料理をする神皇、涙を知る暗殺者――心に宿る『シンメトリア戦記』

 神皇アモンという存在――その神々しさと人間らしさ、そのどちらもを真摯に抱えた姿に、私はすっかり心を奪われてしまいました。中でも、透明化の魔法で城を抜け出し、自らの目と耳で民と触れ合おうとする場面は、胸の奥が熱くなるようでした。あれはきっと、王であり神である存在が“理”を超えて、ただ一人の人として民と向き合おうとした証なのだと感じます。

 また、力を制御するために料理修行を始めるアモンの姿にも、思わず頬がゆるみました。ただ強さに甘えるのではなく、自らの手で世界と調和しようとする彼の姿に、深い敬意と親しみを覚えます。

 そして、もう一人の主人公ヴィーゴ。かつての仲間との再会と、別れの中でにじむ過去の痛み。その静かな感情の波が、とても印象に残りました。

 国家とは何か。信仰とは。そして、「変革」は誰が起こすものなのか――
 戦記でありながら、心の奥に届く詩のような物語。これからの展開が楽しみです。

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