21話 預かりもの(後編)
「なんで、これ、攻撃が通らないんだよ!?」
「知らねえよ!! さっき応援は呼んだはずだから、もう少し時間を稼がねーと!!!」
隊員たちが苦戦する中、1人、魔族の前に飛び出す者がいた。
「李口班長!?」
「やぁああああああああ!!!!!」
李口と呼ばれた女性隊員は、自身の掛け声と共に2本の刀を構えて躍り出る。
彼女の刀と魔族の剣が交差し、火花が散る。
「私が……、手柄を!!!!」
幾度も衝突しては遠くへと飛ばされた。
李口だけがその魔族に食らいついているが、それでも傷一つつけられていない。
「そこ、どいて!」
上からの聞き覚えのある声に、彼女は驚き、顔を上げる。
「あ、碧先輩!!!???」
制服のネクタイが風に揺れる。
李口と魔族の間に勢いよく落ちてくるが、着地は猫のようにしなやかで───、瞬間、空気が変わった。
危険を察知したのか、魔族は間髪入れずに襲ってくる。それをアオは後退しながら回避して、李口から一本の刀を奪い取った。
間合いに踏み込んで、一振り。
魔力を纏ったそれは、魔族ごと剣を真っ二つに斬り落とす。
血に染まる魔族の体がずれて地に倒れる中、彼女は静かに刀を鞘へと戻した。
魔族を一瞥し、アオは目を細める。
「はい、これ。取っちゃってごめんね?」
アオに差し出された刀を受け取らずに、李口は拳を握りしめて唇をかんだ。
「……ぜ」
「ん?? なんか言った?」
「なぜ、倒したんです!???
あのぐらい、私1人で十分でした!!!」
「はぁ?」
呆れた目でアオが李口を見る。
「たしかに君1人なら接戦になるか、もしかしたら倒せたのかもね」
「もちろんです!! 私なら」
「班のみんなを見殺しにしたら、だけどね。
さ、君たちは帰ったら鍛え直しだよ」
興味がなさそうに手を振って去ろうとするアオにわなわなと体を震えさせ叫ぶ。
「碧先輩!! 私が、弱いって言うんですか!?
あなたに認めてもらうために、あなたを越えるため強くなろうとしてきたというのに……!!!!」
少し振り返り、アオの瞳が見える。
「……君が私を越える必要はないよ」
淡々と告げるその言葉は、特級魔法師という立場の重さを物語っていた。真剣で鋭いアオの瞳に、李口の瞳が揺らぐ。
「くっ……私はあなたに認めさせますから」
「……そう、頑張って」
控えめな作り笑いを浮かべたアオがその場を去る。その姿を悔しげに李口が鋭く睨んでいた。
「待って……!!」
走って追いかけてきた、帽子を深く被った隊員が息を切らしてアオに声をかけた。
先程、李口の側にいた若い隊員だった。
「俺、これを渡しにきたんです!」
彼が持つのは長い棒状の何かで、厳重に布で包まれている。
「これ、防魔布か。中は相当なものが入ってるようだね。でもその前に……」
防魔布は、名の通りだが、外に出しておけないほど強い魔力を防ぎ中和する力を持っている。
アオは笑みを浮かべたまま彼を見た。
「変装なんかして何してるの?? 那原」
「バレるの早っや〜。僕、結構腕上げたと思ったんだけどなぁ」
自作の変装マスクを剥がしながら軽く笑うのは、那原田貫。
3年前、入隊試験で合格したアオの同期であり、第零部隊の隊員だ。表向きには事務仕事や援護を行う第四部隊に所属している。
「でも李口にはバレてないんでしょ?
あれでも一応、第二部隊の先鋭だよ」
「あ、そういえばそうだね〜。とりま僕の任務はこれ。秘密裏に荷物を届けることだよ」
包みを渡され、ずしりと重みが伝わる。
那原の手から離れた途端───その包みは自然に開封され、中身の姿を顕にした。
その先端には透明の魔石が嵌め込まれ、神秘的に輝く。放たれたオーラは怪しげで、柄には精密に彫られた装飾が美しさに隠れた恐ろしさが滲む。
包みの中身は、長い杖だった。
「これは」
アオの指先が杖の柄に触れる。
一瞬だけ、彼女の瞳がかすかに揺れた気がした。
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