第010話 アニメ開始、大きな決断

 1997年4月1日 小学6年生スタート


「聡、ついに今日だね!」


 翔が興奮した様子で僕の隣に座った。小学6年生になった初日。僕たちは最高学年になった。


「うん。最高学年だ」


「それより、今日の夜はポケモンアニメの第1話だぞ!」


 確かに、今日は記念すべき日だった。ポケモンアニメの放送開始日。前世の記憶では、この日から日本中の子供たちがポケモンに夢中になる。


 始業式の後、僕たちは新しいクラスメートと顔合わせをした。


「よろしくお願いします」


 挨拶を交わしながら、僕は周りを観察していた。6年生になって、みんな少し大人びて見える。下級生からの視線も感じる。


「聡たち、投資研究会どうするの?」


 佐野君が聞いてきた。


「6年生でも続けるよ。でも、下級生にも教えてあげたいな」


 僕は答えた。


「いいね!聡先生の誕生だ」


 山口さんが笑った。


 帰り道、僕と翔は6年生としての責任について話し合った。


「最高学年って、責任重いよな」


「そうだね。でも、いい経験になると思う」


「投資研究会も、もっと本格的にしようか」


 夕方6時30分。ついにポケモンアニメが始まった。


 僕と翔は僕の家で一緒に視聴した。両親も興味深そうに見ていた。


「ポケットモンスター、ゲットだぜ!」


 主人公サトシの声が響いた。


「ピカチュウ、10まんボルト!」


 黄色いポケモン、ピカチュウが電撃技を放つ。


 30分間の第1話を見終わった時、僕は確信した。


『これは間違いなく大ヒットする』


「どうだった?」


 翔が感想を求めた。


「最高だった。絶対に人気になる」


「俺もそう思う。明日、学校でみんな話題にするよ」


 母さんが微笑んだ。


「とても面白いアニメね。子供たちが夢中になるのも分かるわ」


 父さんも感心していた。


「よくできてる。これは商業的にも成功しそうだ」


 翌日、学校はポケモンアニメの話題で持ちきりだった。


「見た見た!すごく面白かった!」


「ピカチュウ、可愛すぎる!」


「俺もポケモンマスターになりたい!」


 下級生たちも興奮して話していた。6年生の僕たちは、少し余裕を持って見守っていた。


 僕と翔は満足そうに顔を見合わせた。予想通りの反応だった。


 放課後、僕たちは急いで株価をチェックした。


「聡!見てくれ!」


 翔が新聞の株価欄を指差した。


 仁天堂の株価は3,200円。前日より200円の上昇だった。


「すげー!一日で200円も上がった!」


 僕の14株の価値は44,800円になった。投資額22,000円に対して、含み益は22,800円。ついに投資額の倍を超えた。


 翔の22株の価値は70,400円。彼の含み益も16,800円に達した。


「これ、売った方がいいんじゃない?」


 翔が少し心配そうに言った。


「投資額の倍って、十分すぎる利益でしょ?」


 僕は迷った。確かに大きな利益だ。でも、前世の記憶ではポケモンブームはまだまだ続く。


「もう少し様子を見よう」


「本当に?下がったらどうする?」


「その時はその時。でも僕は、まだまだ上がると思う」


 ゴールデンウィーク明け、ポケモンアニメの視聴率が発表された。


「視聴率18.6%!」


 翔が興奮して報告した。


「同時間帯でトップだって!」


 これは予想を上回る数字だった。子供向けアニメでこの視聴率は驚異的だ。


 仁天堂の株価も反応した。3,400円まで上昇。


 僕の保有株の価値は47,600円になった。


「もう投資額の倍以上だよ」


 翔がため息をついた。


「俺も75,000円超えた」


 でも僕は、まだ売るつもりはなかった。ポケモンブームは始まったばかりだ。


 5月中旬、僕は重要な決断をした。


「お父さん、利益の一部を確定したいんだ」


 夕食時、僕は両親に相談した。


「利益確定?」


「今持ってる14株のうち、4株だけ売りたい」


 父さんが理由を聞いた。


「なぜ一部だけ?」


「リスク管理です。利益の一部を確定させて、残りは長期保有したい」


 これは前世の投資経験から学んだ知恵だった。大きな利益が出た時は、一部を利益確定してリスクを下げる。


「賢い判断だな」


 父さんが感心した。


「投資額の範囲内で利益も出してるし、一部売却は良いアイディアだ」


 母さんも賛成してくれた。


「聡なりに考えてるのね」


 5月20日、僕は仁天堂株4株を3,500円で売却した。


 売却代金は14,000円。この4株の投資額は約6,300円だったので、利益は約7,700円だった。


 手元に残る株は10株。これを長期保有する予定だ。


「どうだった?」


 翔が心配そうに聞いた。


「良い気分だよ。初めて利益を確定した」


「俺も一部売ろうかな」


「翔の判断に任せる。僕は10株で様子を見る」


 翔も僕に倣って、保有株の一部を売却した。22株のうち7株を売却し、15株を長期保有することにした。


 その夜、僕は投資日記に特別な記録を残した。


『人生初の利益確定』

『売却:仁天堂株4株×3,500円=14,000円』

『利益:約7,700円』

『残り保有:10株(長期保有予定)』


『学んだこと』

『リスク管理の重要性』

『一部利益確定の効果』

『感情に流されない判断力』


『現在の資産状況』

『現金:21,700円(売却代金込み)』

『株式:35,000円(10株×3,500円)』

『総資産:56,700円』


 6月に入ると、ポケモングッズが本格的に市場に出回り始めた。


 ピカチュウのぬいぐるみ、ポケモンカード、文房具。どこの店でもポケモングッズが飛ぶように売れていた。


「すげー。本当に社会現象になってる」


 翔が感心した。


「これでまだ放送開始から2か月だからね」


 僕は前世の記憶を思い出していた。ポケモンブームはこれから何年も続く。映画化、ゲームの続編、海外展開。すべてが株価を押し上げる要因になる。


 小学校でも、投資に興味を持つ下級生が現れ始めた。


「田中先輩、投資のこと教えてください」


 5年生の後輩が声をかけてきた。


「投資に興味があるの?」


「はい。6年生になったら僕も始めたいです」


 僕は基本的なことから説明した。株式とは何か、なぜ価格が変動するのか、リスクとリターンの関係。


「分かりやすい説明ですね」


 後輩が感心した。


「田中先輩って、本当にすごいんですね」


 翔が横で誇らしそうにした。


「聡は小学4年生から投資してるからな」


 こうして、僕たちの投資研究会は後輩指導も始めることになった。


 7月、夏休み前。僕は小学生最後の夏の戦略を立てた。


 投資日記に書いた。


『小学6年生夏休みの目標』


『投資関連』

『ポケモンブームの詳細分析』

『利益確定の練習』

『新しい投資機会の研究』


『学校関連』

『後輩への投資指導』

『最高学年としての責任』

『中学進学準備』


『長期計画』

『中学での投資継続計画』

『翔とのパートナーシップ強化』

『将来のビジネス構想』


『でも、最も大切なこと』

『小学校最後の夏を楽しむ』

『友達との思い出作り』

『家族との時間を大切にすること』


 窓の外では夏の蝉が鳴いていた。


 転生してから2年3か月。僕の新しい人生は順調に進んでいる。


 投資では想像以上の成果を上げ、翔という最高のパートナーも得た。そして美桜さんという新しい仲間も。


 でも、これはまだ序章に過ぎない。


 本当の挑戦はこれからだ。中学、高校、大学。そして社会人として独立するまで。


『第1部完結。でも、物語はまだまだ続く』


 そう心に刻みながら、僕は投資日記を閉じた。


 小学生投資家としての集大成の夏。


 来年からは中学生。新しいステージが待っている。


 でも、投資の成功よりも大切なものがあることを、僕は忘れない。


 家族との時間、友達との友情、そして普通の小学生としての青春。


 それらすべてを大切にしながら、僕は小学校最後の1年を歩き続ける。


 転生という奇跡を与えられた僕の、投資と青春の物語は、まだまだ続いていく。

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