30歳SEが小学生に転生未来。知識で投資チートしながら青春を謳歌する

ドデカメタン

第001話 新しい人生の始まり

 1995年4月1日 田中家


 僕は目を覚ました。いや、正確には気がついた。


「あれ?」


 声が変だ。高い。まるで子供の——


 慌てて周りを見回す。見慣れない部屋。小さなベッド。机の上にはクレヨンと落書き帳。壁には戦隊もののポスター。そして、手鏡を取って自分の顔を見て、僕は言葉を失った。


 丸い顔、大きな目。間違いない。これは子供の顔だ。


「聡、朝ごはんよー!」


 階下から女性の声が聞こえる。聡?僕の名前は確かに田中聡だったけど、この声は——


 記憶が蘇る。30歳。IT企業のシステムエンジニア。毎日の残業、睡眠不足、過労。そして、深夜のオフィスで意識を失って。


「まさか」


 僕は震える手でカレンダーを見た。1995年4月。僕は1985年4月生まれだから、今10歳。小学4年生。


 転生した。いや、正確には逆行転生だ。


 階下に降りると、見覚えのある女性がいた。母さんだ。30歳で死んだ僕にとって、もう20年近く前に亡くなった母さんが、若々しい笑顔で朝食の準備をしている。


「おはよう、聡。よく眠れた?」


「う、うん」


 涙が出そうになるのをこらえた。母さんの顔をこんなにじっくり見るのは何年ぶりだろう。前世では仕事ばかりで、家族と過ごす時間なんてほとんどなかった。


「今日から新学期ね。4年生になったのよ」


 朝食はご飯と味噌汁、卵焼き。前世ではコンビニ弁当ばかりだった僕にとって、母さんの手料理は宝物だった。


 食事中、僕は前世の記憶を整理した。1995年から2025年まで、30年間の出来事を覚えている。株価の変動、企業の浮沈、技術革新。特に投資に関しては、システムエンジニアとして経済ニュースを追っていたから詳しい。


 仁天堂株がポケモンブームで急騰すること。マイクロソフトやアップルが巨大企業になること。リーマンショック、アベノミクス、コロナショック。そして仮想通貨ブーム。


『これを活用すれば』


 僕は心の中でつぶやいた。


『でも、それより大切なことがある』


 母さんの笑顔を見つめながら、僕は決意した。前世では仕事に追われて失ったもの。家族との時間、友達との遊び、恋愛、青春。今度こそ、人生を楽しもう。


「聡、大丈夫?なんだかぼーっとしてるわよ」


「あ、ごめん。新学期だから緊張してるんだ」


「そう?でも聡ならきっと大丈夫よ。お友達もたくさんできるわ」


 登校時間が近づく。母さんにランドセルを背負わせてもらいながら、僕は前世の知識をどう活用するか考えていた。


 学校までの道のりで、僕は1995年の日本を改めて観察した。まだ携帯電話もインターネットも普及していない。街並みも懐かしい。


「よし、今度こそ最高の人生にしよう」


 そうつぶやきながら、僕は小学校の門をくぐった。


 新しいクラスメート


 4年2組の教室に入ると、見知らぬ顔がたくさんあった。前世の記憶はあるものの、小学校時代の友達の名前までは覚えていない。


「田中聡です。よろしくお願いします」


 自己紹介を済ませ、席に座る。隣の席の男の子が話しかけてきた。


「俺、山田翔。よろしく!」


「こちらこそ」


 翔は人懐っこい笑顔の少年だった。休み時間になると、すぐに仲良くなった。


「聡って変わってるな。なんか大人っぽい」


「そう?」


「うん。でも面白い。今度一緒に遊ぼうぜ」


 これが、翔との友情の始まりだった。


 授業中、僕は前世の知識で内容を理解していたが、10歳らしく振る舞うよう注意した。目立ちすぎては困る。


 放課後、家に帰ると父さんが早く帰宅していた。


「おかえり、聡。新学期はどうだった?」


「楽しかった。新しい友達もできたよ」


「それは良かった」


 父さんは会社員だ。前世では父さんとの会話もほとんどなかった。今度は違う。


 夕食時、僕は慎重に話を切り出した。


「お父さん、株って何?」


「株?急にどうしたんだ?」


「テレビで見たんだ。会社の株を買うとお金が増えるって」


 父さんと母さんが顔を見合わせた。


「確かに株式投資というものはあるけれど、ギャンブルみたいなものだからな。特に今は景気が悪いし」


 1995年はバブル崩壊の余波で、株式市場は低迷していた。でも僕は知っている。これからポケモンブームが来る。ITバブルも来る。


「でも、良い会社の株を長く持っていれば、会社が成長したときに価値が上がるんでしょ?」


「そうだが、聡には難しすぎる話だよ」


「僕、勉強したいんだ。将来のために」


 両親は驚いた表情を見せた。10歳の子供が将来について考えるなんて。


「勉強するのは良いことだ。でも、まずは学校の勉強をしっかりやることだな」


「うん、分かった」


 その夜、僕は一人で今後の計画を練った。


『まずは投資資金を作らないと』


 小学生の僕に大金はない。でも方法はある。お小遣いを貯める、お年玉を活用する、何かで稼ぐ。


『でも焦らずに。まずは普通の小学生として生活しよう』


 前世では得られなかった友情や家族との時間を大切にしたい。投資は二の次だ。


 でも、心のどこかで期待していた。10年後、20年後、僕はどれほどの資産を築いているだろうか。


『今度こそ、お金持ちになって、みんなを幸せにしてやる』


 ベッドに横になりながら、僕は決意を新たにした。


 転生という奇跡を与えられた僕は、今度こそ最高の人生を送る。投資で成功し、家族を大切にし、友達を作り、恋愛もする。


 30歳で死んだ田中聡の人生が、10歳から再スタートした。


『明日から頑張ろう』


 そう思いながら、僕は眠りについた。新しい人生の1日目が終わった。


 お小遣いと将来への第一歩


 翌朝、僕は母さんにお小遣いについて相談した。


「聡、お小遣いが欲しいの?」


「うん。でも普通に使うんじゃなくて、貯金したいんだ」


「貯金?偉いのね。でも何のために?」


「将来のため。大きくなったら、お父さんとお母さんを楽にしてあげたいんだ」


 母さんの目に涙が浮かんだ。


「優しい子ね、聡は。分かったわ。月に1000円のお小遣いをあげましょう」


 1000円。前世の感覚では少ないが、1995年の小学生には標準的な金額だ。


「ありがとう、お母さん」


 学校で翔と話していると、面白い情報を得た。


「俺の兄ちゃんがさ、ファミコンのゲーム売って小遣い稼いでるんだって」


「ゲームを売る?」


「うん。クリアしたゲームを中古屋に売るの。状態が良ければそこそこの値段で売れるらしいよ」


 これはチャンスかもしれない。僕は前世でゲーム業界のことも知っている。どのゲームが人気になるか、どれがプレミア化するかも。


「今度、一緒に中古ゲーム屋に行ってみない?」


「いいね!今度の日曜日に行こう」


 小さな一歩だが、これが僕の投資人生の始まりになるかもしれない。


 その日の夜、僕は押し入れから自分の貯金箱を出した。お年玉や今までのお小遣いの残り。数えてみると3,240円あった。


『まずはこの3,240円から始めよう』


 前世では数百万円を株式投資に使っていたが、今は3,240円がすべて。でも不思議と希望に満ちていた。


『今度こそ、ちゃんとした投資家になる』


 窓の外を見ると、星がきれいに見えた。1995年の夜空は、前世で見た都市部の空より澄んでいる。


 新しい人生が始まった。30年間の未来を知る10歳の僕の、投資と青春の物語が。

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