第10話 獣人の村の秘密と魔王軍の使命

へっぽこ魔王軍の生き残り部隊は、森の奥深くをこそこそと進んでいた。彼らは玉藻の命令で密かに獣人たちと連絡を取り合っており、その情報収集を終えて、再び大介たち一行(大介、玉藻、ポン助、ミィ)との合流地点を目指していたのだった。しかし、元々がへっぽこなので、合流地点への道中もいつも難航した。地図を逆さまに持ったり、同じ場所を何度もぐるぐる回ったり、あげくの果てには毒キノコを食いそうになったりと、その歩みはまるで酔っ払いのように危うかった。


リーダーゴブリンが項垂れた。


「ひぃっ! また道に迷ったでござる! 魔王様、この先にいらっしゃるはずでござるが……」


その声には、苛立ちと焦りがにじんでいた。合流地点は見つからず、玉藻を見つけられない状況に、彼らは途方に暮れているようだった。


その時だった。遠くから、煙の匂いと、微かな談笑が聞こえてきた。警戒しつつ、匂いの元へと近づくと、木々の向こうに焚き火の光が見えた。その周りには、大介が手際よく料理をする姿、火の光に照らされ、小さくも威厳を放つ玉藻。そして、先日拾われたばかりのロリ獣人少女・ミィが、ポン助の隣で目を輝かせているのが見えた。彼らの旅の仲間が、そこにいた。


その光景を目にした獣人たちは、ざわめきと共に警戒の色を浮かべた。見慣れないゴブリンたちの姿に、彼らの間には一瞬の緊張が走る。


へっぽこ魔王軍は、玉藻の姿を見て、一斉に歓声を上げた。


「魔王様! やっとお会いできたでござる! お変わりなくご健勝そうでなによりです!」


「へい! 魔王様がちいさくなってしまわれたと聞いておりましたが、その威厳は変わりませんでござる!」


玉藻はへっぽこ魔王軍を見て、不満げに鼻を鳴らす。


「フン。うるさい奴らやな。別にワシは元気や。それより、お前ら、何か面白い情報でも持ってんのか?」


リーダーゴブリンは「へへっ」と笑い、国王が獣人に課す意味不明な法律の一例を具体的に描写した。


「月のない夜は外出禁止、毛皮税……まともに暮らせないっス!」


ポン助が、リーダーゴブリンの言葉に同調するように、憤慨する。国王の悪行は、彼自身が身をもって体験したことだ。大介はそれを静かに聞いていた。


(こういう奴らが、彼女を“魔王”にしたのか……)


大介のモノローグで、彼の内面に静かな怒りが湧き上がる。玉藻はそんな大介を横目に見て、彼の表情に僅かな陰りが差したのを感じ取った。彼女は、大介が獣人の苦しみに心を痛めていることに気づき、彼を支えようと、そっと大介の服の袖を引いた。


「おい人間、そんな顔しとらんと、美味いもん作ってやれや」


玉藻はそう言って、大介の顔を覗き込んだ。その瞳には、彼の心を気遣うような色が宿っていた。


大介は獣人たちのために、彼らの食材を使った温かい料理を振る舞うことにした。森で採れた野草と、先日捕まえた川マス、そして持参した米を使い、シンプルなリゾットを作る。大鍋いっぱいに作られた料理が、焚き火の熱でぐつぐつと煮える。香ばしい匂いが広場に満ち、獣人たちの目が輝いた。


大介が「さあ、みんな、たくさん食べてくれ」と声をかけると、獣人たちは警戒しつつも、ゆっくりと器を受け取った。一口食べた瞬間、彼らの瞳が大きく見開かれた。


「こ、これは……」


一人の老婆が震える声で呟き、目から大粒の涙が溢れ落ちる。


「この料理……昔、王に奪われた故郷の味だ……」


その言葉は、まるで過去の記憶が蘇ったかのように、獣人たちの心を震わせた。彼らの凍てついた心が解かされ、笑顔を取り戻していく。温かい料理が、国王の悪行を象徴する過去と結びつき、読者に強い感情を呼び起こした。


ミィもまた、その匂いに安心したように、小さな手でそっと器を抱きしめた。彼女の目からも、一筋の涙がこぼれ落ちる。


へっぽこ魔王軍は、自分たちの新たな使命を再認識した。それは、玉藻と大介の力を借りて、虐げられた獣人を守ること。彼らは、大介たちの旅に協力することを申し出た。リーダーゴブリンが力強く叫んだ。


「我らが守るは、民草でござる!」


獣人たちは大介たちに信頼を寄せ始め、彼らを「新たな希望」と見なすようになる。玉藻は、大介が「世界を救う気はない。ただ、メシがうまけりゃそれでいい」と言っていたにも関わらず、実際には困っている人々を助けていることに気づき、彼の優しさに触れる。


(あの時、玉藻の姿が見えなかっただけで、妙に焦ってた……俺、何やってんだか)


大介は玉藻を見つめながら、内心でそんなことを考えていた。


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【魔王のわるだくみノート】


フン! 人間め、またワシを感心させおったな! まさかワシの料理の力で、あの獣人たちをあそこまで感動させるとは。まあ、ワシの力がなくなっても、この人間がおるなら当分は困らへんか。それにしても、ワシのへっぽこ部下たちも、少しは役に立つようになってきたんか。これもワシの指導のおかげやな。ま、ワシのわるだくみのためにも、みんなで仲良く暮らしたるで。


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次回予告


フン! 人間め、またワシを感心させおったな! まさかあんなしょーもない料理で、あの村長をギャフンと言わせるとは。まあ、ワシの力がなくなっても、この人間がおるなら当分は困らへんか。でも、ワシの魔王軍のへっぽこ共も、そろそろ役に立つところを見せてほしいもんやで! 次は、癒しの泉に行くらしいが、どんな奴らがいるのか、楽しみやな!


次回 第11話 癒しの泉と大人玉藻の戸惑い

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