嵐の夜に・・・リディ人狼の恋に巻き込まれる
第1話 リディ・アリスタン
9月。
夏も終わろうとしている頃。
人狼と人間が共存する町、グリーディングシティに嵐がこようとしている。
日が暮れ始めたころから厚い雲が空を覆い、風が強くなってきていた。そして夜も更け、ゆっくりと夜を過ごしたい時間帯に本格的な嵐の予感がリディの顔を曇らせる。
艶やかな漆黒の腰まである真っすぐな髪。透き通るような白い肌。
夜空の様な神秘的な黒い瞳。瞳を覆う長いまつ毛。
筋の通った鼻孔に桜色の艶のある唇。
部屋着の身体を締め付けないクリーム色のストンとしたロングスカートを着けたリディは二階の窓から外を睨む。
リディは嵐が大嫌いだ。
リディは人豹と人間の町ヴィオリーナシティで生まれた。
リディが生まれて間もない頃、ヴィオリーナシティの施設の前に捨てられた時も嵐だったと聞いている。
施設の前に捨てられた時は、小さな身体を綺麗な寝具に包まれ籠の中に守るように入れられていたそうだ。
さらに、その籠には小袋が入っていて「リディ・アリスタン」の名前と透明で微かな虹色の光を放つオーロラクリスタルが一緒に入っていた。
そっとリディは手のひらを開きその丸く輝くクリスタルを見つめる。
「夢・希望・保護石」この石を調べていくうちにパワーストーンや占い、おまじないまで手を出してしまい、この雑貨店『ウィッチ』まで開いてしまっている。
目の前の空が光り、石が空から降って来たような大きな音が鳴り響く。
小さく叫びしゃがみ込む。
それが合図の様に大粒の雨が音を立てて降り注ぐ。
家の中に居るはずなのに身体が震え、冷えてくるのを感じる。
こんな時に限って同居人のイブは、めでたく恋人となった人狼のキング、チャンスの所に泊まりに行っている。
一人で頑張らないと・・・。
「ニャー・・・。」
床からすり寄ってくる黒い塊に気が付く。
この家で生活を始める日に玄関に居ついてしまった黒猫のミヤだ。今では、この家の主の様に大きな顔をしている。
「・・・ミヤ。そうね。あなたが居たわね。」
ミヤを抱き上げその暖かさを感じていると、玄関からドアを叩く音がする。
思わずビクリと身体を振るわせ、階下に続く階段を睨む。
イブなら鍵で入ってくるはずだ。
その双子の妹で警察官なセシルかもしれないが、尋ねてくるなら、まず電話をするはず・・・。
「リディ!」
聞き覚えのある声に目を見開く。
「・・・ガウディ?」
人狼のキングの側近だ。人狼の側近は2人、ガウディとデニス。
グリーディングシティの繁華街の端、そこは、ちょうど人狼の森の境目にあって、人狼が経営するカジノ ヴァングリーがある。
そのカジノは、グレイスホテルとの付き合いが長い。
そのホテルの社長の娘で支配人のイブを通して、ガウディとは面識がある。
でも、こんな嵐の夜にどうして・・・。
呆然としていると、さらにドアを叩く音が強くなる。
壊されそうで恐ろしくなり、ミヤを抱きしめたまま慌てて起き上がり、下に降りながら声をあげる。
「ドアが壊れるわっ。ガウディなの⁉」
リディの声にドアを叩く音がピタリと止まる。
「そうだ。ひどい雨だ。開けてくれ。」
聞いた事のある、ぶっきらぼうなガウディの声だ。
ドアを開けると雨と風がガウディと一緒に入って来た。
ミアは飛び上がり、リディの腕から出ると二階へと一目散に逃げていった・・・。
裏切者ね。
リディがミアの後ろ姿を睨んでいると、ガウディが狭い玄関に入って来てドアを閉めた。
リディより頭一つ背が高く、広い肩幅に長い脚、銀色の髪は粗削りだが整った顔の周りに無造作にかかり、雨粒が滴っている。
表情の読めないこの人狼はなぜか、私の周りの人間たちから信用されている。
途端にこの家が狭くなる。リディは濡れたガウディから距離を置く為一歩さがる。
「イブならチャンスの所よ?」
「知っている。イブが君が一人なのを心配していたから見に来たんだ。」
イブから電話がかかってきたのを思いだす。
心配入らないと言ったが信じてくれなかったようだ。
イブはリディが嵐が苦手なのを知っている。
でもまさかガウディが来るなんて・・・。
この時間はカジノの営業時間のはず。
ガウディは何時もの黒いスラックスと黒いシャツだが、艶やかな銀色の髪が雨でぬれて雫がキレイな顔を伝ってシャツに落ちている。
「リディ・・悪いんだが・・・。」
ガウディが言いにくそうに表情の乏しい顔をしかめる。そこでリディも我に返る。
「ご、ごめんなさい。あがってちょうだい。今タオルを持ってくるから。」
慌ててそう言って先にタオルを取る為、上に駆け上がる。
その後ろをガウディが窮屈そうに上ってくる。
部屋で待っていたミアが跳びあがり毛を逆立てガウディを威嚇する。
「ミア。狼さんに飛びかかったら食べられるわよ。大人しくしていて。」
ミアに声をかけ、バスルームへ入りタオルを数枚掴みリビングへ戻る。
「ガウディ。タオルよ。風邪ひいちゃうわ。」
リディが手渡したタオルでガウディが頭から拭いていく。
「悪い、部屋を濡らしてしまった・・・。」
「いいのよ。カジノは大丈夫なの?」
「この天気じゃ、たいして客も来ないから、平気だ。」
その瞬間家が揺れる様な雷の音が響き稲光が辺りを明るくした。
心臓が掴まれたように冷たく凍り、恐怖のあまり目の前のガウディにすがりついてしまった。
ガウディは一瞬固まったが、すぐにリディを抱きしめる。
「・・・リディ?」
リディの耳元でガウディの掠れた声がして慌てる。急いでガウディから離れようとすると、辺りが真っ暗になった。
「うそ・・・。」
リディはガウディの腕の中で呟く。
外の雨と風の音以外聞こえない。
電気が消えた。
「ニャー。」
足元にミアの気配がする。
「・・・停電・・したようだね。」
ガウディが又リディの耳元で呟く。ガウディの息が耳にかかり赤くなる。
良かった、真っ暗で・・・。
リディは落ち着く為に息をはき、ゆっくりガウディから離れた。ガウディの手が名残り押しそうにリディの腕を掴んでいる。
「蝋燭をとってくるわ。」
「見える?どこにある?取って来るよ。」
ガウディは人狼だ暗闇でも辺りが見えるんだろう。
・・・だがそれはリディも同じだ。ため息を押し殺し、頷く。
「ありがとう。キッチンとの間のカウンターに固めて置いているわ。」
ガウディは頷き、リディを離すと迷わずキッチンの所へ歩いていく。
リディは足元のミアをもう一度抱き上げ、窓を見る。
嵐は始まったばかりだ。
窓へ歩み寄り、カーテンを閉める。
外と中を遮断するように。
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