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 ありゃあ、食い詰める寸前に始めた登録制の飲食物宅配の仕事をやってるときだった。


 あんときは配達先に迅速にこぼさず配達すればチップが貰えるんで必死こいて配達したもんだ。

 金が欲しいから反社だろうが、体制側だろうが、一般市民だろうが、上層だろうが構わずに配達して回ったんだ。

 それで、あるとき配達先が家じゃなく路上を指定されたんだ。


 こういう依頼は結構あって、隠れ家の場所を知られたくなかったり、善良な市民パンピーが踏み入れられない地区の配達なんかの場合に路上を指定されるんだが

 そのときは路上のパン屋を指定されたんだ。

 しかもコッペパン専門店だっていうんだぜ?すぐに潰れる事業起こしたアホがいると思うよな。

 その辺のストア行きゃいくらでも買えるものなんだからよ。



 それがそのパン屋……小型トラック軽トラを改造した小っさい屋台なんだが、売ってるものが白パンだったんだ。

 上層の奴らしか食えないはずの小麦で作られたパンを格安で売ってたんだよ。

 いや、さすがに黒パンよりは割高だったがよ?


 売ってるものは小さめのコッペパンの1種類のみ。だが色が白い。

 どうやって確保したんだか知らないが、小麦の白パンを手頃価格で食えるんだから人気にもならぁな。

 厳つい装備した傭兵が行列の整理してるのだけは違和感しかなくて笑ったがよ。


 とにかくそこに飯の配達をしたんだが、店主あいつがうんざり顔で注文をさばいてるんだよ。

 どこに在庫しまっているんだって位の量を昼前から夕方までな。


 何度か配達するうち、その店の商売を観察してたんだが、面白いことに店主はどこの通貨でもパンを売ってくれてたんだ。

 それこそ、星の裏側の都市通貨でもだ。



 ヴァリアントお前は企業通貨と都市通貨の違いを知っているかもしれんが、改めて説明するとだ。

 企業通貨ってのは都市を支配している企業が発行する通貨だ。

 旧企業体という縛りはあるが支配下の都市であれば大抵通用する通貨なんだが、上層の連中しか決済できない。


 都市通貨ってのはそのまんま、都市の通貨。

 その都市でしか使えないローカルな通貨だ。

 俺達一般市民は普段こっちを利用しているんだが、都市から離れることは滅多に無いから問題ねえ。


 しかし、旅行や出張で他都市の通貨を両替し忘れちまった場合は、そりゃあ悲惨なことになる。持ってるカネが紙くずになるわけだからな。

 そんな事情もあって両替忘れて紙くずになった他都市の通貨を利用できるパン屋ってのは流行ったんだよ。


 そうしたら当然出てくるマフィア共だ。

 店主が雇っていた傭兵が返り討ちにして都市治安警察にしょっ引かせていたまでは良かったんだが、そのうち客に対して嫌がらせが始まってな。


 パン屋自身が自己防衛といって護衛の傭兵を雇っていた事からもどれだけ治安が悪かったかは想像できるだろう?

 店を巡って都市治安警察とマフィアとの間で協定が結ばれるまでの数ヶ月はそりゃあ地獄だった。

 戦渦に巻き込まれているにもかかわらず営業を続けていた店主は今でもどういう神経してたんだかわからねえ。



 でだ。

 抗争中そのパン屋に配達へ行けるだけの度胸ある奴が俺しか居なかったんで、特別手当なんか出て食いつなげていたんだが、ついに協定が結ばれて抗争が終結。

 パン屋付近を互いに中立地帯となったんだ。


 協定?

 都市治安警察の動員規模にマフィア側が折れて、みかじめ料を取らないとかだったかな。

 パン屋が護衛に雇っていた傭兵が地域でも有名な奴らだったんで手を出すにはリスクが高かったみたいな話も聞いたが、まぁあくまでも噂だ。



 とにかく、抗争が終わったんで俺の仕事も終わりって言われてな、配達最後の日にパン屋へ挨拶したんだよ。

 そうしたら店主が「じゃあパン屋の接客飽きたんで替わってくれ」って言うんだ。


 仕事がなくなった俺はそれに飛びつき、パン屋の店員として再スタートを切ったんだ。

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