8話 鍵とダンジョンを探せ!!(前編)


「それは……この班を抜けるってこと?」



 目を細めるアオが慎重にきいた。



「せやせや!! 2人になってしもうたけど、霧山がいれば戦力として申し分ないやろ?? 私、ホントは隊員ってバレたらあかんし、丁度良い頃合いや」


「う……。で、でも!! 諸橋さんがいてくれたらすごく心強いのに…!!」


 兼得の言葉には、まだ戸惑いと焦りが滲む。


「それじゃ、そろそろさいならや!!

入隊したらまたどっかで会えるかもしれんな」


「ちょっと待って」



 去ろうとした諸橋を呼びとめるアオ。

 諸橋は背中を向けたまま足を止めた。



「第一部隊ってことは───、この班に入ったのは、伊津の命令?」


「何を想像してんのかわからへんけど。

伊津隊長はお前と敵対する意思はないで。あと隊長を呼び捨てにすんなや……もうええか??

ほんまにもう行かなきゃあかんのやけど」


「うん、世話になったね」


 アオの一言で、諸橋は逮捕した女性と共に吹雪の中へと消えていった。一方で、隣に立つ兼得は硬直したまま動けないでいる。




「お────い、大丈夫?」




 顔を覗き込んだアオが軽く肘で突くと、彼は慌てて声を上げた。



「ひぇっ、あの、!? 大丈夫です!!!」


「本当に??」


「き……、霧山さんはその、伊津隊長とお知り合いだってりするのですか??」


「いーや? 一方的に知ってるだけ。

さて、ぐずぐずしてる暇はないよ。2人になってしまった以上、他の班と合流して出口まで行くしかない。心配しなくても平気。もうすぐそこだ」




「は、はい!! がんばりま、す!!」




 アオが兼得に諸橋のかけた防寒の魔法をかけ直す。そこから少し歩くと、猛吹雪で視界が悪い中で、人口的に作られた地下に降りる階段のようなモノが見えてきた。



「これって……」


「うん。たぶん君が予想してる通り、

 ダンジョン、だろうね」



 その階段は金属で出来ており、階段は下へと繋がっている。中から、大量の魔力が感じられた。

 


「本当にこの中にあるんですか!?」


「んー、正確に言うと、既にこのダンジョン内に入ってる班が鍵を持ってるだろうね」


「えっと、つまり、鍵を奪うんですか?」


 アオの表情に少しだけ呆れが滲む。


「君、私の話聞いてた? 協力してチーム組むの。2人じゃ出れないでしょ」


「あ、そっか! そ、そういうことですね!!」


 こいつ話通じてないのか? と頭をよぎるが、言葉を呑み込む。兼得の握りしめた手が、小刻みに震えていることに気がついたからだ。


 自然と目を鋭くしたアオは、淡々と言った。



「……ここでやめる?」


「へっ??」


「いや、君がわざわざ危険な所に行く必要なんかないよ。何回か続けてたらもっと楽に合格できる時もあるかもだし。というか別に国防軍に入らなくても生きてはいけるんだ……よく、考え直すといい」


「いや、なんで急にそんなこと……」


「だって……君、震えてるよ。弱いから恐怖が増す。弱いから、いつでも逃げられるように、常に片足を一歩引いている」


「!!!」


「ほら、逃げなよ。今すぐにでもここから離れたい。体は、そう言ってるように見えるけど?」



 彼女の暗く濁る青い瞳が兼得を見据える。



「何か言いなよ……つまらないな」



 兼得は俯いたと思うと、アオを睨みつけた。



「ふざけないでください。誰がここでやめるなんて言葉にしましたか。僕が弱いとか、ヘタレだとか、チビだとか!!! そんなこと、今更言われても驚きませんから!」


「いやチビとは言ってないよ?」


「ですが、僕には、僕なりに国防軍に入隊したい理由があるんです!! もし、あなたが失格になり僕1人になったとしても必ず、合格してみせます!!!!」



「だから!!」



 赤みがかった短髪を揺らし、真っ直ぐな目でアオを見た。



「僕をバカにしないでください!!」



 時間がとまったような感覚。



 それほどに彼の心の底から出た声は、

 良く透き通ってアオに響いた。



「ははっ、意外とかっこいーじゃん。

 前言撤回。君は面白いね」


「面白い、って……」



 からかわれたと思ったのか、兼得がジト目になる。そんな彼の様子に、アオは楽しそうにけらけらと笑う。



「ごめんね、少し試したんだよ。覚悟もなく恐怖で固まってるような足手纏いなら置いていくか失格にしようと思ったけど、緊張してただけみたいで何より。思ったより芯があるんだね」



 アオは僅かに微笑み、兼得の肩に手を置いた。



「あっ、ありがとう、ございます……」



 兼得が、頬を紅潮させ目を泳がせるが、彼女はそれに気づいた様子もなくダンジョンへと目を向けた。



「中で手間取ってるみたいだね。行こうか」


「ちょっ、と、待ってください」



 彼の静止に、アオが眉を顰める。



「何? まだ私に言いたいことでもあるの?」



「僕が、先に歩いてもいいですか……?」



 兼得の目から、はっきりとした決意が感じられた。アオは再びふっと口元を緩めた。


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