最終章:心の一片と、深海の再生 💖

クリスは、震える手で巻物を引き寄せた。

その指先が、金色の鱗の模様を辿る。

「これは…私の、魂の記録…」

彼女の掠れた声が、深海の静寂に吸い込まれていく。

「かつて、私は神々と戦い、敗れた。

その時、私の…『感情』は、この巻物に封印された。」


🌌


彼女の瞳は、遠い過去を見ているようだった。

「そして、その感情の一片が、貴様の魂に宿ったのだ。」

彼女の視線が、私に向けられる。

私の目尻の鱗。

それこそが、彼女の失われた「心」の欠片。

全てが、繋がり始めた。


💥


クリスの言葉が、私の脳裏に鮮やかな映像を呼び起こした。

巨大な触手が天を衝き、

神々の光と、クラーケンの闇が激突する。

想像を絶する光景。

それは、私の記憶ではない。

だが、なぜか、胸が締め付けられるように痛んだ。


🥺


「寂しかったのよ。」

クリスの口から、まるで幼い子供のような声が漏れた。

その言葉と共に、彼女の目から、

一筋の涙が流れ落ちた。

それは、感情を封印して以来、

初めて流された、真の涙だったのかもしれない。


🤝


私は、衝動的にクリスの手を取った。

ひんやりとした彼女の指先が、私の温もりに触れる。

その瞬間、私の目尻の鱗が、

まばゆい光を放ち始めた。

そして、巻物の金色の模様もまた、

呼応するように輝きを増していく。


💞


光はクリスの体を包み込み、

やがて、彼女の表情が、

今まで見たことのないほど穏やかなものに変わった。

まるで、長い眠りから覚めたかのように。

彼女の顔に、柔らかな笑みが浮かんだ。

それは、偽りのない、心からの笑顔だった。


🌅


「…ありがとう、ミカ。」

クリスの声は、もう冷たくはなかった。

そこには、温かさと、感謝の気持ちが込められていた。

彼女の「感情」が、

私を通して、再び目覚めたのだ。


🌈


深海のマンション『アビス・レジデンス』に、

温かい光が満ちていく。

イカ先生は、半透明の体を揺らしながら、

「おめでとうございます、クリスティーネ様!」

と、心から喜んでいるようだった。

トロは、透明な体をぴょんぴょん跳ねさせ、

「やったー!クリスが笑った!」

と、無邪気に叫んでいた。


🏡


不機嫌クラーケンと、迷子の少女。

笑いの中に潜んでいた喪失と再生の物語は、

深海の底で、新たな一歩を踏み出した。

この奇妙なルームシェアは、

クリスの心に、そして私の心に、

忘れかけていた温かさを、

そして、生きる喜びを、

深く深く刻み込んだのだ。

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