平行線の煙草

OP

 喫茶グラントは排煙設備が整っているにもかかわらず全面禁煙である。


 これは店を始めるときに父さんが決めた事というのもあるが、現店長の俺が吸わないし、なによりその臭さで食べ物の匂いを消すからだ。

 ……壁や天井が黄ばんで掃除が面倒という理由もある。


 だというのに煙草がよく売れる。


 扱っているのは紙巻きタバコ、葉巻、水タバコと節操なく置いており、どれもよく売れるのだが、特に人気なのがパイプ用の葉タバコだったりする。

 だが湿度管理も面倒くさいので珪藻土ブロックと一緒にタッパーへ入れて水場の近くに置かないようしているだけの代物だ。

 しかも刻むのも面倒くさいので葉っぱそのままでの販売という手抜き商売にも程があるのに、タッパーごとをダース単位で買われるのだ。


 で。店内で使えないものをなぜ売っているのか、というのは……どういうわけか喫茶グラントウチには定期的に煙草農家から送られてくるため、在庫を掃かすべく卸よりちょっと高い価格で販売しているからだ。

 だから葉は売ってるけど器具は売っていない。


 今日もお高いブランド物の葉タバコが送られてきたので開梱作業をやっていると、通信が送られてきた。


『よお坊主、景気はどうだい?』

「ボチボチかな。今そっちから送られてきた箱の開梱中だよ。」

『おお、届いたか。今回のタバコは出来が良いぞ。自信を持って一級品と呼べる品だ。』


 通信を送ってきたのは煙草農家の大家、ホリゾンタルさんだった。

 カジノの経営が本業の筈なんだけど、何故かいつも農作業服を着ている。


 本人曰く「支配人に任せてるからいいんだよ。」らしいけど、その支配人さんがこないだオーナー不在で舐められたって、ボヤいてたよ。


「いや、一級品は良いんだけどあまりこっちに回し過ぎないでほしいな。卸や市場の売価に影響するからさ。」

『そいつは無理な相談ってヤツだな。俺には最高級品を親父さんの所へ贈る義務があんだ。』

「義務?」

『そうとも。お前の親父さんには非ッ常ォ~に世話ンなったんだ。その恩に報いるため俺が出来るのは農園の最高級品を贈る事くらいだからな。諦めて受け取ってくれぃ。』

「父さんに恩があるっていっても、別に命を救われたとかそういうわけではないでしょ?」

『どっこい救われてんだよな〜。それも俺だけじゃねえ、一家全員だ。』

「嘘だぁ〜」

『本当だ。俺達は間違いなくボイドのおやっさんに命を救われた。いい機会だから話してやろう。あれは闇カジノを経営しているときのことだ……』

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