紙詰まりと、ちいさな偶然 ※機械は叩かないこと

DISマート・コーポレート・サポート室はなぜか閑職とか楽な部署と言われる。仕事内容はパソコンの前に座って、ずっとコピーやお茶汲みをしているうえに異性の影はゼロ、一度も肩書を持つことなく定年、もしくは転職するような部署だと思われている


そんな場所で、白葵は今日もコピー機の前に立っていた。
「なんでこんな時に限って…」
思わず声が漏れる。バシバシとコピー機の側面を叩いてみるものの、紙詰まりは解消しない。苛立ちが少しずつ募っていく。

「……ああ、もう!」

グーでガシガシと叩き、とどめに少し本気で蹴りを入れてみても、状況は変わらなかった。どうにかしたいのに、どうにもならないもどかしさ。そんな白葵の背後に、静かに気配が近づいてきた。

振り返ると、佐川がそこに立っていた。普段はあまり話すこともなく、淡々とした彼だが、その手際は驚くほど鮮やかだった。スッとコピー機を開くとその中に手を入れ、詰まった紙を引き抜く。叩いてもどうにもならないわけである。

彼だけにやらせるわけにはいかないと、詰まった紙を引き抜こうと白葵の手も自然に伸びてしまい、ふとした拍子に二人の指先がかすかに触れ合った。

思わず目が合う。ほんの一瞬、時間が止まったかのような気がした。


「高校の時、印刷係だったんです」

佐川がぽつりと呟く。白葵は自然と小さく笑い、少し照れくさそうに返した。

「似合いそう」

彼は驚いたようにこちらを見たが、それ以上は何も言わず、静かにその場を離れていった。


少し経って、メールで届いた業務連絡の内容を紙に印刷し、各チームの机の上の置きに行く仕事の途中

佐川のチーム室のホワイトボードに、小さく書かれた文字を見つけた。

『音楽で気分は変わるか、実験中(自己観察)』

思わず吹き出しそうになったその時、背後から彼が戻ってきて、恥ずかしそうに一言。

「……忘れてました」

照れくさそうにそう呟きながら、佐川が顔を少し赤らめて戻ってきた。まだ距離は遠く、言葉もぎこちなく、不器用な彼の姿がそこにあった。

それでも、確かな何かがゆっくりと、静かに育っているのを白葵は感じていた。

無理せず、自分のペースで。

そんな思いを胸に、彼女の静かな日々は、少しずつ確かな色を帯びていくのだった。

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