ニートで冴えない豚丼オンナ!!お前のことさ!

そして、私はこの装置に

──『もぎたてヒロインの、恋の聖女トリップ』のウィザード・セト(CV:津田健次郎)のデータを放り込んだ。


私が夢中になっていたのは、乙女ゲーム『もぎたてヒロインの、恋の聖女トリップ』。
ファンタジー世界に転生した地味女が、なぜか聖女に選ばれてイケメンに囲まれるという、よくあるやつ。


とはいえ、ただゲームのデータをインストールしただけじ



主人公はいくら聖女とはいえ異世界につき、行く先々の人々の助けを借りる必要があるのだが、垢抜けない容姿と現実くさすぎる価値観のせいで、


ー干物女に売るものはないよ‼︎

村人からは気味悪がられ、

ー永平さん、じゃなかった衛兵さん‼︎ドレスコードも守れない魔女が街に侵入してるよ‼︎

街の人にモンスター扱いされ、

ーぼくは顔の造形がユニバーサルなだけで調子をこくやつに容赦はしない‼︎

と吐き捨てられ、


もちろんタイトル画面に出てくるイケメンからは露骨に嫌われる。その中でも、ウィザード・セト(CV:津田健次郎)というキャラがいた。


彼だけは優しい。謎めいていて、知的で、主人公にだけ少しずつ心を開いてくれる。


「お前がこの世界を渡っていくには多少の問題があるようだ」

「人の心とは、夏の曇り空。お前を拒むのはいっときのスコール、その曇った心とに虹をかける力を、お前に」

そこで彼の手で聖女の力「ラブ・スタンプ」を目覚めさせられ、使って選んだ相手と心を通わせ、魔力を共有するこのスキルが、唯一の武器。


そして聖女の力「ラブ・スタンプ」を目覚めさせてくれた存在、そんな彼は私も大好きで
でもその実態は──

「魔力とは、イマジネーションから湧き出るもの。そう!お前のような自己評価だけは高く、ネットでばかり威勢は良く、自分の身を顧みず、その結果としてモテないくせに、福山や大谷と結婚した一般女性が自分だとだと勝手に誤解し、次は鈴木福くんと結婚するのが運命かもなどという愚かな妄想を繰り返す!!」

──あ、これヤバいやつだ。



「そんなお前こそがあの令和時代とかいう薄汚れた世界で見つけた魔法の果実!!」



「アラフォー独身、家事手伝い、ニートで冴えない豚丼オンナ!!お前のことさ!」



何百回やっても、ラスト直前でこの罵倒が飛んでくる。
ラスボスにして、プレイヤーの心を直接えぐってくる設計。
ゲーム内で戦ってるはずなのに、現実の私が泣いた


セトが、静かに私の首に手を差し伸べる。

「さあ、白葵──お前の魔力を、俺によこせ」

私はバニティネルを放り捨てた。




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