21話 預かりもの(前編)
「迷子に……なったかもしれない」
アオは廊下で1人、ぽつりと呟いた。
ちなみに今は授業中。魔物の気配を感じて教室から抜け出しはしたが、入り組んだ構造のこの学校を気配だけを頼りに歩くのは少々無理があった。
「全部突っ切っていいならすぐ行けるのに……。まぁなんとかなるか」
そう割り切って少し歩くが、10分ほど彷徨い、やっと開けた場所に出た。中央には大きな木があり、存在感がある。中庭である。
「ここ、3階なのに……さすが名門校」
アオが吸い寄せられるように中庭へ踏み入れ数歩歩くと、動きを止めた。
空気が張り詰める。
風が止まったような静寂。肌が少し粟立つ。
───威圧?? ……誰が。
木の木陰で男子生徒が寄りかかっていた。
しかし、アオはいままで認識できていなかった。つまり彼女を凌駕するほどの魔力隠蔽。
少年は目を細め、めんどくさそうに息を吐く。
「何の用?」
問われたアオはすぐに笑みを浮かべた。
「えぇと、勝手に入ってごめん。
良い場所だなと思ったからさ」
「へぇ。良い場所、ね。それには同意するよ。
……それよりお前、クソ急いでるみたいだったけど、いいのかよ?」
「あっ」
思い出したように彼女が声を洩らす。
「そうだ、君は知ってるだろうけど、いま魔物が発生しててさ。どうやって行けばいいか、教えてくれない?」
「あぁ?? めんどくせぇ。却下」
「即答かぁ〜」
興味なさそうに持っていた本に視線を戻した少年に、アオは肩をすくめ、軽く苦笑した。
「どうせお前1人で行けんだろ。お前みたいな頭がおかしい魔力の持ち主が周りをウロチョロされると気が散るんだ。とっととオレの前から消えやがれ」
「流れるような毒舌だね君」
アオがツッコむと、彼はため息をついた。
「まぁ、律儀に廊下を歩く意味はねぇと思うぜ」
その言葉にアオは、
「なるほどね」と呟き、口角をあげる。
「おかげですぐに行けそうだよ」
「……死んでもしらねぇぞ?」
「ははっ、私を心配するなんて。
私は霧山碧、よろしく。君の名前は?」
中庭をでながら背中越しに問う。
それでも彼は本から目を逸らさないまま名乗った。
「オレは、
近くの空き教室に入り、窓を開ける。
アオは枠に足をかけ──、一瞬冷たい風の音を感じた。
そして、 宙に飛び出した。
「たしかに、この方が早く下へ行ける」
校舎に隣接する体育館、もといコロシアムのような形の闘技場に目を向ける。
───いた。
「人の姿……だけど魔人のような威圧感はない……魔族か」
闘技場では、国防軍の隊員が魔物と交戦していた。黒い霧を纏い、剣を持つ魔族が異様な速さで隊員たちを追い詰めている。
その隊員たちは懸命に魔法を放つが、攻撃はことごとく捌かれていた。まるで歯が立っていない。
「これは……鍛え直しが必要だな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます