第3話 瑠璃の仕事風景②

「で、この仕事を受けてきたというわけか」


「そういうことだよ、姉さん」


姉である緑鏡花のセリフを、瑠璃は肯定した。


瑠璃と鏡花は今ショッピングモールに来ていた。休日のショッピングモールなので辺りは喧騒に包まれていて、家族や恋人、友人同士などが話す声ですごく騒がしい。


瑠璃は今男子高校生バージョンではなく幼女バージョンだ。魔法少女に変身してるわけではなく、女児服を着て一般幼女に扮している。


別に、女体化幼女プレイに姉を付き合わせているわけではない。受けた仕事の性質上どうしても必要になってしまったからこうなったのである。


「で今日は寄生型魔物の退治仕事を受けてきたのだったな」


「そうなんだ。人間に寄生して悪さをするような魔物が出現してきてるみたいなんで、今回受けたのはそれを倒す仕事なんだ」


「それでショッピングモールか」


「うん。奴らは人に紛れて人を喰う魔物だから、人が多くて紛れやすいこの休日のショッピングモールには潜んでいそうだなと思ってね」


「なるほど、確かに」


鏡花は周りを見る。本当にたくさんの人がいる。人のいない場所より、人に紛れていた方が、むしろ悪事をしやすいこともある。魔物でもそれくらいの知恵は働くだろう。寄生型の魔物は弱いから、生き残りつつ、上手く獲物をとることにかけては特に知恵が働くのだ。


「なんだ、私とドキドキ女体化姉妹プレイデートをしたいわけではないのか」


「キモいこと言うなよ」


「ははは」


鏡花は穏やかに笑った。


今日の鏡花は普通の格好をしている。鏡花は普段は着物を着て、顔の半分にウサギのお面をつけるというかなり珍妙な格好をしているのだが、今回はあまり目立つわけにはいかないので普通の格好をしているのだ。半袖のTシャツにショートパンツという格好である。


別に、あの格好にたいして愛着があるわけではない。ただ、あの格好でいると奇妙な目で見られる。鏡花は、人から奇妙な目で見られるという体験をしたいから、あの格好をしているわけで、あのファッションに誇りがあるというわけではないのだ。あの格好じゃないとキャラが立たないね。ただの美人お姉さんになっちゃう。


「ふむ、喉が乾いたな。瑠璃、水とか出せないのか?」


「だから何度も言ってるだろ、そんなことできないって。何もないところから魔法で水を創るのは莫大な魔力がかかるんだよ」


「そっか、ならサトウカズマみたいなことはできないのか」


「あれはファンタジーだから出来るんだよ。ちなみに、空気中の水分を集める、なんてことも出来ないかな。頑張ればできるのかもしれないけど、今はそんな難しいことはとてもじゃないけど出来ないな。それが出来ればBLEACHの日番谷冬獅郎みたいにかっこいい氷の技とかも使えるんだけどな・・・・・・」


そんなことを話しながらショッピングモールの廊下を歩いていくと、途中に自販機があった。


「あの自販機で何か買おうか」


鏡花は自販機を指差して言った。


「あー、そうだな。俺もちょうど喉が乾いてたところだ」


瑠璃と鏡花の2人は自販機の前に立つ。


「瑠璃が先に選んでいいよ。私は瑠璃の選んだヤツを一口飲ませてもらえれば良いから」


「いいのか?えーっとじゃあ・・・・・・」


瑠璃は背伸びをしながら自販機のラインナップを眺める。瑠璃色の髪をツインテールにした幼い女の子がそういうふうにして自販機を眺めるのは、なかなかに微笑ましい光景だ。現に、通りすがりの主婦やカップルの女性の方なんかは微笑ましそうに見ていた。


「んー・・・・・・じゃあオレンジジュースにしようかな」


「オレンジジュースか。わかった」


鏡花は財布を取り出し、硬貨を入れて瑠璃には届かなそうな位置にあるボタンを押した。


「先に一口飲んでいいよ」


「良いのか?じゃあ遠慮なく飲ませてもらおう」


鏡花が一口飲んでから、瑠璃が飲み始めた。瑠璃は両手でペットボトルを持って飲んだ。


瑠璃が飲み終わってから、鏡花は聞いた。


「ところで、魔物っていうのは人に寄生してるわけだろう?外から見たら魔物に寄生されてるかどうかなんてわからないじゃないか。何か発見するための手段とかあるのかい?」


「ああ。セカンドの会社から魔物を発見するための機械を借りてきたから、それでわかるよ」


瑠璃は腕につけた、腕時計型の装置を見た。魔物が近くにいるとこの時計の針がぐるぐる回るのである。


「この機械と、俺の魔力探知魔法があれば大体気づける」


「そうか、ならそれまで何をしようかな」


鏡花が考えていると、瑠璃がくいくいっとその袖を引いた。


「姉さん、俺お腹すいた」


「・・・・・・そうか、ならご飯にするか」


鏡花は微笑み、瑠璃の頭を撫でると、よく行くレストランへと向かうのであった。

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