分水嶺メッセージ

少し早めに席を立った私は、グラスの底に残った氷の音を背にして、カフェを出た。
自動ドアが静かに閉まると、外の空気は思っていたより生ぬるくて、
人と話すって、やっぱり体温が上がるんだな、とどうでもいいことを思った。

足早に駅へ向かおうとしたその時。

「白葵さん!」

背後から名前を呼ばれて、振り返ると──美晴がいた。
小さく息を弾ませて、手にスマホを握ったまま、ほんの数歩だけ、追いかけてきた様子だった。

「ごめん、急に。でも……さっきちゃんと伝えきれなかったから」

ふたりきりになると、美晴の目線はどこか不安げだった。
どこか、昔みたいに「自信があるふりをしている」ように見えた。

「私ね、ずっと白葵さんのこと、うらやましいなって思ってたの。なんでも見えてるみたいで、ちゃんと自分を持ってる感じがして」

「……私が?」

「うん。だから、もし今つらかったり、誰かに“見張られてる”ような気持ちになってたら、それって、私のせいかもしれないなって……ちょっと思ってた」

言葉を飲み込む私に、美晴はやわらかく笑った。

「今すぐじゃなくていい。ほんとに。ただ、話したくなったらいつでも連絡して」

「……うん」

それしか言えなかった。けど、ちゃんと声に出せた気がした。

「じゃあ、またね」

そう言って美晴は、深追いはせず、そのままカフェに戻っていった。
ひとりになった道の上、私は胸ポケットのスマホを取り出す。

通知がひとつだけ、届いていた。



ChatLog

NEW‼︎

美晴(m_haru)→白葵(shiroaki)

さっきはありがとう。びっくりしたけど、なんか嬉しかった。
もし来週、時間あったら少しだけ話さない?
お互い、ちゃんと「最近の自分」の話。できたら、だけど。

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