでよ。うち、さっきたこ焼き食べてもた」
ジャンヌちゃんはそう笑うと、オレの手を引っ張った。
「じゃあ後で」
オレはルノにそう言うと、ジャンヌちゃんと一番人だかりになってる二号館に入った。上の階でゲーム科の作品発表とか、オレがいるシステム開発学科の卒業制作が見られるらしい。
ジャンヌちゃんは相変わらず、プログラムに夢中らしくて、最近はルノの課題を一緒にこなしてるらしい。ときどき、きわどい質問をラインでしてくるから困る。
二号館はがらんとしていて、静かやった。
ジャンヌちゃんは言うた。
「なあダンテ、お姉ちゃん何やってんの?」
「え?」
「最近、うなされてる」
ジャンヌちゃんはそう呟いた。
「お兄ちゃんは疲れてずっと寝てるし、お姉ちゃんはずっとうなされては起きてるし、どうなってんの?」
オレはどうこたえていいか分からんくって、黙った。
「お兄ちゃん、誰に殴られてんの?」
「ヴィヴィアン。工作員に戻してほしいからって、訓練してんねん」
ホンマは話したらあかんねやろけど、オレは正直に答えた。
「ジジは教えられへん」
二人で二階の教室に入った。
アクションゲームが展示されてる。
「なあダンテ」
「何?」
「うちだけ蚊帳の外なんて嫌や。なんか出来ひんかな?」
オレはジャンヌちゃんに、なんも言えんくなった。ジャンヌちゃんは退屈そうにパソコンの前でコントローラーを握った。割と簡単そうにどんどん進めていく。
「上手やね」
ゲーム科の男の人がジャンヌちゃんに笑いかけた。
「ありがとう。これ、お兄さんが作ったん? めっちゃヤバいやん。どうなってるん?」
「このゲームは割と簡単なシステムで出来てるんやで」
その人は隣りのパソコンでソースをジャンヌちゃんに見せた。
多分Javaやと思う。ホンマに簡単なソースで出来てる。分岐が多いけど、基本は攻撃を受けたら、それを乱数で割り振って体力を削っていく。ごくごく簡単なシステムで動いてる。
なによりキャラのきれいなイラストと、アクションの派手さが目を引く。この辺はやっぱり専門じゃないから、オレにもどうやって動いてるんかは分からへん。
「これ何?」
「あれ? もしかしてコン専生やないん?」
「うちのお兄ちゃんが生徒やねん」
「そうなんだ。じゃあ見ても分かんないかな。このソースでゲームが動いてるんだよ」
ジャンヌちゃんはじっくりとソースを読むと、画面を指さした。
「なんでここで乱数を使ってんの?」
また凄いきわどい質問や。ルノもきかへんような事を聞かれるから、オレもよく困ってる。
「なんで分かるの?」
「うちも勉強中やねん」
「じゃあ将来はここに入学するの?」
「分からへん。うち、パリに帰るかも分からへんし」
「え? フランス人やったん?」
「そうやで」
ジャンヌちゃんはそう答えて、ソースを見る。
「なあなあ、この乱数はなんであるん?」
「それは攻撃がジャストヒットする確率を出すために使ってんねん」
オレはそう答えて、男の人に尋ねた。
「そうでしょ?」
「その通り」
ジャンヌちゃんはふーんと呟いて、それから尋ねた。
「じゃあヒットする確率って割と低いん? この乱数やと三分の一の確率で不発やんな?」
「そうなるように作ってるんだよ。でもレベルが上がれば当たる確率も上がるようになってるんだよ」
その人はソースをスクロールして、ここっと指さした。割とよく出来たソースやけど、これやと、レベル百を超えた時点でエラーになる。
「これ、バグありませんか?」
オレは尋ねた。
「え? なんで分かるの?」
「オレはコン専生なんです。この子の付き添いです」
オレはソースの分岐を指さした。
「この書き方やと、例外処理がないから、レベル百でエラーを起こして止まりませんか?」
「そうそう、止まっちゃって困ってたんだよ」
「ここに例外処理も必要だし、この書き方じゃダメやと思います。もっとシンプルに書いた方がええと思います」
ジャンヌちゃんが嬉しそうにこっちを見る。
「オレやったら、そもそもこの主人公がレベル百を超えないように設定して、このループは百一で止まるように書くと思います」
「君、何科?」
「システム開発の方です」
「ゲーム科じゃなくて?」
「三号館にいる方です」
オレはそう答えた。
面白くなさそうな顔をしたジャンヌちゃんがオレの腕を引っ張る。ジャンヌちゃんに引きずられながら教室を出た。
「なあダンテ」
「何?」
「今度うちにも例外教えて」
「ええよ」
二人で教室をいくつか回ったら、ジャンヌちゃんはオレ達が授業を受けてる教室を見たいって言いだした。
オレは騒がしい三号館の前を抜けて、二人で中に入った。
「広いなぁ」
ジャンヌちゃんは笑った。
「うちもここに通えると思う?」
「通えるよ」
根拠はないけど、オレはそう答えた。
誰もいてへん静かな教室を覗き込み、ジャンヌちゃんは笑った。
「なあ、教えてぇや。なんでお兄ちゃんはそこまでして工作員に戻りたいん?」
「オレも分からへん。でもジジがルノを辞めさせたんが嫌やったみたい。急に言い出して、ヴィヴィアンの許可が出るくらい強くなって、誕生日になったら工作員に戻すって、ジェームスと約束してん」
オレは椅子に座った。
ジャンヌちゃんは、オレの横に座った。
「お姉ちゃんは?」
「それは機密情報やから言われへん。でも、ルノとジャンヌちゃんのためにやってる事やねん」
「そんなんうちは望んでない」
ジャンヌちゃんはオレよりずっと大人や。
オレはそんな事、ジェームスに言われへんかった。ジェームスとヴィヴィアンが泣いてる横で、座ってる事しか出来んかった。自分の事で精一杯で、何て言っていいかなんて思いつかんかった。
「ジジはキュビズムの変な絵を描いてて、ルノはジャメルとハシシやってる。うちはそんな普通の毎日に戻ってほしい」
「それ、普通?」
「普通や。ダンテ、うちに出来る事、ないん?」
オレはジャンヌちゃんに尋ねた。
「そんなん、オレが知りたい。どうしたらええと思う?」
ジャンヌちゃんはオレを見て、それから言うた。
「少なくともダンテは、うちより知ってる情報が多いやんか」
「でもオレはそれをどうしたらええ?」
「ジェームスはダンテになんも望んでへんと思うで。一緒にいてほしいんちゃうん?」
「そう言うてたけど、オレ、それ以外なんも出来ひんねん」
「分からへんけど、それでええんちゃうん?」
ジャンヌちゃんはオレの頭を撫でた。
「ダンテとおると、うちも楽しい。きっとジェームスやお兄ちゃんもそうや。それでええと思うよ」
ジャンヌちゃんはオレよりずっと年上みたい。強くてしっかりした、優しい声でオレに笑って見せる。
「でもそれだけじゃ嫌やん。どうにかしよう、ダンテ」
オレは頷いて、ジャンヌちゃんに答えた。
「やろう。一緒に考えよ」
ジャンヌちゃんと二人で、こっそりパーティの計画を立てた。
オレはパーティなんてほとんど参加した事がなかったから、ジャンヌちゃんにいろんな事を教えてもらった。
部屋をいろんな飾りで飾って、美味しい料理を準備する。みんなで集まって、お祝いをするんやって。
今回はルノの誕生日と、みんなへの感謝を込めてお祝いをしようってジャンヌちゃんと決めた。
二人でこっそり飾りを作るのは楽しかった。
オレはハッカーやで? 紙で飾りを作ったりするのはオレらしくないやん。当然、パソコンでいろんな写真を集めて動画を作った。ジャンヌちゃんが選んで、音楽も決める。動画を見ては、もっとキラキラさせてとか、決めるのはジャンヌちゃんや。
ジャンヌちゃんはお誘いのパンフレットを作った。
流石っていうしかない。センスのいいカッコいい手紙が出来て、二人でパソコンを見ながら二人で笑った。
オレはパーティってどんなんやったかよぅ分からへん。ジャンヌちゃんが話すパーティはまるで映画みたいで、オレには想像もつかへんかったから。
こっそり、ジャメルさんにメールを送った。もちろんジャンヌちゃんにも秘密で。オレがチケットを用意するので、もしよかったら日本でパーティをするので来ませんかって? ジャメルさんは即答で来てくれる事になった。
予定は明後日、十月三十日。ルノの誕生日や。約束の日でもあるから、オレは少し不安やったけど、ジャンヌちゃんがついてるから大丈夫やって、自信があった。
場所はこっそり支部の一階会議室をとった。誰も使ってへんし、ジャンヌちゃんと話があるって言えば簡単に許可が出た。
料理はたくさん準備した。
もちろんオレは料理なんか出来ひんから、宅配をいっぱい頼んだんやけど、ケーキはジャンヌちゃんが準備してくれるって言うてた。
オレはジャンヌちゃんから預かったゆりちゃんとジェームス、ヴィヴィアンの分の手紙を持って、こっそり家に帰った。
ヴィヴィアンとジェームスが、すぐに帰ってきた。
オレはお米を炊いて待ってた。ルノに教えてもらった通りに炊いたら、そんなに難しくなかった。
二人はオレを見ると、にっこりした。
「おかえり」
オレはそう声をかけてから、二人を出迎えた。
「どうした? 変な顔して」
ジェームスがそう笑うから、オレは封筒に入れた手紙を二人に渡した。ジャンヌちゃんに言われて、カードを書いたからちょっと恥ずかしい。
「明後日、誕生日パーティをするから二人も参加して」
「は?」
「知ってんで、ジェームス明後日の予定が空いてる」
「でもなんでうちまで」
「だってヴィヴィアンがルノの事鍛えたやんか。だから来てほしい」
オレは二人にそう言うと、くるりと自分の部屋に戻った。
恥ずかしいから、しばらく部屋から出られへんかも。ジャンヌちゃんが正しいんなら、二人はきっと喜んでくれる筈。ちゃんと確認してもらったし。
オレは早速、ジャンヌちゃんに参加決定のラインを送った。
ジャンヌちゃんからの返事は、翌朝まで来んかった。
オレはミトニックと関空まで行った。通訳にジャンヌちゃんを連れてきた。
ジャメルさんは目立つからすぐに分かった。派手な格好で、暑そうに服を揺らしている。いかついサングラスをかけてたけど、全然変わってへん。
オレは走っていって、声をかけた。
「ボンジュール」
ジャメルさんはすぐに気づいて微笑んだ。そしてオレの名前を呼んで拳を突き出した。オレはそれにこつんと拳をぶつけて、その手を引いて走った。
「This way!」
ミトニックはジャメルさんを見上げて、茫然としていた。ジャンヌちゃんがジャメルさんの事を事細かに良い人って説明してたから、こんな怖い人が出てくるとは思ってなかったんやと思う。
オレはそんなミトニックを見て笑った。
「なあジャンヌちゃん。日本は暑いけど、ゆっくりしていってねって言うてくれる?」
オレは車に乗り込みながらジャンヌちゃんにお願いした。
ジャンヌちゃんはすぐにそれを通訳して、ジャメルさんに伝えてくれた。ジャメルさんはニコニコしながらジャンヌちゃんに返した。
「超最高。早くオレを日本橋に連れてってくれ」
「なんで日本橋?」
「知らんの? ジャメル、アニオタやで」
ミトニックが車を動かしながら呟いた。
「嘘やん、その顔で?」
「ジャメルの好きなアニメはセーラームーンとエヴァンゲリオンやで」
「マジか」
ミトニックがそう呟きながら、車を発進させた。
ホンマはオレが電車で来られたらよかったんやけど、正直まだ自信がなかった。電車にもまだ三回しか乗った事がないし、大阪の電車はややこしいから、ちょっと怖かった。それにジャンヌちゃんもおったし。
車を持ってるミトニックが、暇やからって付き合ってくれてホンマによかった。
ジャメルさんにもメールで伝えてあるけど、実はルノにジャメルさんが来る事は話してない。サプライズやからってお願いしてある。梅田のホテルを予約しておいたけど、気に入ってくれるといいな。
とりあえず一回ホテルに荷物を預けに行こうって、車を走らせながら、オレはジジが来てくれるか心配していた。
ジャンヌちゃんが無理矢理参加にしたけど、大喧嘩してからルノとジジはやっぱりギスギスしてて、全然話さへんって言うてた。どっちみちルノは家でもずっと寝てるみたいやけど。
オレもゆりちゃんもルノとはほとんど話をしてへん。ルノは学校でもずっと寝てばっかりで、どんどん成績も悪くなってく。でもそんな事は気にしてへんみたいで、ときどきタバコの匂いをさせながら歩いてる。
オレはルノが心配やけど、ジャンヌちゃんはそれがいい兆候やって言う。お兄ちゃんが真面目な方がよっぽど変やって。
でもそれはホンマにルノのためになるん? ジジが吐いてでもやってる事やのに、それでホンマにええん? ちゃうやろ? ホンマは二人が望んだとおりにならんな意味ないやんか。
でもこればっかりはジャンヌちゃんは役に立てへん事が分かった。そりゃそうや。ジャンヌちゃんはルノがどんな思いで仕事をしてたのかも、学校でどう思ってたんかも分かれへんもん。
今日で終わりにしたい。
今日で全部終わりにしたいんや。
オレは無力やし、結局出来る事なんて思いつかへんかったけど、少しでもこの思いが伝わればええな。
ルノとジジに仲直りしてほしい。
みんなにありがとうって伝えたい。
ジェームスとヴィヴィアンに、いっつもありがとう。大好きやって、そう伝えたいんや。
きっと出来る。
そう思うのはジャンヌちゃんがついてるから。だって他でもないジジとルノの妹やもん。他の誰よりも信用出来て、怖いほどしっかりしてる女の子やもん。
オレに出来るかな?
とうとう支部に車が止まった。
ジャメルさんに帽子をかぶせて、こっそり支部の一階の会議室に案内した。ジャンヌちゃんを通してここで待機しててと指示をすると、オレは拳を握った。
絶対出来る。
オレは歩いて、支部長室に向かった。
いつもと同じようにカードキーをかざして、それからノブをひねって押した。
「ジェームス、ヴィヴィアン、行こう」
二人は昔と同じように仲良くそろって、こっちを見る。そしてにっこりと笑って、優しい手を伸ばしてくれる。
オレはそんな二人の手を繋いで、ゆっくり歩いた。
エレベータを待ってると、ゆりちゃんが歩いてきた。
「もう時間やっけ?」
「そうやで、行こう」
オレはゆりちゃんをそう呼んで、エレベータに乗り込んだ。
一階にはジャンヌちゃんに引きずられるルノがおった。ジジも一緒や。
「ルノ、ジジ」
オレは二人を呼んで、それからジェームスとヴィヴィアンの手を放した。
「行くで」
まだ意味が分かってない様子のルノをジャンヌちゃんと二人で引っ張って、奥の会議室のドアを開けた。
ジャンヌちゃんと顔を見合わせて、叫ぶ。
「サプライズ!」
ルノはジャメルさんの顔を見るなり、こっちを見た。
「あれ、本物?」
「本物」
オレがそう答えると同時にジャメルさんはルノに手を差し出した。
二人は握手をすると、軽く肩を叩いて、フランス語で少し話した。ジャンヌちゃんが訳さんかったって事は、多分ロクでもない事を言うたんやろな。
オレは隠してあったパソコンのエンターを一回叩いた。準備してあった動画が流れる。白い壁にプロジェクターが映し出す動画と、流れる音楽が心地いい。
一枚目はルノとジャメルさんの二人が笑ってるパリの写真、それからジェームスとヴィヴィアンが入社してすぐに撮ったっていう写真、オレやジャンヌちゃんが集めたこの場にいるみんなの写真を順番に流していく。
一番最後に、パリで撮ったブノアファミリーの屋敷の飲み会の写真が流れる。
オレとジャンヌちゃんは、二人で辺りを見回して言うた。
「ルノ、誕生日おめでとう。それから、みんな、いっつもありがとう。来てくれてホンマにありがとう」
ジャンヌちゃんが同時通訳して、それを繰り返した。
オレはポケットに入れてたクラッカーを出して、ルノに向けて紐を引いた。
「おめでとう!」
キラキラしたカラフルな紙紐まみれになったルノが、茫然としている。
オレはルノの前まで行って、尋ねた。
「ホンマにルノは工作員やりたい?」
ルノは少し迷ったような顔をして、それから答えた。
「分からへん。でもこのまま逃げたくない」
オレはヴィヴィアンに尋ねた。
「ヴィヴィアン、ルノはどう?」
ヴィヴィアンは満面の笑みで答えた。
「合格」
「ヴィヴィアンがそう言うんなら、仕方がないな」
ジェームスはそう笑うと、ルノの首にカードキーをかけた。ちゃっかり用意してるやんって、ちょっと笑った。
ジジが怒鳴った。
「待って、どういう事?」
ルノは真っ直ぐジジを見つめると、胸を叩いた。
「俺はもう未成年ちゃうぞ、ジジ」
ジジは茫然とルノを見つめる。
「いつまでやるかとか、なんも考えてへん。でも、俺はまだ工作員やりたいんや。もう姉ちゃんの好きにはさせへん」
「何を言うてんの?」
ジジがルノの前に立った。
「ルノまでやる事ないやろ? うちが稼ぐやん。普通に生きてぇや」
「でも俺はそんなん嫌や。俺がやりたいからやるんや。関係あれへん」
ルノは笑った。
「もう姉ちゃんに負けるようなルノ様ちゃうぞ。文句があるんやったらかかってこいや」
ジェームスがその二人の間に割り込んだ。
「ジジ、ルノはもう大人だ。本人の意志だから、これ以上は無理だ」
困り果てた顔をしたジジの前に、ルノは手を差し出した。
「特別や。許したる」
「はあ?」
「俺は姉ちゃんと仲直りしたるって言うてんねん」
ルノがそう笑うと、ジジはその手を握った。
ホッとして、オレはそんな二人を見ていた。
「さてと、ちょうどいいからここで言わせてくれ」
ジェームスが笑った。
「ルノ、ダンテ、リリー」
ジェームスはオレとゆりちゃんとルノを見下ろして、少し嬉しそうに笑った。
「三人を正式にうちのBチームに任命したい」
「それって、ジェームスとヴィヴィアンの後任って事?」
「そうだ。三人をA級工作員として認める。うちで一番チームワークもいいし、今まで以上の仕事を回すようになると思うけど、きっと大丈夫だ。よろしく頼むよ」
ルノは笑った。
「任せろ」
スタートリガー社の工作員達 桜井もみじ☆ @taiyou705
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