第42話 告白

「やっほー、るぅ! 元気!」


 飾が突然俺の部屋に入ってきて、ベッドにダイブした。

 別に普段からいるわけではないけれど、ここまでテンション高いのも珍しい。

 というより、夕食の時とのテンションの差が不気味だ。

 なにかあったのかな?


「普通に元気だけど」

「そっか、それはよかった」

「…………」

「…………」


 いや、なんか言えよ。

 別にムリに会話を繋げなくてもいいけど、いきなり部屋に来ておいて無言はちょっと怖いぞ。


「え~っと……」


 俺のベッドの上で、飾がもごもごと口を動かす。


「宿題は終わった?」

「今やっててもうすぐ終わる」

「そう。じゃあ、終わったら大事なお話があるので……」


 大事なお話……そういう前触れから始まるのは、あまり良い予感がしないのだが。

 気が気でなくて、問題が急にわからなくなってきた。

 さっさと空欄だけ埋めてしまおう。


「終わった……それで、話って……なにか怒られるようなことしましたでしょうか?」


 心当たりはある。いくらでもある。

 一緒に暮らしていれば、なにかしらの問題は常に起こり続けるものだ。

 俺が小さなことだと思っていても、飾にとっては許せないことというケースだってあるはずだ。


「別になにもしてないと思うけど。なにかあるの?」

「いえ……たぶんなにも」

「ふぅん?」


 これはカマをかけられている?

 自白したら「悪いと思ってるなら自分から謝りに来なさい」と言われ、自白しなければ「無自覚が一番タチが悪い」と怒られる。

 最悪なのは、自白した内容が飾の考えているものと別のパターンだ。怒られる内容が二倍に増える。

 くっ……もしかして、すでに詰んでいる?


「るぅ、ちょっとこっちに来て」


 ぽんぽん、とベッドの上を手でたたく飾。

 俺がそこに座ると、飾は正座した。正面から、じっと俺の目を見てくる。

 怒っている感じではないが……。


「えっと……」


 どうせ処刑されるなら、先手で謝るべきか?


「これからとてもまじめな話をします。だから、ちゃかさないでください」

「あ、はい……」


 先手をとられてしまった。

 後はまな板の上の鯉か……。


「最初にるぅがあたしにキスをしてから、すでに三か月以上が経ちました」

「……はい」

「交際をお断りしてから一か月半が経ちました」

「……そうですね」

「断ったにも関わらず、デートしたりキスしたり、お風呂まで入ったり。かなりおかしな関係を続けてきました」

「……そうですね」

「こういう説明しにくい関係をいつまでも続けるのはよくないので、そろそろ終わりにしましょう」

「………………えっと、それはつまり」


 もうキスしないで、って意味?


「これからは、正式に恋人としておねがいします」

「………………え?」

「どうしてそんなに意外そうな顔をしているの? もっと喜んでよ。るぅが待ってた言葉でしょ?」

「そうだけど、突然過ぎて……」

「るぅにとっては突然かもしれないけど、あたしにとってはいろいろ考えてのことなの。まぁなにを考えたかは、気が向いたらそのうち教えるかもね。それより、あたしの返事、受け入れてくれるわよね? 今さら『やっぱやめた』なんて言わないわよね?」

「言うわけないよ。言うわけないけど……急すぎてまだ頭が追いついていないんだよ」

「しょうがないなぁ。じゃあ、わかりやすく教えてあげる」


 そう言うと、飾は俺の唇にキスしてきた。

 キスはこれまで何度もしてきたけれど、飾の方からしてきたのは初めてだ。


「これでわかった?」

「……うん」

「ならよかった。じゃあ、もっとしよう?」


 飾は俺をベッドに押し倒して、さらに激しく唇を貪るように求めてきた。

 唇が離れてから、飾はぺろりと舌で自分の唇を舐める。

 なんだこれは……飾がこんなに積極的だなんて。

 余計にわけがわからなくなってきた。


「熱でうなされてる?」

「失礼な。キスは前から結構好きだったのよ。だから、なんだかんだ断っていなかったでしょ?」

「たしかに……」

「あんまり許していたら、るぅが調子に乗ると思ってね。それに、あたしとのキスにるぅが飽きちゃってもさみしいし。だから、なかなか許さないことでレアにしておこうと思って。でも、今は考えが変わったんだ。キスに飽きたら飽きたで、なにか新しいものが手に入るような気がするんだよ」

「それって?」

「わかんない。もしかしたら、触れ合わなくてもキス以上の繋がりを感じられるようになるってことかも? とにかくね、あたしはもう怖れないことにしたの。だから、飽きるくらいたくさんキスしたい。いいよね?」


 飾の突然の心境の変化がどこから来たのかわからない。

 でも、断るはずなどない。

 言葉での返事の代わりにキスをした。

 そのまま抱き合い、長い時間キスをした。

 これまでしたどんなキスより深いキスを。

 まるで夢のよう。

 実は俺は眠っていて、これは夢オチってことはないだろうか?


 それならそれでもいい。

 夢ならこの状況に全力で乗るだけだ。

 もちろん現実でも同じ。

 ならば、なにも迷うことはない。


「飾はこれからずっとこんなに積極的になるの?」

「どうだろ? 今日は勢いに任せてるところがあるから、明日からはもっとおとなしくなるかも」

「ならよかった。飾にここまで強く迫られたら、俺の体が持たないから」

「でも、今までよりは積極的になるよ」

「そんなに顔を真っ赤にしながら?」

「えへへ……うん」


 はにかんだ後、飾はすっきりした顔で立ち上がった。


「じゃあ……風呂に入ろうか?」

「一緒に?」

「そうだよ。うれしいでよ?」

「うん……水着は?」

「え~っ、どうしよっかなぁ」


 飾は笑い、一度自分の部屋に戻ってお風呂用の道具を持ってきた。

 そこに水着が入っていたのかどうか。

 それは俺たちだけの秘密にしておこう。






――――


 ここまで呼んでくださってありがとうございます。

 ふたりの関係がひとつ進んだところで一度物語を締めさせていただこうと思います。

 前作の「アイドルは今日もうちに来る」よりも多くの方に読んでいただけて大変ありがたく思っております。


 近いうちに新作を投稿しようと思いますので、そちらでまたお会いできれば。

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大好きな義妹が他人になった 宵月しらせ @Yoizuki-Sirase

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